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018 もうマラソンができる歳じゃないです

 荒野を日が沈む方角の西に駆け進み、ウガン渓谷へと向かう私達。

 道中で遭遇するモンスターは完全スルーを貫き通しております。


『この調子ですと、あと五分ほどで渓谷が見えてくると思いますわ』


 シャーリーさんの声が脳内に響き、私は西日に目を凝らして荒野の先に視線を向けます。

 確かに太陽が沈みかかっている山の手前が木々で生い茂っているのが確認できました。

 耳を澄ますと水のせせらぎも若干聞こえてきます。


「じ、十分も……! 走りっぱなしだと……! さすがに、息が……! 切れちゃう、ね……!」


 正直、三十路前の体力で8ULウムラウトも突っ走ることは不可能です……。

 シャーリーさんと合体メルトしてなかったら、1ULだって厳しい……。


『もう少しです。頑張ってください、ユウリ』


「が、頑張ってます……! これ以上ないくらい、一生懸命に、走ってまあぁぁす……!!」


 私の情けない声が荒野に響き渡ります。

 あー、しんどい! 水飲みたい!! 休憩したい!!!

 ……あ、でも渓谷に到着したら綺麗な水にありつけるのかも。

 そこで一旦水分補給して、休憩タイムを挟みたい……。


『あの崖を超えたらウガン渓谷ですね。……ジャスト十五分。下に降りたら一度休憩を挟みましょう』


「おっしゃあぁぁぁ!! あと、一息……!!」


 最後の力を振り絞った私は地面を大きく蹴り跳躍しました。





「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……。し、死ぬ……」


『お疲れ様です、ユウリ。五分ほど休憩をした後に、河原の周囲から探索しましょう』


「か、かしこまり……」


 渓谷の崖を一気に降りた私は綺麗な水が流れる川を発見し、そこでようやく水分補給をすることが出来ました。

 そしてそのまま河原で大の字で寝転がる始末です。

 マジで疲れた……。こんなに走ったの、学生時代のときの障害物競争以来かもしれない……。


『すいません……。こういう時、行使者アーマー使役者ヒューマンのお役に立てなくて……』


「い、いやいや。身体を張るのは使役者ヒューマンの役目なんだから、当然だよ……。ていうかシャーリーさんが居なかったら、こんなに速く走るなんて出来っこないんだし……。それに、風を切って走れるなんて初めてだったし、なんかもう、感無量というか……」


 そういえば昔、学校の先生が授業で言っていた気がする。

 『人は、一人では何もできない。だが、二人いれば何でもできる』って。

 やっぱこの世界は使役者ヒューマン行使者アーマーで成り立っているんだなって、改めて思い知らされました。


「……よっと。もう五分経ったね。さあて、河原周辺を探索しますか」


 私は立ち上がり、砂時計カウンターを確認します。

 もうそろそろ砂全体の四分の一くらいが下に落ちかかっています。

 だいぶ日も陰ってきたし、まだある程度日の光があるうちに中二病少女が隠れていそうな場所の目星くらいは付けておきたいかな。


鵜飼怪鳥フィッシングバードは渓谷の中でも、水辺付近の河原に生えている木々に巣を作り、卵を産む性質があります。そこをピンポイントで探していけば、あの少女を見つけやすいと思われますわ』


「河原に生えている木、ね。オッケー。木登りは得意だから、見付けたらとっ捕まえてやるんだから!」


 俄然やる気が出てきた私は指の骨をパキパキと鳴らし、河原周辺に生えている木を一本一本調べて回ることにしました。





「……いねぇ」


 捜索を開始してから、およそ四十分が経過。

 あらかた河原に生えている木々の調査を終えた私達は、完全に日が落ちた渓谷でお手上げ状態になっております。

 砂時計カウンターの砂はもうとっくに半分を切り、そろそろ捜索を終えないと自由探索フリークエストがタイムアップになってしまいます。


「ねえ、シャーリーさん。自由探索フリークエスト制限時間タイムリミットをオーバーしたら、どうなっちゃうんだっけ?」


『はい。しばらくは自由探索フリークエストも含めた全てのクエストの受注が出来なくなってしまいますわ。受注不可期間はオーバーした時間に応じて加算されていきます』


「……現在受注している他のクエストについては?」


『……はい。一旦、全て・・破棄の扱い・・・・・になってしまいますわね』


「……それ、ヤバくない?」


 暗がりの中、私の顔は一気に青ざめていきます。

 現在受けているクエストが破棄になるってことは、つまり『第三回、皇国に住む清楚で御淑やかな美女・美少女のコスプレコンテスト』のクエストが破棄されるってことです。

 もっと言えば、このクエストで二人合わせて前金十万HDを貰っちゃってるわけだから、それも一旦返さないと駄目ってわけ。

 ……その十万HDは中二病少女の懐にあるわけで。


「だあぁぁぁ! もうどこに居るのよ! あの泥棒中二病少女は!!」


「きゃあああぁぁ!!」


「……え?」『……え?』


 私が叫び声を上げたのと同時に、河原の一番奥、滝のように水が流れている渓谷の上のほうから少女の叫び声が聞こえてきました。

 ……ていうか、この声って……?


『行きましょう、ユウリ! 何か様子がおかしい気が致しますわ……!!』


「う、うん……!」



 ――私はシャーリーさんの言葉を聞き、すぐさま滝の方角へと走り出しました。




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