024 やっぱりシャーリーさんはただ者ではありませんでした
『ギョエェェェ!! ギョエギョエッ!!!』
ものすごい鳴き声が上空に響き渡ります。
めっちゃ怒ってる御様子の鵜飼怪鳥は私達を丸呑みしそうな勢いで追ってきてるし……。
『ギョギョエ!』
「! ユウリ、またあの毒攻撃が飛んできますわ!」
「うわマジか……!!」
シャーリーさんを抱えたまま私は上空に視線を向けます。
でもこの状況で棘の生えた羽が雨のように空から降り注いできても避けられるわけがないし!
『だ、大丈夫よ……! さっきバフスキルを掛けたから、少しくらいの毒なら今の熟練度だったら耐えられるはずよ!』
「ええ、その通りですわ。あの毒棘の羽攻撃はMAT依存の攻撃です。今はユウリにMDE補正150%が付加されておりますので――」
「ああ、はいはい! 見ます見ます!」
私は彼女を抱っこしたまま右手だけをそっとずらして自身の胸に手を当てました。
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【Rare】 HR 【Name】 セフィア・レッドアイズ 【AB】 火 【SL】 15/100
【AT】 攻撃魔術型 【CH】 この紅き眼の力にひれ伏せよ
【ADT】 蛇炎術杖 【DDT】 魔術礼装
【HP】 148/755 【SP】 36/87 【MP】 32(-40)/255
【ATK】 23/65 【DEF】 20/45 【MAT】 80/270 【MDE】 102/353(+150%)
【DEX】 18/80 【AGI】 12/65 【HIT】 14/51 【LUC】 16/48
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そして次に左手をずらして胸に当て、上空に視線を向けます。
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【Rare】 SSR 【Name】 鵜飼怪鳥☆ 【AB】 天 【SL】 100/100
【MS】 鳥類型 【NDA】 棘のある翼、鋭利なクチバシ、毒針 【RDA】 彫金魚
【HP】 198(-300)/498 【SP】 32(-96)/128 【MP】 23(-12)/35
【ATK】 115/115 【DEF】 140/140 【MAT】 87/87 【MDE】 25(-30)/55『炎症』
【DEX】 42/42 【AGI】 90/90 【HIT】 76/76 【LUC】 23/23
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「ええと……怪鳥のMATが87で、私のMDEが102だから……ん? 喰らわない?」
「そうなりますわ。しかしダメージがゼロでも状態異常の『毒』は再び付与されてしまいます。ですがまだこちらも解毒剤の在庫がありますし、このまま逃げ続けて問題はありませんわ」
『ギョエェェェ!!』
そうこう言っている間に上空から怪鳥が毒棘の羽を雨のように降らせてきました。
私はシャーリーさんに攻撃が当たらないように抱えながら、尚も逃げ続けます。
「……あ、眩暈が……」
「ユウリ、解毒剤を」
すでに準備をしていたのか、シャーリーさんは私の口に解毒剤を差し出します。
私はそれを飲み込み、すぐに毒状態から解放されました。
「うえっぷ……。マズい……。でもいつまで逃げたらいいのこれ……。さすがに腕も疲れてきたし、足も攣りそうなんだけど……」
もういい加減休みたいし、歳のせいか腰も痛いです……。
「ふふ、まだお気づきではありませんか?」
「ほえ?」
私の腕の中でシャーリーさんが微笑んでおります。
気付いていないって……一体なんのことやらさっぱりなんですが……。
『……あ! そうか! 【炎症】ね!』
「炎症……? あー、アレか。セフィアのスキルについてた状態異常効果?」
「はい。その通りですわ。状態異常の付与確率は様々ですが、【炎症】は鳥類型に属するモンスターが苦手とする状態異常でもあります。確率はほぼ100%といっても過言ではないでしょうね」
「へー……。で、その炎症が起きると、どうなるの?」
『……あんた。さっき怪鳥のステータスを見たんじゃなかったっけ?』
脳内で再び私をディスり始めたセフィア。
いや見たには見たけど、こんな非常時にじっくりと数字を眺めているわけにもいかないじゃん……。
「【毒】の状態異常に罹ると徐々にHPが減少するのと同じように、【炎症】の状態異常に罹ると徐々にMDEが減少していきます。先ほどの怪鳥のMDEの数値はすでに25まで減少しておりましたので――」
『つまり、いずれあの鳥の魔法防御は0まで落ちるってわけ。あとはあんたでも想像付くでしょ?』
「……ええと、魔法防御が0になるってことは……こっちのMAT依存の攻撃がそのまま…………あ」
私は走りながら慌てて計算を始めます。
セフィアのMATの数値が現在80で、怪鳥のMDEが0になったとしたら……。
通常の攻撃は回避されるけど、さっきと同じスキルを使えばMAT補正150%で必中だから……120ダメージ。
残りのMPが確か32で、セフィアの攻撃スキルの消費MPは15だから――。
「え? 怪鳥ってあとHPいくつ?」
「残り198ですわ」
「……あ……」
ここでようやく私は気付きました。
どうして今、逃げているのか。
どうしてシャーリーさんは余裕の笑みを浮かべているのか。
相手の弱点、属性、状態異常。
モンスターの攻撃方法や行使者の成長速度、アーマータイプ。
最初から彼女は、全部見抜いていたということになるってこと――?
『……とんでもない行使者が居たもんだわ。シャーリー、だっけ? ……ん? シャーリー……シャーリーレイド・オルタナティヴ……え? いやいや、流石に違うわよね?』
何故か私の脳内でちょっとだけ声が震えているセフィア。
あれ、そういえばまだ自己紹介もして無かったよね私達。
「申し遅れましたわ。私、旧姓をシャーリーレイド・オルタナティブ。現在はシャーリーレイド・グラムハートと名乗らせていただいております。【一夫多妻】のスキルを有する、ユウリの一人目の妻というところでしょうか」
「いやいやいや。それだと私が女好きの男役になってるから。何度も言うけど、私はイケメン年下男性と結婚をしたい――」
『ままままマジで!!? え? 本物!? あの学校でも習ったことがある皇国最強のレジェンドレアの行使者!?? ち、ちょっと待って、そんな超超有名人がこんなヘンテコな女と結婚してたの!?』
「ヘンテコな女……」
「セフィアさん。その辺のお話も、この戦いに勝利した後に致しましょう。ユウリ、もうそろそろです。あの怪鳥のMDEが20を切ったら、あと二発。攻撃魔法スキルを発動してもらえますか?」
シャーリーさんの言葉で私は立ち止まり、彼女の地面に降ろしました。
ここまで時間を稼げばもう十分。
私の視界にも怪鳥の残りMDEが21と表示されています。
『勝てる……。あのSSRのボスに、HRの私が……』
気を取り直したセフィアが私の脳内でゴクリと生唾を飲み込んでいます。
んじゃまあ、せっかくシャーリーさんがお膳立てをしてくれたんだから、最後はしっかりと決めますか。
「行くよ、セフィア」
私は杖を構え、鵜飼怪鳥に向かい詠唱を始めました。
〇状態異常について
【毒】徐々にHPが減少していく状態異常。解毒剤で回復可能。
【脱力】徐々にSPが減少していく状態異常。精力剤で回復可能。
【疲労】徐々にMPが減少していく状態異常。栄養剤で回復可能。
【麻痺】徐々にATKが減少していく状態異常。針痺剤で回復可能。
【激高】徐々にDEFが減少していく状態異常。安定剤で回復可能。
【混乱】徐々にMATが減少していく状態異常。鎮静剤で回復可能。
【炎症】徐々にMDEが減少していく状態異常。保冷剤で回復可能。
【凍傷】徐々にDEXが減少していく状態異常。温布剤で回復可能。
【鈍足】徐々にAGIが減少していく状態異常。俊足剤で回復可能。
【暗闇】徐々にHITが減少していく状態異常。点眼剤で回復可能。
【不運】徐々にLUCが減少していく状態異常。祈願剤で回復可能。




