第一話 少年はテイマーから契約解除される
「おいリヴ。てめぇはもう用済み、契約解除だ。だから俺たちのパーティー『グラディアス』からも追放な」
「え……」
森の中にある洞窟の前で、魔物の少年リヴは主であるテイマーのラクトにそう言われた。
「な、なんでっすか?」
リヴはとりあえずそう聞いてみる。
「はぁ? そんなのてめぇに使う魔力がもったいねぇからに決まってんだろうが。一人で俺の魔力をアホみてぇに使いやがってよぉ!!」
すごい剣幕でラクトはリヴに言い放つ。
テイマーは魔物をテイムした際に魔力量の数パーセントが使えなくなるという制約があり、ラクトはテイムリヴをテイムした事によって、自身の総魔力量の90%が使用不可になってしまったのだ。
「でも俺、今までラクトさんたちのために頑張ってきただろ?」
「……はははは! おいおい聞いたかよ、今のコイツの言葉」
ラクトはその場にいる他の三人に目を向けた。
「笑えない冗談だな」
「生意気言ってんじゃないわよ!! あんたのせいで私達がどんだけ被害を受けてると思ってるの!?」
「その通りですわ! 卑しき魔物が!」
そう言ったのは剣士のユーゴ、魔法使いのロキシル、聖女のスラーナ。ラクトと一緒に戦うパーティーメンバーだ。
三人はラクトと同様に、リヴに対して辛辣だった。
というのも理由がある。
先程言ったようにラクトはリヴをテイムした際、魔力の90パーセントが使えなくなった。それを避けるために、ラクトは契約者を自身だけでは無くパーティーメンバ―全員に変更したのである。
これによってラクトが負担する90パーセントは4等分されたのだが、それはすなわち他のパーティーメンバー全員が魔力の制限を受けることに他ならなかった。
が、そんなことリヴが知る由も無い。
「えーと、なんかすいません?」
とりあえずリヴは素直に謝る。するとラクトは少し目を伏せながら言った。
「確かにまぁ、最初は道具としてそこそこ役に立ってたよ。言うことは何でも聞くしな」
ラクトは奴隷商からリヴを紹介され購入、テイムした。何故ラクトがリヴを選んだのかと言えば、それはラクトの実力不足だったからに他ならない。
強い魔物をテイムするには、テイマーであるラクトが強い必要がある。強くなければ相手がテイムに抵抗した場合テイムが失敗するからだ。
だが駆け出し冒険者だったラクトがいきなりそんな強いわけもない。その上でテイムに抵抗しないリヴは初心者テイマーだったラクトにうってつけだった。
「それに、てめぇは魔物の中でもかなり頑丈だ。だから討伐対象の魔物の力がどんなもんかお前に先行させて調べさせて、必要なときにはてめぇを盾に攻撃を防いだ」
ラクトがリヴを選んだもう一つの理由。それは奴隷商の売り文句だった。
――『この魔物は普通の魔物よりも頑丈です』
それを証明するように、奴隷商はリヴに暴力を振るいナイフで腕を切ったりした。だがリヴには一切の傷がつかなかったのだ。
これが、ラクトがリヴをテイムする決め手となった。
「けどな、このパーティは全員が強くなった。てめぇを使った偵察も肉壁も必要ねぇ」
ラクトのパーティーは、リヴを使って数々のクエストをこなし、冒険者ランク最低のEランクからBランクまでをたったの二年で駆け上がった。
二年でここまでランクが上がる者は中々おらず、ラクトたちのパーティーは周囲からも一目置かれていた。
「えーと……」
リヴは何も言い返せなかった。
確かにラクトの言う通り、最近は彼らが様々なスキルを習得し戦闘経験を積んだからか、リヴが体を張って偵察することも肉壁として前に立つことはここ数か月無くなっていた。
今リヴがしていることと言えば誰にでもできる雑用だ。
「俺たちはもうすぐAランクになる。つまりAランクの魔物を相手にするわけだ。いくらてめぇが頑丈でもAランクの魔物相手じゃたちまち殺されんのがオチだ。分かるか? このままてめぇを従えててもメリットがねぇんだよ。だったらてめぇとの契約を解除して、自由になった魔力で強力な魔物をテイムするか、特攻用の雑魚魔物を大量にテイムした方が有意義だ。今の俺なら、それができる」
ラクトはリヴにゴミを見るような目を向けた。
「それに気持ち悪いのよ。アンタみたいな不気味な魔物がいたら、パーティーの士気が下がるわ!」
追撃するように、ロキシルは罵声を浴びせた。
「さ、もういいだろ」
ラクトは自身の手の平を魔物の少年に向ける、そして彼は決定的な言葉を口にした。
「うぇ!? ちょ、待ってくれよラクトさん! アンタに捨てられたら俺のメシは……!?」
「【契約解除】」
瞬間、リヴは身体から何か解き放たれる感覚がした。テイマーであるラクトとの関係が完全に断たれたのである。
「じゃーなリヴ」
「うぇ……?」
ラクトがそう言うと、ユーゴが抜剣し、リヴの頭と体を切り離した。
鈍い音を立て、リヴの頭部は地面に転がる。
リヴは、初めての死を経験した。
彼は今まで偵察役、壁役として何度も魔物の攻撃を食らってきたことがある。
しかし、それらは全てCやBランクの魔物の攻撃だ。肌が焼けたり、切り傷をつけられたり、体を強く打ち付けられたらする程度のものだった。
無論、それだけでも普通の人間であれば死に繋がることもあるのだが。
が、今回は違う。部位の破損、消失なのだ。
頑丈というだけではどうすることもできない致命的な損傷である。
「うっし、じゃあ皆行こうぜ」
「はぁーようやく邪魔者がいなくなったわ」
「私たちはAランクになるパーティー。あんなのといると評判が落ちるのは確実。殺して正解ですわ」
ラクトの言葉に従うように、ユーゴとロキシル、スラーナたちパーティーメンバーは動き出す。
誰一人立ち止まること無く、それどころか全員が侮蔑の視線を浴びせ、死体となったリヴの前から姿を消していった。
こうして彼は、一人になった。
――だが、ラクトたちは知らなかった。
リヴは特段頑丈なわけではない。ただ単純に、『回復力が尋常ではない』のだ。
殴られても、ナイフで切られても、傷をつけられた瞬間に治っていくため傷がついていないと錯覚しているのだ。
初めての死を経験したリヴの肉体は、戸惑いながらもゆっくりと再生を始めていた。
死なない特性を持つ、世界で最も希少な種類の魔物――【アンデッド】。その存在は最上位機密事項であり、ごくわずかな者しか知らない。
リヴはそれに該当する。
自分たちがいかに愚かな選択をしたのか、ラクトたちパーティーはのちに後悔することになるのだった。
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