035 敵の必殺技をモロに喰らって瀕死の状態です
『ニクゥ……クワセロゴバァァ!!』
『ユウリ! 左に避けるニャ!』
「うん……!!」
ミーシャの指示に従い私は瞬時に身体を捻ってシャドウロバースの攻撃を避けます。
もうかれこれ十回は同じ作業の繰り返し。
さすがに息が切れてきたし、段々と私の動きもキレが無くなってきています。
「はぁ、はぁ、はぁ……。ま、まだスキルレベルは60にならないの……?」
『あともう少しだニャ。次の攻撃を避けることができれば、たぶん60まで届くはず――』
そこで不意に言葉を失うミーシャ。
でもそれがどうしてなのかを聞くまでもありませんでした。
『……イイカゲンニ……ソノシンセンナ、ニグヲォォォォォォォ…………!!!』
「な、なんかバキバキと音がしてる……。何が始まるの……?」
まるで全身の骨が折れているような不快な音を響かせるシャドウロバース。
そのたびに赤い血が飛沫を上げて洞窟内が赤く染まっていきます。
『……!! ユウリ、避け――』
「――へ?」
バギン、という音が鳴り響き、奇怪な動きをしていたシャドウロバースの腹が斬り裂かれ。
そこから巨大な口の真っ赤な生き物が飛び出してきたかと思えば、そのまま私はその巨大な口に身体の半分を喰われてしまい――。
「ひっ……!? 腕が……私の左腕が……!!!」
『落ち着くニャ……! まだHPは残っているのニャ!』
想像を絶する痛みに悶絶し、地面を転がりまわる私。
どうやらまだ腕は嚙み千切られてはいないようだが、もはや失神する寸前まで来てしまっている。
私は倒れたまま震える右手で自身の胸に手を当てて状態を確かめる。
----------
【Rare】 N 【Name】 ミーシャ・レオリオン 【AB】 神 【SL】 60/100
【AT】 近距離攻撃型 【CH】 猫に小判とマタタビを
【ADT】 祖父の形見の猫爪 【DDT】 獣人族の軽装
【HP】 5(-217)/295 【SP】 8(-31)/40 【MP】 25/25
【ATK】 66/75 【DEF】 23/26 【MAT】 13/15 【MDE】 18/20
【DEX】 86/100 【AGI】 70(-14)/113(+125%)『鈍足』 【HIT】 3(-14)/20『暗闇』 【LUC】 23(+13)/13『強運』
----------
残りのHPは僅か5――。
つまり、シャドウロバースの今の一撃で私が受けたダメージは216だ。
『スキルレベルが上がってHPが上昇していなかったら、一撃でやられていたのニャ……。きっと今の攻撃はATK補正が200%の必殺技みたいなものだったと思うニャ。奴のATKと私のDEF値から逆算したら答えが出るのニャ』
「……あの、ミーシャさん。私、死にかけてるんですけど……。冷静に計算するの止めてもらっても良いでしょうか……」
『あっ……ご、ごめんニャ。でもまだ負けと決まったわけでは無いのニャ。今のが必殺技だとしたら、二発目を打つまでには相当なクールタイムが必要なはずなのニャ。つまり、ユウリがまた奴から攻撃を受ける可能性は限りなくゼロに近いのニャ』
「で、でも……。どんどんAGIもHITも減っていくし、時間稼ぎをしたってどんどん不利になるってさっきミーシャが言ってたし……」
いくら敵の通常攻撃を喰らわなかったとしても、さっきの必殺技がもう一度きたら、そこで私とミーシャは一緒に天国行きだろう。
でも早く倒そうにも相手のDEFの壁を突き破ることは難しい。
つまり、万事休す――。
『ユウリ、忘れていないかニャ? スキルレベルが60に到達したのだから、アーマースキルを確認するのニャ』
「あ……」
私はミーシャに言われるがままアーマースキルの項目をタップして情報を表示させます。
----------
【ADT】 祖父の形見の猫爪
【SL】 10/100
◆ 『ピリピリとした爪の傷跡』
効果:ATK補正125% 消費SP:5 追加効果:『麻痺』
【SL】 20/100
◆ 『プニプニとした肉球の連撃』
効果:DEX補正125% 消費SP:7 追加効果:『脱力』
【SL】 30/100
◆ 『フサフサとした猫の手』
効果:MAT補正125% 消費MP:6 追加効果:『治療』
【SL】 40/100
◆ 『猫も杓子も』
効果:全てのステータス補正を解除 消費SP:10 追加効果:『強運』
【SL】 50/100
◆ 『窮鼠猫を噛む』
効果:HP補正-50% DEF補正-50% MDE補正-50% ATK補正300% 消費SP:15 追加効果:『魔獣キラー』
【SL】 60/100
◆ 『猫の手も借りたい』
効果:SP補正125% 消費SP:5 追加効果:『充足』
【SL】 70/100
【SL】 80/100
【SL】 90/100
----------
----------
【DDT】 獣人族の軽装
【SL】 10/100
◆ 『獣人の脚力強化』
効果:AGI補正125% 消費SP:3 追加効果:『闇属性ダメージ回避』
【SL】 20/100
◆ 『獣人の腕力強化』
効果:ATK補正125% 消費SP:3 追加効果:『火属性ダメージ回避』
【SL】 30/100
◆ 『獣人の精神強化』
効果:MDE補正125% 消費SP:3 追加効果:『光属性ダメージ回避』
【SL】 40/100
◆ 『獣人の忍耐強化』
効果:DEF補正125% 消費SP:3 追加効果:『土属性ダメージ回避』
【SL】 50/100
◆ 『獣人の命中強化』
効果:HIT補正125% 消費SP:3 追加効果:『風属性ダメージ回避』
【SL】 60/100
◆ 『獣人の魔力強化』
効果:MAT補正125% 消費SP:3 追加効果:『水属性ダメージ回避』
【SL】 70/100
【SL】 80/100
【SL】 90/100
----------
「……スキルレベル60で覚えるのは……猫の手も借りたい?」
まさしく私の今の状況を物語っているスキル名。
……いや、でもこれは――。
『そうニャ。消費SPが5でSP補正と状態強化の【充足】。これでユウリのSPはどんどん上昇していくニャ』
「じ、じゃあ……!!」
わずかに見えてきた希望の光――。
私は全身の痛みに耐え、立ち上がります。
『まずは猫の手も借りたいを使用してSPを回復させながら、落ち着いてまたシャドウロバースの攻撃を回避するのニャ。それと同時にフサフサとした猫の手を使用してHPを回復させていくニャ。後はSPの回復状況を見つつ、これまでに覚えたスキルをフルに活用してATKをガンガン上げて戦うしか勝つ道は残されていないのニャ』
ATKを上げて行く戦法――。
確かにミーシャのスキルにはATK上昇補正のものが現時点で三つある。
獣人の腕力強化でATK+125%。
ピリピリとした爪の傷跡でATK+125%。
そして窮鼠猫を噛むでATK+300%。
全ての必要SPを合計すると3+5+15で23――。
私の現時点でのATKが66で、シャドウロバースのDEFは198、HPは425。
相手のDEFを貫いて与えられるダメージは……
66×125(%)×125(%)×300(%)-198=111
つまり、バフ後に四回攻撃を当てることさえできれば――。
『シャドウロバースの必殺技のクールタイムが終了するのが先か。それともユウリが奴を倒すのが先か――。あとは運を天に任せるしか無いニャ』
「……だね。もう腹は括ってるし、やるしか、無いよね……!!」
――精一杯の声を振り絞り、私は再びシャドウロバースに立ち向かいました。




