表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Alice in Mgical kingdom

ある賢者のお話

作者: 理春

昔々ある王国に、300年以上生きる賢者がおりました。

他の誰よりも多くの魔力を持ち、あらゆる魔術を操る彼は、王国一の魔術師でした。

かつて彼は、100年間にも及ぶ戦争で、数多の命を奪い、仲間を失いました。

そして国民を守ることが出来た代償に、愛する人の命をも失ったのです。


賢者は終戦後、玉座の前でこう言いました。


「この怒りを鎮めることが出来ない今、私は感情を取り出すこととします。」


女王様も臣下たちも呆気にとられていた時、賢者は自身の胸に静かに手を当てました。

まるで忠誠を誓う騎士のように、ゆっくり目を閉じると、淡い光が広がり、彼と瓜二つの青年が隣に現れたのです。


感情を取り出すという行為は、魔術で感情を形作ることでした。

それは彼と同じように動き、話し、簡易な魔術さえも操る、身代わりに等しいものでした。

そして賢者の美しい青い瞳は光を失い、深い紫色に変わりました。

同時に、戦争で起こった多くの出来事も、記憶から失くしてしまったのです。


女王様も臣下たちも、その場にいた魔術師たちも皆、彼に驚き、恐れました。

けれども、強力な魔術を使う賢者を、国が手放すわけにもいかず

生涯王国を護る誓いの元、彼は英雄として讃えられ、生かされることとなったのです。


感情を失った賢者は、王宮ではなく、国の外れにある小さな町の、さらに外れにある森に、ひっそりと住むようになりました。

魔術師になる前医者だった彼は、一人きりで住むその家で、医療魔術の研究に励みました。

戦争が無くなった今、病で誰も苦しまないように。

また彼は、自分の多くの魔力を使って、王国を覆うほどの結界を張りました。

戦争が無くなっても、他国からの攻撃を受けないように。

そして国の祭典や式典があるときは、いつも女王の隣に、自分ではなく「身代わり」を立たせました。

戦争が終わっても、戦争から生まれた自分を忘れさせないために。


100年間に及ぶ苦しみの果て、彼が辿ることとなった生き方は

自分を「生きているように見せること」でした。

感情を消してしまっても、人々にとっては王国を護りぬいた英雄。愛と誓いを持った「賢者」だと、皆信じていました。

けれども賢者には、戦って失ったものも、得たものも、記憶すらも曖昧で

それを裏付ける感情も消してしまいましたので、かつての賢者は存在していませんでした。


やがてどれだけ歳月が経った頃か、彼は自分がようやく「人間」ではなくなったのだ、と気づき安堵しました。

彼はただ「賢者」として、それからを生きていくのです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ