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028 もしかして私はこのまま売られてしまうのでしょうか

 ――暗闇の中に私は、いる。

 ここは一体、どこだろう。

 息苦しい。怖い。夢なら醒めて欲しい。


 ……?

 私のすぐ横で震えている生き物がいる。

 ――そうだ。助けなきゃ。


 この子を。この、猫を――。


『……! モゴ! モゴモゴ!!』


「あー、ウルセェな。静かにしてねぇと、また首絞めて気絶させんぞ?」


 目覚めた私の耳に男のくぐもった声が聞こえ、私は一気に青ざめます。

 ……そうだ。私はあの入れ墨をした男の一人に首を絞められて、それで――。


「もうすぐ俺達のアジトに到着する。そこでお前らは競売にかけられる。……まあせいぜい三百万ってとこか」


 もう一人の男の声が聞こえ、私は暴れるのを止めた。

 どうやらこの二人は盗賊ギルドの連中のようだ。

 最近皇国周辺の街の治安が悪くなってきたとリーザさんが言っていたのを思い出す。


「でもよ、かしらは最低五人は拉致ってこいって言ってたよなぁ。どうすんだよ、二人で」


「まあそこはどうにでもなるだろう。使い物にならなきゃ、別の方法・・・・を考えるまでだ」


「うぇ……。だとよ、お二人さん。せいぜい頭を楽しませるんだな。でないと……死ぬよりひどい目に遭うぜ? けはは!」


 二人の男は下品に笑い声を飛ばす。

 そして私はようやく自身がどういう状況なのかを理解した。

 口を紐で結ばれ、何か大きな麻袋のようなものに押し込まれている。

 そして隣には、私と一緒に猫耳の少女が捕らえられていた。

 気絶する前に一瞬だけ姿を見ることができただけだが、恐らくザザンカ獣人国から来た子だろう。

 獣人の行使者が他の国の人種から迫害を受けていることは以前から問題視されていた。

 人知れず拉致され、競売にかけられ、富豪に買われた彼らは、人間として扱われることはない。


「……ニャァ」


 私の横で不安そうな鳴き声を上げる少女。

 暗がりで良く見えないが、私は男らに気付かれないように右手をそっと伸ばす。


「ニャ?」


 彼女のふさふさの尻尾に手が触れ、それを頼りに少しずつ手を上にずらしていく。

 そして肩に差しかかかった辺りで、私はそっと少女の胸の上に手を置いた。



 ----------

【Rare】 N 【Name】 ミーシャ・レオリオン 【AB】 神 【SL】 0/100

【AT】 近距離攻撃型レイドアタック 【CH】 猫に小判とシルバーヴァイン・マタタビをゴールドラッシュ

【ADT】 祖父の形見の猫爪モーメンツクロー 【DDT】 獣人族の軽装ビーストクロス

【HP】 0/295 【SP】 0/40 【MP】 0/25

【ATK】 0/75 【DEF】 0/25 【MAT】 0/15 【MDE】 0/20

【DEX】 0/100 【AGI】 0/90 【HIT】 0/20 【LUC】 0/13

----------



「ニャウゥン……」


「おい、静かにしてろっつってんだろうが!」


 男の怒鳴り声に身体をびくり動かす私と少女。

 もうこれ以上は迂闊に動かないほうが身のためだろう。

 しかし少女に対し、現時点で最低限の情報を得ることは出来た。

 名前はミーシャ・レオリオン。

 レア度がN(ノーマル)で神属性の近距離攻撃タイプの行使者だ。

 恐らくこの男達は私のことを行使者アーマーだと勘違いしているのだろう。

 もしくは使役者ヒューマンだったとしても、別の方法・・・・とやらで売り捌けば良いと考えているのかも知れない。


「……着いたぞ。おい、そいつらを袋から出して目隠しを付けろ」


「へーい」


 命令をされた男がガサゴソと麻袋の紐を解いていくのが分かる。

 そして袋が開いた瞬間、日の光に目が眩まされた私は周囲の状況を確認することができないまま、再び暗黒の中へと誘われてしまう。


「よし。歩け」


 手際よく私と少女の目を布で縛った男は、馬車の荷台のような場所から私達を降ろした。

 そこからしばらくグルグルと歩かされた私は洞窟のような場所で急に目隠しを外される。


 周囲に視線を向けると、そこには同じように連れ去られたであろう人々が十数人ほど捕らえられていた。

 その周りには男達と同じように刺青をした集団が五人ほどいるのが確認できる。

 恐らくこの洞窟の外にも見張りはいるだろうから、全部で十人は族がいるのかもしれない。


「もうその口の布も解いていいぞ。ここじゃどんだけ騒いでも、誰も来やしねぇからな」


「……そう。ならそうさせてもらうわ」


 私は精一杯の虚勢を振り絞り布を取り払いそう答えた。

 でも声は若干震えているのが自分でも分かる。

 そしてそのまま隣にいるミーシャの布も取ってあげた。


 ピンと立った猫耳が印象深い獣人族のミーシャ。

 どこか高貴な雰囲気を感じたが、恐らくそれは私の勘違いなのだろう。

 ハインドラルの街のあんな場所で一人ウロついていたくらいなのだから、どこかの屋敷から逃げ出してきた奴隷か、それとも食べ物を求めて盗みを働いてしまったお尋ね者か。

 いずれにせよ早くここから逃げ出さないと、私もこの子も競売にかけられ、どこぞとも分からない輩に売られてしまう。


「……集まったか。首尾はどうだ?」


 洞窟の入り口からまた別の男が現れ、その場にいた盗賊の全員に緊張が走った。

 あの黒髪の男が盗賊のリーダーなのだろうか。

 男は捕虜達に視線を向け、一人一人吟味しているようにも見える。


「は、はい! 思いの外、各村や町の警備が厳しく……。全部で十四人の行使者アーマーしか集めることができず――」


「……十四人? 一人、使役者ヒューマンがいるように見えるんだが、俺の目が曇ってしまったということか?」


「!!」


 私と目が合った瞬間、正体を見破った盗賊のリーダー。

 もしかしたらゲヘレス伯爵と同じようなユニークスキルを持った使役者なのかもしれない。


「も、申し訳ございません……! 即刻、この女は処分するか、ガルミネ様のペットの餌にするか――」


「いや、いい。あとで俺の部屋に連れて来い。残りの者はいつもどおり競売に出しておけ。それとそいつらに水と飯を与えてやれ。売り物をあまり粗末に扱うな」


「か、畏まりました……!」


 それだけ言い残し、盗賊のリーダーは手下を三人引き連れてまた洞窟を出て行きました。

 去り際に少しだけ私と目が合ったけれど、それを見た瞬間、私の全身に鳥肌が立ちました。

 もう、何十人、何百人もの命を奪ったことがあるかのような、狂気の目――。

 ……ガルミネ?

 そういえばそんな名前の盗賊を手配書か何かで見た記憶がある気がする。



 ――そして私達は水と食料を与えられ、しばらくその場で監禁されることになったのでした。




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