031 結局私はコスプレから逃げることなどできませんでした
――ゆっくりと目を開ける。
そこにはもうミーシャの姿は無く、私の脳内で彼女の吐息が聞こえてくる気がします。
彼女のイメージカラーは『白』。
それも純白に近い色で、やっぱりどことなく高貴な感じがするのだけれど――。
『凄いのニャ……。合体ってこんな感じになるのだニャ……』
「うん。なんかこう、『溶けていく感じ』だってシャーリーさんは言ってたかな。私は使役者だからその辺の感覚は分からないんだけど」
『……でもなんか、暖かいというか安心感があるニャ、ユウリの中は。お母さんのお腹の中にいるみたいな感じと言ったら分かりやすいかニャ?』
「……お母さん……。それはちょっと……嬉しいような、嬉しくないような表現……」
恐らくミーシャに悪気はないと思うけど、三十路前の女に直球で『お母さん』とか『おばさん』とかは言わないで欲しい……。
世の少年少女よ。そこは気を付けようね。お姉さんだからね、お姉さん。
「……はぁ。とりあえずステータスを見せてもらうね、ミーシャ」
私はいつものように右手を自身の胸に当てます。
そしてミーシャの行使者情報を眼前に浮かび上がらせました。
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【Rare】 N 【Name】 ミーシャ・レオリオン 【AB】 神 【SL】 10/100
【AT】 近距離攻撃型 【CH】 猫に小判とマタタビを
【ADT】 祖父の形見の猫爪 【DDT】 獣人族の軽装
【HP】 65/295 【SP】 18/40 【MP】 12/25
【ATK】 23/75 【DEF】 12/25 【MAT】 6/15 【MDE】 9/20
【DEX】 31/100 【AGI】 40/90 【HIT】 6/20 【LUC】 3/13
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「へー、もう熟練度が10まで上がってる……。ミーシャは早熟型の行使者なんだね」
『そうニャ。でも私の行使者ランクは最低のN(ノーマル)だから、熟練度が上がったとしてもたかが知れてるのニャ……』
「そんなことないよ。使役者と行使者がお互いに愛の力をフルに発揮すれば、ランク以上の強さになるって私のお父さんも言ってたから。お父さんもミーシャと同じN(ノーマル)の行使者だったし」
そのお父さんから家を追い出されたことはミーシャには黙っていることにして――。
『家を追い出されたのかニャ? ユウリは』
「しまった! 合体してるから隠し事が出来ないんだった! うぅ……」
あまりの恥ずかしさにその場に蹲る私。
いいもん。どうせ私は行き遅れの三十路直前の半ニートだもん。
『……ユウリは私と似ているのニャ。だからこんなに安心できるんだニャ』
「え? 今なんか言った?」
脳内でボソッとミーシャが何かを言った気がしたけど、イジけてたから聞き逃しました。
でもいいや。今はあんまり時間が無いから、このままドレスタイプの情報も見ておこう。
私はそのまま表示されたステータスのうち『ADT』と『DDT』の項目をタップします。
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【ADT】 祖父の形見の猫爪
【SL】 10/100
◆ 『ピリピリとした爪の傷跡』
効果:ATK補正125% 消費SP:5 追加効果:『麻痺』
【SL】 20/100
【SL】 30/100
【SL】 40/100
【SL】 50/100
【SL】 60/100
【SL】 70/100
【SL】 80/100
【SL】 90/100
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【DDT】 獣人族の軽装
【SL】 10/100
◆ 『獣人の脚力強化』
効果:AGI補正125% 消費SP:3 追加効果:『闇属性ダメージ回避』
【SL】 20/100
【SL】 30/100
【SL】 40/100
【SL】 50/100
【SL】 60/100
【SL】 70/100
【SL】 80/100
【SL】 90/100
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「ええと……『ピリピリとした爪の傷跡』の追加効果が『麻痺』で……『獣人の脚力強化』っていうのが、『闇属性ダメージ回避』?」
『そうニャ。獣人族の行使者の特徴はDEXとAGIが普通の行使者よりも高い傾向にあるところニャ。敵の攻撃を器用に避けつつ、素早く動いてなるべく多くの攻撃を当てていく戦いになるはずニャ』
「へー、そうなんだ。じゃあ最終的にはほぼ全部の属性攻撃を回避できる感じなのかな……」
属性は全部で十存在し、防具のアーマースキルは全部で九。
ミーシャは神属性だから、もしかしたら神属性回避以外は全部覚えるのかもしれません。
『ごめんニャ……。未開放のスキルの内容を使役者に伝えることができないルールなのニャ……』
「ううん、大丈夫。そこら辺は鬼教官(シャーリーさん)に大体習ったから。……そんじゃまぁ、そろそろモンスターと対面するから、気合入れていきま――」
――そう。私は今の今まで気付かなかったのだ。
さっき自分の胸に手を当てた時にも。ADTとDDTの項目をタップした時も。
どうしてこんなに馬鹿なのだろうか、私は――。
『? どうしたニャ? 気合入れて行くんじゃないのかニャ?』
「……ねえ、ミーシャ。ミーシャって獣人族だよね」
『?? そうだニャ。ネコ科の獣人族で、猫耳と尻尾と手足は猫そのもので、他は人間族とほぼ一緒ニャ。それがどうしたのニャ?』
「…………うん」
私は改めて自らの全身を眺めます。
頭。猫耳付いてる。お尻。尻尾生えてる。
手。フサフサ。でっかい肉球と爪が生えてる。足も同じく。
『ネコ科獣人族の行使者は結構人気があるほうニャのだけれど……お気に召さなかったのニャ?』
「いやそうじゃなくて…………これ完全にコスプレじゃん!!!」
『こすぷれ?』
「セフィアのドレスも大概だったけど、もうこれ完全に猫耳のコスプレ……!! せっかくあの謎のコンテストから逃げ出せたのに、こんなピンチの状態の中で三十路直前の私が猫耳コスプレ姿で命を賭けて戦うって、一体どんな罰ゲームなのよ……!!!」
私の叫び声が洞窟内に響き渡ります。
ああ……。もうこれは早くここを脱出して、他の誰にも見られないうちに合体を解くしか無い……。
『ユウリも語尾にニャを付けたほうが良いと思うニャ』
「絶対やだ!!! それだけは、もう……ホント、自我が崩壊するからやめて……」
何故か嬉しそうに私に追い打ちをかけてくるミーシャ。
なんか脳内でクスクス笑っている声が聞こえるし。
『キキキッ!』
『ニン、ゲン……。ニクノ……ニオイ……』
「だあぁぁ!! もうやってやらあぁぁぁぁ!!!」
前方と後方。両方からモンスターが私を挟み込むように向かって来ます。
こうなったらもう、恥ずかしさを捨ててそのエネルギーをこいつらにぶつけるしかない……!
気合を入れた私は、いざモンスターとの戦いに身を投じました。
〇属性ダメージ回避について
【火属性ダメージ回避】一時的に火属性のダメージ回避率+50%が付与される。ト占籤で効果延長。
【氷属性ダメージ回避】一時的に氷属性のダメージ回避率+50%が付与される。曲舞籤で効果延長。
【風属性ダメージ回避】一時的に風属性のダメージ回避率+50%が付与される。猿楽籤で効果延長。
【土属性ダメージ回避】一時的に土属性のダメージ回避率+50%が付与される。着綿籤で効果延長。
【雷属性ダメージ回避】一時的に雷属性のダメージ回避率+50%が付与される。金口籤で効果延長。
【水属性ダメージ回避】一時的に水属性のダメージ回避率+50%が付与される。千秋籤で効果延長。
【光属性ダメージ回避】一時的に光属性のダメージ回避率+50%が付与される。星宮籤で効果延長。
【神属性ダメージ回避】一時的に神属性のダメージ回避率+50%が付与される。大黒籤で効果延長。
【天属性ダメージ回避】一時的に天属性のダメージ回避率+50%が付与される。毘沙籤で効果延長。
【闇属性ダメージ回避】一時的に闇属性のダメージ回避率+50%が付与される。傀儡籤で効果延長。




