023 ネーミングがアレすぎたので詠唱はすっ飛ばしました
「宜しいですか、お二人とも。これからあの怪鳥は再び藁人間に向かって下降攻撃を仕掛けてきますわ。ユウリは藁人間の足元でその杖を構え、反撃を狙ってください」
「え? 反撃? 当たらないんじゃないの?」
「良いのです。当たらなくとも」
「??」
シャーリーさんの言わんとしていることがさっぱり理解できない私は首を捻ります。
でも彼女を信じると決めたから、とりあえず言われた通りにやってみましょうか。
『ギョギョエェェ!!』
急降下してくる鵜飼怪鳥。
私はさっきやったように杖を剣に見立てて反撃の準備をします。
「……今です!」
「おりゃあぁぁ!!」
――スカッ。
「…………」『…………』
当然、というか予想通り攻撃は当たりません。
だって相手のAGIが90でこっちのDEXは6なんだもん……。
さっきシャーリーさんと合体してたときには当たったけど、もしかしたらあれもまぐれだったのかも知れないし……。
「大丈夫です。もう一度、次も同じように反撃をお願いします」
「いやいやいや。次もって……。藁人間の耐久力、あと一回分くらいなんでしょう?」
「はい。次に怪鳥の攻撃を受ければ間違いなく粉々に砕け散るでしょう」
『ち、ちょっと……。本当に大丈夫なの? 藁人間が居なくなちゃったら、怪鳥のターゲットが私達に向いちゃうんだよ?』
私の脳内で震えた声でそう言うセフィア。
でもシャーリーさんは余裕の笑みでこちらを向いています。
うーん……。なんか私まで不安になってきちゃったんだけど……。
『ギョエ! ギョエ!!』
『く、来るわよ……! もう、知らないんだからね!!』
上空を迂回していた怪鳥が再び急降下してきます。
もうこうなったら腹を括るしかない……!
私はもう一度同じ位置で杖を構えました。
『ギョギョギョエ!!!』
「そおい!!」
――スカッ。
「…………」『…………』
二度目の空振り。
そしてものの見事に崩れ散っていく藁人間。
ああ……。これは一体何のプレイなのか……。
「ユウリ。ステータスを」
「……ほえ? ステータス?」
頭を抱えて蹲ろうとしていた私にそう指示を出したシャーリーさん。
私は訳も分からず言われた通り右手で自身の胸に手を置きます。
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【Rare】 HR 【Name】 セフィア・レッドアイズ 【AB】 火 【SL】 15/100
【AT】 攻撃魔術型 【CH】 この紅き眼の力にひれ伏せよ
【ADT】 蛇炎術杖 【DDT】 魔術礼装
【HP】 148/755 【SP】 36/87 【MP】 72/255
【ATK】 23/65 【DEF】 20/45 【MAT】 80/270 【MDE】 68/235
【DEX】 18/80 【AGI】 12/65 【HIT】 14/51 【LUC】 16/48
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「じゅ……じゅうご!?」
『え……? あ、本当だ……。どういうこと?』
私は目をパチクリとさせてステータスを何度も見直します。
さっき熟練度が4だったばかりなのに、もう15まで上昇しています。何度見ても。
全く意味が分かりませぬ……。
「あの鵜飼怪鳥はSSR級のボスですわ。片やセフィアさんはランクがHRの早熟型行使者――。これだけの力量の差がありながら、お二人は愛の力で怪鳥に立ち向かいました。すなわち、愛の育みが急速に進んだということになります」
「……うん。何となく理解はできたけど、愛の力で立ち向かってはいないと思われ」
『それはこっちのセリフよ! なんであたしがあんたなんかと愛を深めないといけないのよ!』
またもや脳内でギャーギャーと騒ぎ出すセフィア。
もうあたま痛くなるから静かにしててください……。
「でも、いくらセフィアの熟練度が15まで急上昇したって、やっぱ力の差は歴然なんじゃ……」
「いいえ、もう勝利は目前ですわ。ユウリ。次に表示されたセフィアさんのステータスのうち、【ADT】と【DDT】の項目を指でタップしてみてください」
「タップ?」
何が何だか分からないまま、私は言われた通り表示されたままのステータスのうち、【ADT】と【DDT】を連続でタップします。
するとセフィアのステータス画面に覆いかぶさるように別の画面が飛び出てきました。
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【ADT】 蛇炎術杖
【SL】 10/100
◆ 『その身を我が炎にて焦がし尽くせ』
効果:MAT補正150% 消費MP:15 追加効果:『炎症』
【SL】 20/100
【SL】 30/100
【SL】 40/100
【SL】 50/100
【SL】 60/100
【SL】 70/100
【SL】 80/100
【SL】 90/100
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【DDT】 魔術礼装
【SL】 10/100
◆ 『我の礼装は氷撃をものともせず』
効果:MDE補正150% 消費MP:25 追加効果:『氷属性ダメージ半減』
【SL】 20/100
【SL】 30/100
【SL】 40/100
【SL】 50/100
【SL】 60/100
【SL】 70/100
【SL】 80/100
【SL】 90/100
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「うわ……。何だこれ……」
一気に目の前のステータス画面が増えて頭が混乱してきます。
……うん。ていうか、またもやネーミング……。
「セフィアさん。ユウリに分かるように説明をお願いできますか?」
『え? あたし? ……まあ良いけど、ユウリって物覚えが悪いから説明したってあんま意味無さそうなんだけど……』
脳内でさらっと私をディスったセフィアだけど、私は大人だから怒ったりはしません。
ていうかまあ、説明してもらわなくても何となく分かるような気もするんだけどね。
『いい? 一回しか言わないから覚えてよ? 行使者は、スキルレベルが10上がるごとに【ADT】と【DDT】でそれぞれ一つずつスキルを覚えていくの。スキルには様々な効果があるから今は説明しきれないけど、私の場合はあんたが見ているとおりのスキルを使えるようになったってわけ。どう? 簡単でしょう?』
「レベルが10上がる毎に一個ずつ。90までで九個ずつだから、全部で十八個ってことか。うん。覚えた」
とりあえずネーミングの件は触れないでおきましょう……。
またギャーギャー言われたら敵わないから……。
「ユウリ。まずは魔術礼装で使えるようになったスキルを発動し、MDE補正を高めておきましょう」
「はーい。分かりましたー」
私はシャーリーさんの言う通り、レベル10のスキルを発動しようとします。
……うん。
あれ、もしかして、これってあの恥ずかしい中二病的なネーミングを叫ばないといけないのかな……。
『ちょっと、あんた! ここ一番格好良いシーンなんだから、ちゃんと技名を叫びなさいよ!』
「……えー……マジでー……」
『仕方ないわね。じゃあ一回あたしがお手本を見せてあげるから、同じように復唱するのよ? ……コホン。 ――我が深遠に穿つ氷の槍よ。神々の力を跳ね退けたその刃を滅し、我は再び天上へと召喚せん――。我の礼装は氷撃をものともせず!!!』
「…………」
脳内にエコーのように響き渡る恥ずかしい技名……。
うん。セフィアってやっぱ……うん。
『ああん……! やっぱコレ最っ高……!! 本当はこれ色んなバージョンがあって、敵に合わせてセリフを変えていくんだけど、もっとこうダークな感じにしたい場合は右手でこう顔を半分を隠して、指の間から鋭い視線を――』
「えんちゃんとー、ふれいむべーるー」
『あ、ちょっとあんた……!』
グダグダと脳内で妄想を垂れ流しているセフィアを無視して私はスキルを発動しました。
すると直後に足元に大きな魔法陣が浮かび上がり、私のMDEは上昇しました。
「セフィアさん。そのお話はあとでゆっくり聞かせていただきますから、今は戦闘に集中を」
『う……。わ、分かってるわよ……』
シャーリーさんにピシャリと言われたセフィアはようやく大人しくなりました。
もうそのまま黙ってて。私とシャーリーさんであの怪鳥を倒すから。
「ユウリ。次は怪鳥を狙って蛇炎術杖のスキルを発動してください。攻撃スキルは相手のAGIの影響を受けませんので必ずヒットします。そしたら後はしばらく逃げるだけですわ」
「逃げる? え、それってどういう――」
『ギョギョエェェ!!!』
私の質問を遮るように、怪鳥は再び急降下してこようとこっちを睨んでいます。
ヤバい……! もうターゲットは完全に私達になってるし……!
「ええい! もうどうにでもなれ!! その身を我が炎にて焦がし尽くせ!!」
『ギョエ!?』
ズトン、という音と共に蛇炎術杖の先から巨大な火の玉が撃ち上がっていきます。
それが滑空直前の怪鳥に直撃し、そのまま森に落ちて行きました。
「え? 倒した?」
『そんなわけないでしょう! ダメージは65って出てたけど、残りのHPはまだ――』
「あと198ですわ。セフィアさんの残りMPはあと32ですわね」
「え……。足りないじゃん! だってあと使用できるのは二回で、足しても130しかダメージ出せないし……! さっきの防御魔法を唱えなかったら……いや、三回しか使えないから……195!? どっちにしても3足りないし……!」
どうする……?
ていうか『逃げる』ってそういう意味だったの……?
『ギギョオオオォォ!!!』
「うわめっちゃ怒ってる……! 逃げよう、シャーリーさん」
「あ……」
とりあえず私はシャーリーさんをお姫様抱っこして河原を全力で走ります。
もう砂時計の砂も残りがとっくに三分の一を切ってるから、制限時間も迫っています。
「ふふ、良いですね。ユウリに抱っこをされるというのも」
「よ、喜んでる場合じゃないよ……!! こんなんすぐに追いつかれちゃう……!!」
『ちょっと! どうすんのよ! 絶対に勝てるって言ってたじゃないのよ!!』
――というわけで、私達三人は無我夢中で怪鳥から逃げることしかできなかったわけでして。
……どうすんの、一体?
〇付与効果について
【火属性ダメージ半減】一時的に火属性のダメージ補正-50%が付与される。朱雀呪符で解除可能。
【氷属性ダメージ半減】一時的に氷属性のダメージ補正-50%が付与される。青龍呪符で解除可能。
【風属性ダメージ半減】一時的に風属性のダメージ補正-50%が付与される。白虎呪符で解除可能。
【土属性ダメージ半減】一時的に土属性のダメージ補正-50%が付与される。勾陳呪符で解除可能。
【雷属性ダメージ半減】一時的に雷属性のダメージ補正-50%が付与される。麒麟呪符で解除可能。
【水属性ダメージ半減】一時的に水属性のダメージ補正-50%が付与される。玄武呪符で解除可能。
【光属性ダメージ半減】一時的に光属性のダメージ補正-50%が付与される。玉女呪符で解除可能。
【神属性ダメージ半減】一時的に神属性のダメージ補正-50%が付与される。南儒呪符で解除可能。
【天属性ダメージ半減】一時的に天属性のダメージ補正-50%が付与される。北斗呪符で解除可能。
【闇属性ダメージ半減】一時的に闇属性のダメージ補正-50%が付与される。三態呪符で解除可能。




