005 シャーリーさんは最強のチートキャラのようです
「……はぁ。もうなんかどんどん『お嫁さんになる』っていう私の夢から離れていく気がする……。どうしてこうなった……?」
高級ソファに全身を預け、死んだように目を瞑る私。
まさか三十路手前になって女の人と結婚したかと思えば、私の持つスキルが『一夫多妻』だったなんて……。
こんなことになるんだったら男の子に生まれてくれば良かった……。
お父さん。お母さん。あなたがたの娘は性別を間違えて生まれてきたみたいです……。
「まだまだレクチャーは沢山ありますが、続けても宜しいでしょうか?」
「あ、はい。もう何でも来いです……」
どうにか身を起こしシャーリーさんから説明の続きを聞かせてもらいます。
こうなったらヤケクソでもいいから彼女と離婚できる方法を見つけて、絶対にイケメン年下男子を落としてやるんだから……!
もう不遇なのは慣れっ子だもん!
自棄になって暴走する私に怖いものなんて、この世には無いんだから!!
「ちなみに、ユウリはどれくらい私の事を御存じなのでしょう?」
「ほえ? あー……うん。オルタナティブ家の令嬢だってことと、世界最強の二刀流剣士……とかだっけ?」
「……随分ふわっとした情報なのですね。ちょうど良い機会です。私の基本情報を接触して調べてみてください」
「接触? どうやって?」
「私の胸の上あたりに掌を当ててもらえれば、ユウリの目の前に行使者である私の基本情報が浮かび上がるはずです」
「……うん。もうさ、それってほとんどセクハ――まあいいわ。皆まで言わない」
「??」
首を傾げるシャーリーさん。
もう分かったから。可愛い可愛い。そういうのもう要らない。
私は諦めた表情を浮かべてシャーリーの大きな胸の上に掌を当てます。
「……ん。どうでしょうか? 何か見えてきましたか?」
「うーーーん……。あ、だんだん見えてきた」
最初はぼやけていた行使者の情報が次第にくっきりと目の前に浮かび上がってきます。
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【Rare】 LR 【Name】 シャーリーレイド・オルタナティヴ(グラムハート) 【AB】 闇 【SL】 0/100
【AT】 全技能型 【CH】 深淵にて覗き見る黒き龍
【ADT】 二刀魔神剣 【DDT】 暗黒魔装
【HP】 0/99999 【SP】 0/9999 【MP】 0/9999
【ATK】 0/9999 【DEF】 0/9999 【MAT】 0/9999 【MDE】 0/9999
【DEX】 0/999 【AGI】 0/999 【HIT】 0/999 【LUC】 0/999
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「…………」
「一つずつ、順を追って項目を説明しましょう。まず【Rare】ですが、行使者にはあらかじめ八つのランクが備わっております。ランクが低い順から――
N(ノーマル)
HN(ハイノーマル)
R(レア)
HR(ハイパーレア)
SR(スーパーレア)
SSR(スペシャルスーパーレア)
UR(アンリミテッドレア)
LR(レジェンドレア)
――となります。このランクはそれぞれの行使者が生まれ持ったものですから、今後変化することは基本的にはありません」
淡々と説明を続けるシャーリーさん。
でもすでにもう私は頭の中がパニックになってしまっています。
「各レア度が備わった行使者は生まれてくる数が国ごとに決まっており、ハートルディアの世界にある十カ国はすべて同じ力の均衡の元で平和が成り立っている、というのは使役者、行使者共に義務教育で教わる内容となります。ここまでは宜しいですね?」
何も反応が無い私を見て、一応確認をとってくれるシャーリーさん。
さすがに私もこの辺の話は学生時代に習ったので知っていて当然なんですけれど――。
――私の頭がパニックになっているのはその部分じゃなくて。
「ちなみに私のレジェンドレアというランクは各国に一人しかおりません。なのでここ、『オルビス皇国』の出身である行使者の中でLRであるのは私だけ、ということになりますね。私が『世界最強』というのはそういう意味から来ているのだと思います」
「……は……はは……」
もう何というか、今朝からずっと驚きっぱなしで脳の感覚が麻痺してきているのかも知れません。
確かにマッチングで表示されたときに『世界最強の名を欲しいままにした行使者!』とか表示されてたけど、そういうのって大袈裟に言ってるだけなのかと思って本気にしてなかったから……。
ほら、良くあるじゃん。婚活で自分を相手に良く見せるためにちょっとホラを吹いちゃうやつ。
年収をちょっと盛ってみたりとか、顔写真をちょっと加工して可愛く見せたりとか。うん。
「――ていうか、オルビス皇国最強の剣士ってこと!? たった一人のレジェンドレア!??」
「あ……。ちょっとユウリの唾が私の顔に……」
懐からハンカチを取り出したシャーリーは顔色一つ変えずに、整った綺麗な顔を軽く拭きます。
アカンぞ……これはアカンぞ!
そんな女性行使者と結婚したい男なんて世界中に山ほどおるやんか……!
そんな人と私が結婚して、しかもユニークスキルのせいで私が死なないと離婚できないなんて知られたら――。
――間違いなく私、暗殺される?
「……ちょっと待ってね。一旦落ち着こう。深呼吸、深呼吸。ひっひっふー、ひっひっふー」
「お飲み物を御用意致しましょうか?」
「あ、うん。お願いします。喉カラッカラなので」
「ふふ、じゃあ少しだけお待ちくださいね」
そう言い席を立ったシャーリーさん。
その間に私は何度も呼吸を整え、彼女の基本情報と格闘します。
「【AB】はたぶんアトリビュートで『属性』っていう意味よね。……ええと、あったあった」
資料の巻末のマニュアルを探し、属性についての説明を読みます。
属性は全部で十種類あって、それぞれ得意や苦手とする属性があるらしいですね。
ちなみにマニュアルにはこんな感じで表が書いてありました。
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『火』←『水』←『雷』 『光』←『闇』
↓ ↑ ↓ ↑
『氷』→『風』→『土』 『神』→『天』
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まあこのくらいだったら大体分かるかも……。
要は『火は氷には強いけど水に弱い』みたいな感じだよね、たぶん。
シャーリーさんの属性は闇属性みたいだから、光属性には強いけど天属性には弱いってことかな。
「後は……分からないから飛ばしてー……あ、でも【HP】とか【ATK】とかは何となく分かるな。……ていうかHP99999って何……?」
でもよく見たらその横の数字は『0』になってるんだよね……。
あーでもそうか。熟練度を上げれば本来のシャーリーさんの力を徐々に発揮できるようになるって感じなのか。
なんだっけ……。確か【愛の育み】とか言ってたっけ……。
「ああもう! こんなことなら、もっとちゃんと学生時代に授業を聞いてるんだった! ……毎回赤点で、良く卒業できたよな、私……」
「お待たせいたしました。飲みながらで構いませんので、続きを始めてしまいましょうか」
テーブルに冷たいレモネードを用意してくれたシャーリーさん。
そして再び基本情報のレクチャーが始まりました。
〇用語解説
【Rare】レア/行使者のランク。N(ノーマル)からLR(レジェンドレア)まで全八種類が存在する
【AB】アトリビュート/行使者の属性。火や闇など全十種の属性が存在する
【SL】スキルレベル/行使者の熟練度。使役者と結婚し愛を育むことにより数値が上昇する
【AT】アーマータイプ/行使者の攻撃タイプ。近距離攻撃型や回復魔術型など全七種が存在する
【CH】クロスハート/行使者の秘奥義。熟練度が100になると使用することが可能
【ADT】アタックドレスタイプ/行使者の武器タイプ。膨大な種類が世界中に存在する
【DDT】ディフェンスドレスタイプ/行使者の防具タイプ。膨大な種類が世界中に存在する
【HP】ヒットポイント/行使者の体力。ランクやドレスタイプにより最大HPの数値は変動
【SP】スキルポイント/行使者の気力。ランクやドレスタイプにより最大SPの数値は変動
【MP】マジックポイント/行使者の精神力。ランクやドレスタイプにより最大MPの数値は変動
【ATK】アタック/行使者の攻撃力。ランクやドレスタイプにより最大ATKの数値は変動
【DEF】ディフェンス/行使者の防御力。ランクやドレスタイプにより最大DEFの数値は変動
【MAT】マジックアタック/行使者の魔術攻撃力。ランクやドレスタイプにより最大MATの数値は変動
【MDE】マジックディフェンス/行使者の魔術防御力。ランクやドレスタイプにより最大MDEの数値は変動
【DEX】デクスティアリィ/行使者の器用さ。ランクやドレスタイプにより最大DEXの数値は変動
【AGI】アジョル/行使者の素早さ。ランクやドレスタイプにより最大AGIの数値は変動
【HIT】ヒット/行使者の命中率。ランクやドレスタイプにより最大HITの数値は変動
【LUC】ラック/行使者の運。ランクやドレスタイプにより最大LUCの数値は変動




