026 正式に(?)二人目の家族が決まりました
「……ん……あれ?」
小鳥の囀りが聞こえた気がして目を覚ます私。
そしてベッドから起き上がり周囲を確認しようとするも、身体を起こすことが出来ません。
え? なんで?
もしかして昨日のボス戦で身体を酷使しすぎて、極度の筋肉痛とかになっちゃったりとか――。
「ううん……。まだ、このまま……」
「…………はい?」
布団の中から何か聞こえてきました。
私は恐る恐る布団を捲り、声の正体を確認します。
「……Zzz……」
「…………」
そこにはパジャマ姿のセフィアが気持ち良さそうに寝ています。
……いや、私、抱き枕じゃないんだけど。
「そおい!」
「ギャフン!?」
全身全霊の力を込めてセフィアを隣のベッドまで突き飛ばし、私は束縛から解放されます。
なんかずっと寝心地悪いなーとか思ってたらこやつが原因でした……。
「ふふ、おはようございます、ユウリ。二人とも随分ぐっすりと眠っておりましたよ」
「あ、シャーリーさん。おはよー」
すでに起きていた様子のシャーリーさんは後ろで髪を一本に縛り、朝食の準備をしてくれています。
昨日はあれからどうなったのかさっぱり分からないまま、シャワーで汗を流してそのまま寝ちゃったから、席に着きつつ経緯でも聞いてみましょうかね。
「……いつつ……あ、あんたねぇ……。突き飛ばさなくてもいいじゃないのよ」
「セフィアさんもおはようございます。勝手に台所を使わせて頂いておりますが、お二人とも朝食は食べますわよね?」
頭を押さえたまま起き上がってきたセフィア。
私に向かってブツブツと文句を言っているけど、朝から小言を聞きたくないから無視します。
「ユウリ。お身体の調子はどうですか?」
「え? あー、まあ、昨日は大変だったけど、寝たらだいぶ回復したかな。……でも濃い一日だったよね、昨日は」
「ふふ、そうですわね。ですがこれで色々と解決しましたので、今日は一日休日を挟んで、明後日に行われるコスプレコンテストに向けて英気を養っておきましょう」
「明後日!? え、コンテストって明後日なの!?」
席に着き、シャーリーさんが用意してくれた朝食に手を付けながら私はつい叫んでしまいます。
……ていうか、やっぱコスプレ大会出場するのか。全然気が乗らないけど。
「ふふん、あんたひよってるんでしょう?」
私の隣の席に座ったセフィアは勝ち誇った目で私を見てそう言います。
一瞬カチンときたけど、これはセフィアが仕掛けた罠だと思い、私は冷静さを装います。
「セフィアさんは、大会に出場されたご経験はあるのですか?」
「ううん、毎回参加証は手に入れてるんだけど、直前でスリがバレちゃって参加証を取り上げられちゃってるからまだ」
「……当たり前やろ、そんなん」
私は焼き立ての食パンを口に含みながらそう言います。
ていうか参加証を盗んでまで、あんな変な大会に出場したいとか、全く意味が分からない……。
「どうしてセフィアさんは、そこまでしてあの大会に出場したいと思うのでしょう?」
「そんなの決まってるじゃない。大勢の観客の前で様々な洋服を着てポーズをとって、誰が一番似合っているかを決めるのがコスプレ大会なのよ? コスプレイヤーとしては最大の祭典、私の生きる道と言っても過言ではないわ」
「…………」
そう言い熱弁するセフィアだけど、これっぽっちも共感できません……。
そんなことで盗みを働いて刑務所に収監なんてされたら、黒歴史じゃ済まないだろ……。
「……コホン。では、セフィアさんは今回のコスプレ大会はどうされるのですか?」
「どう、って……。流石に命の恩人のあんた達からまた参加証を盗むのは気が引けるから、別のトロそうな奴をターゲットにして――」
「アホか!! もう盗みは二度とするんじゃないっつの!!」
さすがにここは突っ込むしかないと思った私はテーブルをバンと叩いてセフィアを注意します。
そもそも盗むのが当たり前みたいな感じで言っちゃってる時点で彼女には再教育が必要だと思われ……。
「ユウリの言う通りですわ。もうセフィアさんは私達と繋がってしまった行使者の一人ですから。言ってしまえば家族も同然。そうなれば、貴女が犯す罪は、私達にも責任が発生してしまいますもの」
「……家族……」
「そうそう。ていうか、参加証が二枚あるんだから、三人のうち誰か二人が大会に参加すればミッションコンプリートになるんじゃないの? 家族だったら」
「……あ……」
私の言葉にセフィアとシャーリーさんが顔を合わせます。
あれ? もしかして私、めっちゃ良い案を発言した?
「その通りですわ。早速リーザに連絡を入れて、この希少業務依頼の受注者変更が今からでも可能かどうか確認してみますわ」
「うん。そだね。大会は明後日だし、もし変更できるんだったら間に合いそうだよね」
パンを平らげた私は目玉焼きとサラダを頬張り珈琲を飲みます。
ありきたりな食材でもやっぱシャーリーさんが作ってくれると何でも美味しくなるから不思議ですね。
今度落ち着いたら色々と調理法とか教えてもらおう。
「……良いの?」
「へ? なにが?」
顔を俯かせたままのセフィアが何かを呟いています。
……ん? もしかして、泣いてる……?
「大会に……参加できるの? 私が……、私の夢だった、サーマリーのおっさんの大会に……」
「うん、出来るよ。ていうか、むしろ出て。私達、その希少業務依頼の報酬が目当てで嫌々受けただけだから」
問題は残りの一枠を私かシャーリーさんのどちらで出場するか、なんだけど……。
意外に結構シャーリーさんもやる気だったから、もしかしたら私の代わりに――。
いやいや! でもこれは私の借金を返済するためのクエストなんだから、やっぱり嫌でも私が出ないと――。
「うわあぁぁぁん! ありがとう、ユウリ~~~~!!」
「ぶっ!? く、苦しい……離して……!!」
いきなり私の顔面に突っ込んできたセフィアはそのまま私に抱きつきます。
彼女の小さなおっぱいで窒息しそうだし、首の骨も折れそう……。やめて……。
――そんなこんなで、どうやらコスプレ大会問題は解決しそうな流れです。
めでたし、めでたし(?)。




