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009 新婚生活二日目で嫁に借金返済を手伝ってもらう私です

「……眠い……」


 次の日の朝。

 昨夜は一睡も出来なかった私は目の下に大きな隈ができたまま洗面所に立ち歯を磨いております。

 なんだか肩がずっしりと重い気がするんだけど、これも合体メルトをした影響なのでしょうか。


「おはようございます、ユウリ。……その様子ですとあまり眠れなかったようですね」


「ええ、まあ……」


 同じく洗面所に現れたシャーリーさんはコップと歯ブラシを用意して歯を磨き始めました。

 ていうかパジャマ姿がめっちゃ可愛い。

 やっぱこれくらい美女だと何を着ても様になっちゃうんだね。


「ふふ、やはり新婚生活トレーニングは楽しいですね。こうやって一緒に朝起きて、歯を磨いて。どうせなら寝室も一緒にしたいところなのですけれど――」


「そこは大丈夫です!! 余計眠れなくなりそうだから!!」


 コンマ一秒でお断りをした私はうがいをしてそそくさと洗面所を後にしました。

 危ない危ない……。やっぱちょっとでも気を緩めるとシャーリーさんのペースに飲まれてしまいそうになる……。


「ええと、今日はこれから職業紹介所ギルドマスターに行って、なにか短時間でそれなりに稼げつつ、しかも簡単に出来るお仕事を紹介してもらわないと……」


 そう一人で呟いた私はソファに座り、昨日コウジロウさんの所でついでに貰ってきた職業紹介所のパンフレットをパラパラと捲っていきます。

 合体メルトが成功したばかりの初心者でもクリアできるクエストとかがあれば有難いんだけど……。


「うーん……。『平原のオルビススライム十匹の討伐』、『ラロッカ渓谷にいる火炎百足レッドセンチピードの捕獲』、『隣町ハインドラルまで要人の護送』、『ミーシャの酒場の接客・レジ・キッチンのアルバイト』……。うわ、あの酒場また募集出してるし……」


 つい先日クビになった酒場の募集広告を見てげんなりする私。

 あの店の店主のミーシャさんは、そりゃあもう厳しい人でもう二度と顔を見たくないです……。


「……いや、待てよ。そういえばシャーリーさんの知り合いが職業紹介所に勤めてるとか言ってたっけ……」


「はい。その通りですわ。実はもう彼女にも話を通しておりまして」


 いつの間にかリビングルームに来ていたシャーリーさんはパジャマを脱ぎ始め、普段着に着替え始めました。

 ……もういいか。そろそろ慣れてきた……。


「シャーリーさんの知り合いってことは、やっぱり行使者アーマーの方なんですか?」


「ええ。『リーザ・セルフィード』という名の女性行使者です。職業紹介所で働き始めて、もう十年以上にはなるんじゃないでしょうか」


 シャーリーさんはそう言い、胸元から彼女の名刺らしきものを取り出しました。

 私はそれを受け取り、そこに載っている情報を吟味します。

 ふむふむ……。元は王都で働いていた凄腕の行使者で、今は職業紹介所の所長さん(使役者♂)と結婚をしている、と。

 このご夫婦は有事の際に皇国から招集が掛かる『皇国十二勇士オルビスマスター』のうちの一組……なるほどなるほど。

 てことはこの十二勇士っていうのはカップルの使役者と行使者でそれぞれ十二人、計二十四人いるってことね。


「へぇ……。すごい人と知り合いなんだね、シャーリーさん」


「ええ。昔は彼女とどちらが早く結婚できるかって競っていた時期もあったんですけどね。結果は見ての通りです。私が離婚百回に対し、彼女は理想の旦那様と永遠の愛を誓い続けて――」


「はいはい、ストップストップ。もう昔の話は良いじゃん。だってシャーリーさんはもう私と結婚したんでしょう? だったら過去じゃなくて未来に向かって歩き出さなきゃ」


「あ……」


 私の何気ない言葉にはっと息を呑んだシャーリーさん。

 ……ヤバい。もしかして逆に地雷を踏んじゃったかな……。


「……ありがとうございます、ユウリ。そうですよね。過去は変えられないけれど、未来はいくらでも変えることができる――。私、頑張ってユウリの理想のお嫁さんになりますから。不束者ですが、どうか末永く宜しくお願いいたしますね」


 そう言ってペコリと丁寧にお辞儀をしたシャーリーさん。

 いや……理想のお嫁さんっていうのはちょっと違う気が……。でも、まあいいかそれで。

 彼女の喜ぶ顔が見れると、私も同じように嬉しい気持ちになれる。

 今はただ、それだけで満足、かな?


「では、そろそろ支度をして職業紹介所に向かいましょうか」


「うん。そだね。よーし! 今日はがっつり働くぞーーー!!」



 天に向かいガッツポーズをした私は、そのまま洗面所に向かって隠れるようにパジャマを着替えました。





 シャーリーさんの住む魔高層マンションを出発した私達はそのまま村の中心にある噴水塔とは逆の街道を東に進みます。

 そのまままっすぐに進めば村の外に出る大門が見えてくるんだけど、その手前にある巨大な建物が『職業紹介所ギルドマスター』です。

 職業紹介所は各村や町に必ずある施設で、そこで様々なクエストを受注してお金を稼ぐのがこの世界で生きていくための基礎中の基礎ってわけ。

 で、段々クエストをこなしていくと、職業紹介所のほうから『公式ギルドへの御案内状』っていうのが届いて、そこで初めて色々なギルドに所属できるようになるみたいです。

 まあ、まずは私はあと二日以内に不動産会社ホテルギルドに手付金を振り込まないと身売りする道を歩む羽目になるかもしれないから、早々にお金を稼がないといけないわけなんだけど……。


「ちなみにユウリの借金は、今いくらぐらいなのですか?」


「ええとね……全部でちょうど1000000HDハートルドくらい、かな」


 私は懐に仕舞ってある催促状の金額を確認しました。

 あと二日で必要な手付金は、その十分の一の100000HDです。

 一日二日で稼ぐにはかなり厳しい金額なんだけれど……。それこそ身体を売らないと。


「百万ですか。それくらいであれば、今私の手持ちでありますが――」


「ダメダメダメ! それだけは絶対に駄目!! それじゃ完全にヒモになっちゃう私!!」


「そう、ですか……。でもまだ私達の熟練度では、せいぜい稼げても一日で一万が限度だと思いますわ」


「え? やっぱそうだよね……。どうしよう……」


 あと二日がっつり働いても二万。それじゃたぶん手付金として受け取ってもらえないだろうし……。

 こうなったらお父さんに頭を下げてお金を借りる……?

 いやいやいや、あの頑固なお父さんが娘の私にお金を貸してくれるとは思わない。

 ていうか借金を知られたら、今度こそ勘当されちゃうかも知れない……。


「やはりここはリーザにお願いするしかありませんね。彼女なら私達でも二日で十万HDを稼ぐことのできる仕事を用意してくれるかもしれませんから」


「ううぅ……。ホントごめんなさい、シャーリーさん。何から何まで……」


 私は目の前の女神に感謝し、何度も頭を下げます。

 新婚生活の二日目から借金の工面を一緒にさせるなんて、私はホント罰当たりな使役者ヒューマンです……。



 ――そんなこんなで、私達は職業紹介所の門を叩きました。




【Rare】 UR 【Name】 リーザ・セルフィード(レイングルック) 【AB】 土 【SL】 100/100

【AT】 近距離攻撃型レイドアタック 【CH】 大地を揺るがすジザスターレイド・渾身の一撃グランドスラム

【ADT】 重機剛剣グレイドブレード 【DDT】 陸騎士鎧ランドアーマー

【HP】 58500/58500 【SP】 2550/2550 【MP】 1290/1290

【ATK】 2550/2550 【DEF】 3550/3550 【MAT】 1900/1900 【MDE】 3550/3550

【DEX】 109/109 【AGI】 129/129 【HIT】 105/105 【LUC】 80/80

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