第六話 ご褒美
「ん、ぁ……」
リヴは気だるげな思いで、ゆっくりと目を開けた。そうして視界に映ったのは、見知らぬ天井である。
「ここ、どこだぁ……?」
上体を起こし、リヴは辺りを見渡す。見た所かなり高そうな部屋である。
あ、そうだ! レヴィさんは!?
大事な人を思い出したリヴはすぐに彼女を探すためにベッドから出ようとするが、
「んぅ……」
何やら妖艶さを帯びた吐息が彼の耳に届く。吐息の聞こえた方に顔を向けると、リヴは自分の隣でレヴィが寝ていることに気が付いた。
「レ、レヴィさん……」
あまりにも唐突で、理解不能な状況にリヴの脳みそは処理が追い付かない。
ね、寝てる。しかも俺の隣で……!! か、可愛い……!!
無邪気、それでいて色気のある寝顔にリヴはゴクリと唾を飲み込む。
しかし問題はそれだけではなく、レヴィの格好だ。
彼女の寝間着なのだろう。キャミソールのような薄い衣服を身に纏っている。故に非常に肌の露出が大きく、それらはリヴを興奮させるのに十分だった。
これ……触ったらバレっかな?
レヴィに触れたい。顔に、胸に、腰に、足に、髪の毛に触れてみたい。
そんな邪な心が、リヴに芽生えた。
い、いやいやいやいやいや落ち着け俺!! ここで触んのは、なんか違う気がする……。
だがすぐにそう思い直し、リヴは手を伸ばそうとしていた右手を自身の左手で抑えつけた。
「んー……。あれ、起きてたのリヴ? おはよ」
「お、おはようっす!!」
寝起き混じりな笑みで挨拶をするレヴィに、リヴはかしこまったように返事をする。
「ふあぁぁぁぁ」
大きなあくびをしながらリヴと同じように上体を起こしたレヴィは、腕を伸ばす。
「……」
その動作によって強調される胸の谷間に、リヴの視線は釘付けだった。
「あれ? ひょっとして気になる?」
「うぇ!?」
流石に胸に集中する視線に気が付いたレヴィは、ニヤリと笑う。
「いいねぇリヴは。その欲望に忠実なところ、私好きだよ」
「マジすか!」
っしゃぁ! レヴィさんに『好き』って言われた!! 最高だぜ!!
リヴは内心でガッツポーズをした。
「さて、と。それじゃあ行こうか」
「行く? どこへっすか?」
ベッドから出たレヴィ。そのあまりにも扇情的な格好に興奮しつつも、辛うじて残った理性がその質問をする。
「決まってるじゃん。お風呂、約束でしょ?」
「……あぁ!?」
言われ、リヴは「はっ」とした。
そうだ。すっかり忘れてたぜ!! 魔物倒したらレヴィさんと一緒に風呂入るって約束して、そんで俺は魔物を倒した……つまり、俺はレヴィさんと……!!
「行きましょう、是非行きましょう!!!」
「あはははは。必死過ぎ必死過ぎ」
勢いよくベッドから飛び降り、子犬のように駆け寄るリヴを見て、レヴィは思わず苦笑する。
こうして、二人は室内に設置されている浴場へと足を運んだ。
◇
いやぁまさかこんなことになるなんてなぁ……。
全裸になったリヴは、風呂場で感慨に耽っていた。
ついこの前まで森で死にかけて……いや死んでたんだったな。死んでた俺がまさか美味いメシが食えて、その上にあんな美人と風呂に入れるようになるとは。
この待遇、テイムされた魔物の中でもかなり良いんじゃねぇか? 他のテイムされてる魔物がどんな扱い受けてるか知らんけど。
「お待たせー」
「っ!!」
来た……!!
風呂場の扉の向こうから聞こえるレヴィの声に、リヴはバッと後ろを振り向く。
扉の向こうから見えるレヴィのシルエット、それは間違いなく一糸纏っていないもであり、全裸であることがリヴの目からも十分にうかがえた。
やべぇ……遂にレヴィさんと風呂だ! しかもレヴィさんの裸も見れる!! あぁ生きててよかった!! あれだけ辛くて痛い思いをした甲斐があるってもんだぜ……!! よく頑張った、よく頑張った俺ぇ!!
そして、扉が開いた。
一瞬たりともレヴィの肉体から目を離さない。そんな固い意志を胸に抱き、リヴはカッと目を見開く。
「やほー!」
「……え?」
扉が開き、レヴィの姿を直に目に収めたリヴは間抜けな声を上げた。
――無理も無い。
「え、えーと……レヴィさん。それは?」
「あははこれ? これは水着って言ってね。大事な所を隠す時に使うんだよー」
レヴィは水着を着用していた。よって胸も、局部もリヴは視認することができない。
「……」
な、何だと……。
あまりにも予想外の出来事に、リヴは驚愕の表情を浮かべる。
「今回のご褒美は『一緒にお風呂に入る』だからね! それで私の胸はまだお預けだよ!」
リヴの期待を全て見透かしていたレヴィは、「のんのん」と指を振った。
「ま、マジすか……」
がっくりと、リヴは肩を落とす
まさか胸が見られねぇなんて……いや、冷静になれ俺。そもそも俺みたいなのがこんな美人と一緒に風呂に入れるだけで、十分恵まれてんだ。
勝手に期待し過ぎてたのは俺の方。気ぃ取り直してこの状況を楽しまねぇのは損ってモンだぜ。
考えを改めたリヴ。彼は顔を上げ、レヴィの目を見る。
「一緒に風呂入れるだけで最高っす!!」
「はい、良く言えました! そうそう、あんまり悲観し過ぎるものじゃないよ。それに、一緒にお風呂に入るだけでも堪能できるものはあるしね」
「ん?」
レヴィの発言の意図が分からなかったリヴは、きょとんと首を傾げた。
だが数分後、
お、おぉ。おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
彼はその意味を理解した。
やべぇ、やべぇやべぇ!!! 俺は今、幸せの絶頂にいるかもしれねぇ……いや、いる!!
リヴとレヴィは今、二人で風呂の浴槽に入っている。それもレヴィがリヴを包み込むような態勢でだ。
つまりどういうことか……レヴィの胸の感触が、リヴの背中に直に伝わっているのである。
「どう? 気持ちいい?」
「ひゃい!! 気持ちいいです!! 最高です!!」
後ろから囁くようなレヴィの質問に、リヴは大声で返す。
彼女は湯加減の意味で聞いていたのだが、リヴは胸の感触の意味でその質問を捉えていた。
今のリヴにとって、初めて浴槽に溜めたお湯に入った感想などどうでも良いことである。
「そーだ。リヴってちゃんと喋れてるけど読み書きの方はできる?」
「読み書き? いや、できねぇっすけど……。俺勉強? とか苦手っすよ」
「私が教えてあげるって言ったら?」
「死んでも頑張ります」
「はいよろしい!」
レヴィは「よしよし」と言ってリヴの頭を撫でた。
「でも『勉強』よりも、リヴはまずもっと強くなってほしいな。テイマーとして、テイムした魔物が強いのは嬉しいことだからさ」
そうだ。忘れてたぜ俺。
レヴィさんはわざわざ俺みたいな弱ぇ奴を拾ってくれたんだ。だったら俺は、レヴィさんのためにもっと気張らねぇと!!
「俺、頑張って強くなります!! レヴィさんが恥ずかしくならねぇように!!」
「あはは! その意気その意気♪」
そんなやり取りを経て、リヴは初めての風呂(美女同伴)を心の底から楽しんだ。
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