030 全ての責任を負うと約束して猫娘のミーシャと合体することにしました
「ニャアァ、もう……! この洞窟は迷路になってるから、どこが出口なんだか全然分からないニャ……!」
私を抱えたまま猫耳のミーシャは複雑に枝分かれした洞窟内を駆け抜けて行く。
だがやはりそろそろ体力も限界なのだろう。
フサフサの毛の足が痙攣を起こし、今にも彼女は崩れ落ちそうになっている。
「……ありがとう。もういいわ。ここで降ろして」
「ニャ? で、でもあの盗賊のリーダーが……」
「大丈夫。彼は追って来ないわ。……たぶん、ね」
「??」
軽く首を傾げたミーシャだったが、周囲に視線を這わせた後にゆっくりと私を地面に降ろしてくれた。
そして一度深呼吸をして大きく息を吐く。
彼女のこんな小さな体のどこに、人間一人を抱えて走れるだけの力が眠っているのだろうか。
獣人族は他の種族と比べて身体能力が高いと聞いたことがあるが、それでも彼女はランクNの行使者の少女だ。
素の状態でもある程度の力が発揮できる特殊な行使者なのか、それとも――。
「助けてくれてありがとう。でも、どうやってあの数の盗賊達から逃げ出せたの?」
「ふふん、聞きたいかニャ? 答えは簡単ニャ。見張りの一人を買収したのニャ」
「買収? どうやって?」
私がそう質問すると、ミーシャは小さな胸を精一杯張って鼻を擦り、得意げにアイテムの所持品欄を開いて見せてくれた。
そこには『汚れた布袋』しかアイテムが無く、その他の所持品は盗賊らに没収されてしまったと彼女は言う。
「ここにお金を隠しているのニャ。こんなに汚い袋にお金が入っているなんて誰も思わないからニャ」
「お金って……。あの手下の盗賊を買収できるだけのお金を、貴女が持ってるってこと……?」
「そうニャ。ちなみに渡したお金は一千万HDニャ」
「い、一千万……!??」
あまりの桁違いの金額に、つい私は大声を出してしまいました。
もしかしてこの子、奴隷なんかじゃなくて、どこかの金持ちの子とかなのでしょうか……。
『キキッ! キキキ!!』
「あ、やば……。私の大声のせいでモンスターに見つかった……」
洞窟の奥からモンスターの鳴き声が聞こえてきた私は慌てて口を塞ぎます。
もうミーシャにも体力は残っていないみたいだし、鳴き声がした方角とは別の道を進むしか――。
『……ニンゲン……ニンゲンノニオイ……クワセロ……ニンゲン……』
「こ、こっちからも来たニャ……! どうするのニャ! 挟み撃ちされたニャ……!」
後ずさるミーシャと私。
このままだと二人ともモンスターの餌食になってしまう。
……仕方ない。
こうなったら――。
「ミーシャ。お願い。私と……合体してくれる?」
「め、めめめ、合体……!? こんな場所でするのニャ!?」
急に顔が真っ赤に染まるミーシャ。
しかしこれ以外に窮地を脱する方法が無い。
彼女はランクがNだから、恐らくある程度の愛を育めばセフィアの時と同じように熟練度はすぐに上昇するだろう。
後はモンスターと戦いつつ、隙を見て逃げ出せば二人とも命だけは助かるだろう。
「お願い。時間が無いの。私のユニークスキルは【一夫多妻】。複数の行使者と同時に結婚ができるから、今すぐにでも貴女と合体ができる。責任は後で絶対にとるから、今は私に力を貸して」
「責任……。私の処女を奪う責任……。その言葉、本当に後悔しないかニャ?」
「うん。約束する」
私は彼女の目を真っすぐに見つめてそう言った。
獣人族で、しかもセフィアよりも明らかに年下に見えるミーシャと合体をするのは確かに気が引ける。
でも命よりも大切なものなど、きっとこの世には存在しないだろう。
――でも、本当に彼女が拒絶するなら、やはり無理強いはできない。
「……分かったニャ。元々お前さんが盗賊に捕まったのも、私を助けようとしてくれたからだし……。責任をとってくれると約束してくれたから、私はお前さんを『夫』と認めることにするニャ」
「……うん。『夫』っていう言葉も聞き捨てならないけど……状況的にはそうだから、今は何も言いますまい……。私の名前はユウリ。ユウリ・グラムハートよ」
「ユウリ・グラムハート……。私はミーシャ。ミーシャ・レオリオンだニャ」
私とミーシャは見つめ合い、お互いの名を明かします。
そして一歩ずつ近づきお互いの手を優しく握り合いました。
「き、緊張するのニャ……。モンスターが迫っているっていうのに、こんな状況で、こんな場所で……」
「大丈夫。怖かったら目を閉じていて。私がリードするから」
ドクンドクンとミーシャの鼓動が高くなっているのが手に取るように分かります。
私は優しく彼女の衣服を脱がしていき、自身の衣服も脱いでいきます。
ミーシャは獣人族らしく腕と足、それに尻尾がフサフサとしていて、それが少しだけくすぐったく感じます。
控えめな胸が露になり、それをひた隠しにするミーシャが可愛らしくて私はそっと彼女を抱きしめました。
「あ……」
「ごめんね、私なんかで。貴女のこと、よく知りもしないのに合体なんて。おかしいよね、こんなこと」
きっと彼女もこれまで生きてきた中で、好きな男性や憧れの人もいたことだろう。
その人のためにとっておいた大切なものを、同じ女性である私なんかが奪ってしまうのだ。
その責任は重く、一生を賭けて償わなければならない。
彼女の生い立ちも、これからの人生も、全て。
「……優しいのニャ。ユウリは。気持ちが真っすぐに伝わってくるニャ。嘘偽りの無い言葉なんて、初めて聞くことが出来た気がするニャ」
「? ミーシャ?」
何故か彼女は涙を流していた。
そして顔を上げ、ゆっくりと目を開けて私を見つめる。
「ユウリ……」
「……うん」
もう一度目を閉じたミーシャは私の身長に合わせて少しだけ背伸びをしてくれた。
そして私はゆっくりと彼女の顔に自身の顔を近付け――。
――お互いの唇を重ね合わせたのだった。




