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032 まったく攻撃が通らないんだけど慌てることはありません

『キキ! キキキッ!』


 まず二手に分かれた洞窟の左のほうからどデカイ蝙蝠型のモンスターが姿を現しました。

 私はすぐに左の肉球を胸に当てて相手を凝視し、ステータスを表示させます。



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【Rare】 HN 【Name】 ブレインバット 【AB】 闇 【SL】 100/100

【MS】 魔獣型 【NDA】 尖った牙 【RDA】 ブレインバットのコイン

【HP】 61/61 【SP】 10/10 【MP】 21/21

【ATK】 25/25 【DEF】 32/32 【MAT】 45/45 【MDE】 49/49

【DEX】 24/24 【AGI】 16/16 【HIT】 14/14 【LUC】 19/19

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「モンスターの名前は『ブレインバット』……。闇属性の魔獣型ね」


『ランクはHNだから私よりも上の強さのモンスターニャ。でもきっとユウリだったら大丈夫ニャ』


「う、うん……。正直自信ないんだけど、今はそんなことも言ってられないし……」


 洞窟の右の奥からはもう一体のモンスターの鳴き声がすぐそこまで聞こえてきています。

 同時に二体を相手に出来るほど私もミーシャも強くないし、最短でこのコウモリをぶっ倒さないと私は猫耳コスプレのまま天国へと旅立ってしまうことになります。

 そんな人生は死んでも嫌だ……!


『キキキ!』


『攻撃が来るニャ! ギリギリまで引き付けて、瞬間的に避けるのニャ!』


「ぎ、ギリギリまでって言われても――ひいぃ!?」


 コウモリが鋭い牙を剥き出しにして突進して来たので、私は瞬時に後ろに飛び退きました。

 ……あれ? 身体が凄い軽い……?


『ナイスだニャ。そうやって相手の動きをよく見ればあまりダメージを受けずに戦うことも可能なのニャ。それに今の攻撃は奇襲攻撃だから、あのモンスターのAGIと今の私のAGIを比べてみても先制されることも連続攻撃を受けることも少ないはずだニャ』


「確かに……。じゃあ落ち着いて戦えば勝てる相手なのね。……おっしゃ! やったるで!」


 俄然やる気が出てきた私は牙を剥き出しているコウモリを睨みつけました。

 ……うん。でもやっぱ怖い。てかデカい。

 なんであんなデカいコウモリが普通にいるのよ、この洞窟……。


『ユウリ、不安なら獣人族の軽装ビーストクロスのアーマースキルを使うニャ』


「アーマースキル……? あ、そっか。相手は闇属性だから――」


 私は慌ててステータスを表示させ、先ほど確認した獣人族の軽装ビーストクロスのアーマースキルの一つ、『獣人の脚力強化ビーストレッグ・ストレングス』を発動します。

 直後に全身が淡く光り輝き、さらに動きが軽やかになるのが分かります。


『それでAGIが更に125%上昇して、闇属性攻撃も確率で回避できるようになったニャ。さあ、ユウリ。まだまだこっちの攻撃ターンだからガンガンやってやるのニャ!』


「おーーし! じゃあ更に攻撃アーマースキルも発動しちゃう!」


 気を良くした私は身を屈め、力を溜めた後に地面を強く蹴りました。

 ドンという音が洞窟内に響き渡りコウモリに突進した私は肉球を下から振り上げ、すれ違いざまに猫の爪で相手を斬り裂きます。


ピリピリとしたパラライズ爪の傷跡・クロー!!」


『キキッ……!?』


 見事コウモリにヒットした攻撃は空前絶後のダメージを――。

 ……ん?


『キキキ!!』


「えええ!? 効いてないし!! ダメージ表記『0』ってどういうこと!?」


 怒り出したコウモリは再び攻撃を仕掛けてきます。

 それを寸前でかわした私は泣きそうな顔でただオロオロするばかりです。


『ユウリ、落ち着くニャ。簡単な算数の問題だニャ』


「これが落ち着いていられますかっての! 攻撃が通らないじゃ勝てないじゃん!」


『いいから聞くニャ。ブレインバットのDEFは32ニャ。そして私のATKはまだ23しか無いのニャ。ピリピリとしたパラライズ爪の傷跡・クローはATK依存攻撃だから、攻撃補正が125%あっても29。つまり相手のDEFを貫くことは出来ないのニャ』


「ああもう! 戦いながら算数とか出来ないし! つまり私はどうしたら良いの!?」


 もはや私の脳内はシャーリーさんに習った計算法が完全にすっ飛んでいる状態になっております。

 怖い。無理。そもそも戦いとかこれっぽっちも好きじゃない。

 イケメンの旦那さんと結婚して専業主婦とかして、家でグータラ暮らしたい。


『……ユウリ。さっきからユウリの妄想が私に駄々洩れニャ……』


「……はっ! い、いけない……。つい現実逃避を……」


 気を取り直し、私は深呼吸をします。

 落ち着くのよユウリ。こんな少女の前でみっともない姿を晒したら駄目。

 貴方はもうすぐ三十路なの。大人の女性なんだから。余裕を持って行動しましょう。


「……よし。ん? あれ、でもなんかコウモリの動きがおかしい……?」


 先ほどの攻撃を受けたコウモリを改めて観察すると、何やらピリピリと動きがおかしくなっています。

 ダメージはゼロだったはずなのに、何でだろう……。


『落ち着いたかニャ? 今のユウリの攻撃で相手は状態異常に罹ったニャ。麻痺の効果は徐々にATKの数値が下がっていくから、闇属性回避と合わせてユウリがダメージを負う確率はほぼゼロに等しくなったニャ』


「あ、なるほど。……ということは?」


『ユウリ、もう一度私のステータスを表示するニャ』


 ミーシャに言われ、私は再び右手を自身の胸に当てます。



 ----------

【Rare】 N 【Name】 ミーシャ・レオリオン 【AB】 神 【SL】 18/100

【AT】 近距離攻撃型レイドアタック 【CH】 猫に小判とシルバーヴァイン・マタタビをゴールドラッシュ

【ADT】 祖父の形見の猫爪モーメンツクロー 【DDT】 獣人族の軽装ビーストクロス

【HP】 84/295 【SP】 19(-6)/40 【MP】 18/25

【ATK】 35/75 【DEF】 17/25 【MAT】 9/15 【MDE】 11/20

【DEX】 40/100 【AGI】 61/113(+125%) 【HIT】 9/20 【LUC】 5/13

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「……え? スキルレベルがもう18……?」


『そうニャ。つまりダメージがほぼ与えられなくても、私のスキルレベルはどんどん上昇していくニャ。だからもう一体のモンスターが姿を現すまで何度も行動を繰り返して一気にスキルレベルを上げるのが重要ということニャ』


 ミーシャの言葉が脳内に反芻し、私は再び目に光が辿ってきました。

 いける……! これだけ成長が早かったら、あっという間に50くらいまで上げられる気がする……!


『キキキッ! キキ!!』


「避ける、避ける、猫パンチ、避ける、猫パンチ――。軽い……! どんどん身体が軽くなっていく……!」



 ――まるでシャドウボクシングをしているかのように、私とミーシャ―の愛の育みスキルアップは急成長していくのでした。




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