第五話 死にもの狂いで突き破れ
リヴはダイオウグソクトカゲに飲み込まれ、その胃の中にいた。
そしてその中は、当然の如く地獄だ。
「ああああぁぁぁぁぁ!!! あっちぃぃぃぃぃぃ!!! つーか痛てぇぇぇぇぇ!!??」
ダイオウグソクトカゲの胃の中の温度は凡そ300度を超える。そして胃の中に入った物を消化するための胃酸が流れていた。
あまりの高温にリヴのの肌は焼け、そして追撃するように酸が彼の肉体を溶かし続ける。
やべぇ……!! やべぇやべぇやべぇ!! 何だこれ何だこれ何だこれ!!! 死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死んじまう……!!
リヴの肉体は損傷するたびに再生を始めている。だが、再生するたびに肉体は焼け、溶け出す。
――永遠と続く痛みが、リヴを襲う。
「レヴィさん……!! くっそ、メシくれたし可愛いし!! せっかく好きになったのによぉ!! こんなことするなんてあんまりだぜぇぇぇぇぇぇぇ!!」
リヴは自分をこんな状況に追いやったレヴィに恨み節を吐く。
だがそんなことはお構いなしに、高温と酸の猛攻は続く。
肌が爛れ、容赦なく体が溶け、皮膚の内側の肉や臓器、骨が一瞬露出し、リヴの再生によってそれらは即座に見えなくなる。
そして再び肌が爛れ、体が溶ける。その繰り返しだ。
まさしく、生き地獄だ。
「イヤだイヤだイヤだぁぁぁ!! 何なんだよ俺の人生!! マジでよぉ!!」
絶え間なく続く痛みにより意識が覚醒し続けるリヴは、そう叫んだ。
その時、
「リヴー!!」
「あ……?」
リヴの耳にレヴィの声が届いた。彼はそれが外からの声だということに即座に気付く。
くそ……今更何だよレヴィさん……!! 俺をこんな目に遭わせといてよぉ……!!
今のリヴは、レヴィに対し激しい憎悪を抱いていた。彼女の声を聞くのは、むしろ逆効果だった。
――だが、
「この魔物殺したらさー!! 私と一緒にお風呂入ろー!!」
その言葉を聞き、リヴは硬直した。
「おふろ……?」
おふろ、お風呂お風呂お風呂……。レヴィさんと、風呂……?
リヴは風呂に入って体を洗ったことがない。外で水を被り、辛うじて清潔感を保っていた。それがラクトたちの方針だった。
だが、風呂というのがどういうものかは分かっている。浴槽に温かいお湯を溜め、それに浸かるものなのだということは知っている。
そして、風呂に入るときは……身体を洗うときは……当然『全裸』になることも知っていた。
レヴィさんの、裸……。
リヴは思わず想像する。先ほどまで憎悪を募らせていた女性の裸を。
「おお……おお……おおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
気付けば憎悪は消え去り、レヴィに対する下心が彼の頭を支配していた。
レヴィさんの裸、レヴィさんの裸、レヴィさんの裸ぁぁぁぁ!!!
「約束っすよレヴィさん!!!!!」
頭の悪いリヴは、酷く単純である。
「そうと決まりゃあコイツを倒す!! だからまずはこっから脱出だぁ!!」
肉体の再生を繰り返しながら、リヴは辺りをキョロキョロと見渡す。
「俺が流れて来た位置はあっちか!! つまりあっちが口の方で、後ろにケツの穴があんだな!!」
脱出口は二つ、どちらから脱出しようかリヴは溶けだした腕を組みながら思案する。
そして数秒後、答えは出た。
「よし、ケツの穴から出よう!! 流れに従った方が出やすいだろ!! 俺って頭良い!!」
酷く頭の悪い考えで結論を出したリヴは、早速後ろの穴に向かい歩き出す。
「……いや、待てよ?」
だが、すぐにその足を止めた。
「おい、おいおいおいおい! 俺って頭良いどこじゃねぇ!! ひょっとしたら天才かもしれねぇぞ!!」
本気で言っているのかと疑いたくなる発言をかましながら、リヴは『第三の選択肢』を思いつくのだった。
◇
「ふんふんふーん」
一方、外ではレヴィが呑気にことの成り行きを木の上から眺めていた。
ダイオウグソクトカゲはゆっくりと沼地を闊歩している。
「さーて、どうするかなリヴは」
そう言って、ケラケラとレヴィは笑う。
「ギュオォ!?」
「ん?」
そして異変は起こった。
ダイオウグソクトカゲが急に苦しみ出したのだ。
「ギュウァァァァァァァァァァァ!!!」
更に悲痛な叫びを上げるダイオウグソクトカゲは、激しく体を動かし頭を木に激突させる。
「はは、そうこなくっちゃ!」
レヴィは目を輝かせた。
「ァァァァァァァァァァァァ!!??」
ダイオウグソクトカゲは吐血する。内部に深刻なダメージを負ったようだ。
「ギュウゥゥゥゥゥ……ァァ……!! ア、アァ……」
数秒後、ダイオウグソクトカゲは力尽きたように倒れ、息を引き取った。
『はっはっはっはっはぁ!! ようやく死にやがったか手こずらせやがって!!』
そしてその死体の中から声が聞こえてくる。声は徐々に大きくなっていき、ダイオウグソクトカゲの口から彼は現れた。
「俺の勝ちだぁ!!」
服が溶け、全裸となったリヴは拳を高く上げ、勝利をアピールする。
彼が取った『第三の選択肢』、それは魔物の内部から攻撃を仕掛けるというものだった。
いくら魔物と言えどその内部……つまり臓器は外皮より遥かに脆い。加えて、ひとたびそれが損傷すれば、致命的なダメージとなり魔物を襲う。
リヴはダイオウグソクトカゲの胃の中にあった捕食され骨だけとなった魔物を利用し、胃を攻撃した。そして最終的には胃を突き破ったのだ。
後は単純だ。胃から脱出した彼は次の臓器に向かい、更に攻撃を加えた。途中骨を紛失してしまったので、自らの手で内臓に手を突っ込み、破壊した。
こうしてリヴは敵を殺し、動かなくなったことで再生を繰り返しながら難なく口から帰還したのだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……疲、れた」
蓄積した痛み、そしてその度に行われた再生。更に内臓を破壊するために相当の体力を消耗した。勝ち誇っていたリヴは、すぐに力無く倒れ、ダイオウグソクトカゲの口から地面へと落下する。
「よっと」
しかし地面との激突をレヴィは防いだ。
「お疲れさま! よく頑張ったね!」
「へ、へへ……」
レヴィの聖母のような笑みを見ながら、リヴは眠りについた。
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