025 三十路前になると無理はできません
「――《その身を我が炎にて焦がし尽くせ》!!」
『ギョエエェェェェェ!!!』
周囲に轟く鵜飼怪鳥の断末魔。
見事二回の攻撃魔法がヒットし(まあ必中なんだけど)、撃ち落とされた怪鳥は河原に落下し消滅しました。
『や、やったわ……! 本当に、わたしが――』
「お疲れ様です。お二人ともお見事でしたわ。……おや?」
消滅した怪鳥のいる場所に向かい、ドロップアイテムを拾い上げるシャーリーさん。
彼女の様子から察するに、どうやら珍しいアイテムが手に入ったっぽいですね。
「これはレアアイテムの彫金魚ですね。加工食肉店に持っていけば50,000HDほどで買い取ってもらえるでしょう」
「ご、五万!? マジで! 超ラッキーじゃん!」
シャーリーさんの言葉を聞き、私は一気に有頂天になります。
ついでにその他のドロップアイテムも全部拾い上げた私は砂時計を確認します。
「あ、やば……。残り時間があと僅かじゃん。シャーリーさん」
「ええ。とにかく今は急いでハインドラルへと戻りましょう。ですので、ユウリ」
シャーリーさんはそう言いニコリと笑い、私に向かって大きく両手を開きます。
つまり、『抱っこ』をしろと。
こんな美人に、こんな笑顔で抱っこを求められたら、並みの男子だったら鼻血を噴き出してしまいそうですね……。
かく言う私も、何故かそんなに悪い気分じゃないから不思議なんですが……。
『……はぁ。あんた達。人の行使者を装備しておいて、勝手にイチャイチャしないでよね。全く……』
――脳内で何かブツブツ言っているセフィアだったけど、あまりよく聞こえなかったので無視した私は、そのままシャーリーさんを抱えて渓谷を出発し、再び荒野を駆け抜けて行ったのでした。
◇
時刻は夜の八時の五分前。
制限時間ギリギリでハインドラルの街まで帰還した私はそのまま門番の前で崩れ落ちます。
「つ……疲れた……。死ぬる……」
「遅かったな冒険者よ。あと五分遅かったら業務破棄が発生していたところだぞ。……ん?」
門番さんは私とシャーリーさんを交互に見つめて首を捻りました。
そして魔導具を取り出して倒れたままの私にそれを向けてきます。
「使役者、ユウリ・グラムハート。行使者……セフィア・レッドアイズ? これは一体……?」
「はい。それは私の方から説明させていただきますわ。ユウリ。貴女は疲れているでしょうから、そのままセフィアさんと一緒に伯爵の家まで向かって身体を休めてください」
「……う、うん。そうさせてもらいます……」
『だらしないわね。これだから年寄りは』
「誰が年寄りじゃい!!」
そう叫び声を上げた私に門番は冷たい視線を向けてきました。
私はシャーリーさんの言葉に甘え、そそくさとその場を後にします。
「……あ……」
街へ足を踏み入れると、光が私の全身を纏い、急に脱力感に襲われます。
そして私と分離したセフィアが目の前に出現しました。
「あー、やっと合体が解けたわ。ほんっと最悪な体験だったわね」
腰に手を当てて私の前に立ちはだかるセフィア。
……何だろう。今になってまた文句を言って、疲労困憊している私から逃げようとか言うんじゃ……。
「ほら、腕、貸しなさいよ。サーマリーのおっさんの別荘まで連れて行ってあげるから」
「へ……?」
彼女の意外な行動に目を丸くした私。
でもすでにヘロヘロの私は一人で歩くのもままならない状況なのも確かです。
ここは彼女の言葉に甘えて肩を貸してもらうしかなさそう、かな。
「あ、そうそう。あんたの財布も返しておかないとね。はい、これ」
セフィアの肩に腕を回した私は、そのまま彼女からお財布を受け取ります。
中身のお金もコンテストの参加証もそのまま入っているのを確認した私はホッと安堵の溜息を吐きました。
……でも、うん。やっぱなんかおかしい。
さっきまでツンツンしてたのに、急に良い子になっちゃって……。
もしかして、戦闘中にどこかあたまを打ったとか……?
「な、何よ。人の顔をジロジロ見て」
「……いや。別に何でもありません……」
「? 意味分からない。やっぱあんたって変わってるわよね」
ゆっくりと私の歩調に合わせて夜の街を歩いてくれるセフィア。
心地良い夜風が吹くたびに、彼女の少し癖のある髪が私の頬を擽ってきます。
……何だろう。若干、私と同じ髪の匂いがする。
もしかしたらこれも合体した影響とかなのかしら。
しばらくそうやって歩いているうちに、ゲヘレス伯爵のお屋敷が見えてきました。
その敷地に入った私達は正面玄関には向かわずに、庭園を進んで奥の別荘へと向かって行きます。
「伯爵の屋敷には行かなくていいの?」
「いいわよ、別にそんなの。サーマリーのおっさんは放任主義だから。今夜はもうシャワーでも浴びて軽く夕飯食べて休んだほうが良いでしょう?」
「……うん。まあ、そうしてもらえると助かるけど」
ここはセフィアの言葉に甘えて、別荘に直行することにします。
あとでまたシャーリーさんも追いつくだろうから、彼女から伯爵に説明してもらえると期待しちゃおう。
……何から何まで、本当にすいません。
もう一気に疲れ果てちゃって、このまま倒れて眠りたいくらいです……。
「結局、いつも身体を張るのは使役者なのよね。私達、行使者は何もできない。ただ、装備されるだけの存在――」
「……?」
セフィアが何か呟いた気がしたけど、眠気が押し寄せてきた私にはそれが聞き取れませんでした。
とにかく、今夜はもう休もう。
――半分寝たまま歩いていた私は、そのまま伯爵の別荘に泊まらせていただくことになりました。
◇鵜飼怪鳥討伐報酬◇
【rare】彫金魚×1
【normal】棘のある翼×2、鋭利なクチバシ×1、毒針×5
◇ボス討伐熟練度ボーナス◇
【行使者】 セフィア・レッドアイズ 熟練度15 → 28(14up!)
【Rare】 HR 【Name】 セフィア・レッドアイズ 【AB】 火 【SL】 28/100
【AT】 攻撃魔術型 【CH】 この紅き眼の力にひれ伏せよ
【ADT】 蛇炎術杖 【DDT】 魔術礼装
【HP】 287/755 【SP】 51/87 【MP】 100/255
【ATK】 29/65 【DEF】 27/45 【MAT】 105/270 【MDE】 87/235
【DEX】 26/80 【AGI】 19/65 【HIT】 17/51 【LUC】 25/48




