Let's start study! 【01 恋愛】
日本の最高学府の遺伝子研究を引き継いだベンチャー企業の研究室は、いつも信じられないほど騒がしく、研究室のイメージからはほど遠いが、盛んに意見を言い合うメンバーを主任研究員である私は好ましく思ってマネジメントしている。
夫は大手予備校の人気講師だが、授業はすべてリモートで行っていて、今は真鶴に住んでいる。
私は週末になれば東京を離れ、真鶴まで彼に会いに行く。
シングルマザーの母は場末のスナックのママ、中二まではヤンキー爆発だった私が、どうしてこんな人生を歩んでいるかというと、それは今の夫の才能のおかげとしかいいようがない。
夫は人に勉強を教える天才だ。もちろん自身も頭が良いのだけれど、彼の才能に比べるとそれは物足りないものだ。
それぐらい人にモノを理解させるのがうまい。
真面目だがイケメンということでモテていた夫が私に告ってきたのは中二になったばかりの春だった。
いつもつるんでいた友人の沙雪ちゃんも初めての男ができて浮かれていたし、置いてきぼりになるのが嫌だった私はこの申し出を受け入れ、彼と付き合った。
「ずっと樹利亜ちゃんと一緒にいたいんだ。だから勉強して」
「え?」
「一緒に東京の大学に行こう」
「マジすか」
「マジ」
呆れる私に彼は辛抱強く勉強を教え始めた。つまらないとすぐに投げ出そうとすると、絵の得意な彼は教科書や問題集にかわいらしい動物キャラをかきこんだりして私の関心をひいた。
また、意外にも演技派だった彼はこちらを泣き落そうとしたり、熱血に弁をふるったり、オネエのように振舞い私をディスったりして笑わせた。
私は呆気にとられたり、笑い転げたりしながら、勉強にのめりこんでいった。
学年でドべのトップ40に入っていた私が、彼と同じ県内トップの県立学校に合格したとき、彼は私に「ありがとう」と頭を下げた。