006 どうあがいても初夜から逃げられそうにありません
時刻はすでに深夜を回っています。
シャーリーさんの説明を聞き始めてから、数時間が経過したことになるのだけれど――。
「ああもう、疲れたああぁぁぁ! そんなにいっぺんに覚えられないー!」
髪の毛をクシャクシャにしながら、私はソファへと身を沈めていきます。
こんなに勉強したのって一体いつ以来なのだろうか……。
まさか三十路前になって学生時代に習ったはずの教育内容を復習することになるなんて……。
「ふふ、まあ全部覚えなくとも大丈夫ですよ。実際には私と合体をしている状態で必要となってくる知識ですから、職業紹介所から仕事の依頼があった際に使うくらいでしょうし」
「あ……。そうだ、借金を返すためのお金を稼ぎに、明日は職業紹介所にも行かなきゃいけないんだった……」
あと三日以内に借家の不動産会社に手付金を振り込まないと、差し押さえられたままの家財が全部競売に出されてしまう……!
現時点で私の能力で紹介してもらえる仕事が居酒屋でのバイトだけだったんだけど、そこもクビになっちゃったし……。
「ならば私たちの力試しにぴったりのお仕事を探してもらいましょう。そこに勤めている古い友人がおりますので、ユウリのことも紹介しておきたいですし」
「あ、ホントに? うわ、すごい助かる~。じゃあ、今夜はもうこれぐらいにして、明日に備えて早めに寝ておかないと!」
そう言い元気良く立ち上がった私。
しかし何故か動けません。
だって私の服の裾をシャーリーさんが掴んで放さないから。
「……シャーリーさん?」
「何かお忘れではありませんか、ユウリ?」
下から私を見上げてそう言うシャーリーさん。
その目は少しだけ潤んでいて、女の私でもドキっとしてしまうくらいに色気に溢れております。
「えーと……うーんと……何だっけ」
とりあえず誤魔化すために彼女から目を逸らします。
でも全然服の裾から手を放してくれません。
「結婚初日にしてはまずまずの新婚生活でしたわ。座学ではありましたが、これも立派な愛の育みです。時間は多少押しましたが、もう私達は一つになれるはずです」
「一つに……なれる?」
ついゴクリと喉を鳴らして生唾を飲み込む私。
その様子を見てか、シャーリーさんは優しく微笑んで私の手をそっと握りました。
「ひっ……!」
「怖がらないで、ユウリ。最初は誰でも緊張するものですわ。ほら、見てください。スキルレベルが0から1に上昇していますわ」
私の手を取ったまま、彼女は自身の胸の膨らみにその手を誘います。
そして徐々に私の目の前に彼女のステータスが表示されていきました。
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【Rare】 LR 【Name】 シャーリーレイド・オルタナティヴ(グラムハート) 【AB】 闇 【SL】 1/100
【AT】 全技能型 【CH】 深淵にて覗き見る黒き龍
【ADT】 二刀魔神剣 【DDT】 暗黒魔装
【HP】 54/99999 【SP】 15/9999 【MP】 8/9999
【ATK】 12/9999 【DEF】 10/9999 【MAT】 8/9999 【MDE】 9/9999
【DEX】 2/999 【AGI】 4/999 【HIT】 3/999 【LUC】 1/999
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「ほ、本当だ……。うわぁ、すごいすごいー……」
シャーリーさんは私の手を自身の胸に置いたまま放そうとしません。
それどころかちょっとずつ指を絡めてきているくらいなんですが……。
アカン。これはアカン流れになってきた。
「まずはお互いに全身を清めるために一緒にシャワーを浴びましょう」
「いいいいやいやいや! 一人で入る! 一人で入れる!!」
「一人で、ですか? どちらにせよ、そのまま二人で初夜の儀式を行うのですから、お互い裸のままのほうが都合が良いと思うのですが」
「ははは裸!?!? 儀式って、お互いに裸でやるの!!??」
「はい。合体ですから。何か不都合でも御座いますか?」
キョトンとした表情で私を見るシャーリーさん。
いやいやいや!! 不都合しかないでしょうそれ!!
ていうか『合体』ってやっぱそういうことなの!?
あまりにも怖すぎて質問してこなかったけど、やっぱその、普通は男女の行使者と使役者でするくらいだから、その、あの、それはええと、つまり、そういうこと!??
え? どうしたら良いの私……!!
全然心の準備とか出来ていないんですが……!!!
「……私とでは、嫌、でしょうか」
「いやいやいや!! そういうことじゃないでしょうに!!!」
「では『宜しい』ということで受け止めても?」
「受け止められても困るのよ! ああもう、ちょっと、ちょっとだけ時間を下さい……!!」
「? 構わないですが、念のため部屋に鍵を掛けさせてもらっております」
「逃がさないつもり!? ……いや、もうここまで来たら逃げるわけにもいかないんだけど……!」
――万事、休す。
お父さん。お母さん。本当に、ごめんなさい。
あなた方の娘は今夜、女性のひとと、合体します――。
諦めたような笑いを浮かべたまま、私はシャーリーさんに手を取られて一緒にシャワー室へと向かうことになりました。
〇アーマータイプの種類(全七種)
【近距離攻撃型】物理系の行使者に備わっている近距離攻撃に特化した能力
【中距離攻撃型】物理系の行使者に備わっている中距離攻撃に特化した能力
【遠距離攻撃型】物理系の行使者に備わっている遠距離攻撃に特化した能力
【攻撃魔術型】魔術系の行使者に備わっている攻撃魔術に特化した能力
【防御魔術型】魔術系の行使者に備わっている防御魔術に特化した能力
【回復魔術型】魔術系の行使者に備わっている回復魔術に特化した能力
【全技能型】全ての技や魔術に精通した行使者にだけ備わっている能力。特化型に比べ威力は半減する。ただしLRの行使者が全技能型だと威力は特化型と同等となる