氷河期ではなかったけど 【02 ヒューマンドラマ】
H県の県立大学を卒業して、大阪か福岡か、ダメなら地元のH県に就職しようと思っていた。
しかし、現実は厳しかった。学費が安いだけが取り柄の県立大学卒の私に、それだけの選択肢はなかったのだ。
就職活動の早い段階でそれを感じ取った私は、希望地域の縛りを早々に外した。それが良かったのか、悪かったのか。
結果的に、唯一ひっかかった会社は東京の池袋に本社を構えるWEB広告を扱う会社だった。
「IT系じゃん。それに東京でしょ? すげーじゃん」
不本意な結果だったのに、大学の友達たちはなぜか色めきたった。
え、そうなの? これってそんなに悪いコースじゃないの?
周囲にのせられ、東京にやってきた。
しかし、現実はやはり甘くない。営業事務と聞いていた仕事の内容は、ほぼ営業だった。
事務までやらされるから尚たちが悪い。だまされたと思ったのと、会社のホントの離職率を知ったのは同時だった。
一年弱で最初の仕事を辞めた女子に、世間の目は厳しかった。
また、続かないんじゃないのお?
はっきりとは言わないが、面接ではそんな雰囲気を何度もぶつけられた。当然、みんなが望むようなホワイトな会社にはひっかからなかった。
次の会社では事務職だったが、みなし残業というなぞのシステムを採用していて、長時間労働を強いられた。
時給に換算すると、千三百円ほどでこき使われていた。派遣のがましだと思った。でも、非正規は体裁がわるい。
苦しかった。二年ほどへばりつくように我慢して、派遣に堕ちた。そっちのほうが幸せになれる気がした。
後悔はなかったが、「私のなにが悪かったの?」と派遣を何かとバカにする世間への反発が急速に胸の中で膨らんだ(自分もどこか下に見ていたくせに)。
努力すれば報われる。そんな甘い思考は中学生の頃に捨ててはいるが、この苦しさはまた違うところから発生している。
努力しても皆が報われなければいいのに。うまくいくやつが出るから困るのだ。
うまくいくやつが出るから、うまくいかない人間は努力が足りないという話になる。
格差社会なんてことばにもイライラする。
どんな会社に拾われるか、どんな道に迷い込むか・・・本人の思考や努力とは別のところで、人生の成否は決まっていく。
東京は過酷な街だと、住んで十年経って、本当に思う。