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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

No腫瘍

作者: John

がん探知犬。人間の10万倍以上といわれる嗅覚を奴らは備えている。俺はチェーンスモーカーで酒もやる。かみさんのケイティが俺にぽつりと言った。「クエンティン、あたし、リースとアヴィーもこれからまだまだお金がかかるし、あんたの身体が心配なの。今度、市役所で無料の健康診断があるんだけど、がん探知犬も来るらしいの。あんた、一度検診を受けてちょうだい」俺は人生一度きり。おもしろおかしく生きて死ぬ時は若かろうが年取ってようがそれが寿命ってもんだって思ってたが、かみさんや子供の事を考えて受けてみようと思った。その日から俺はニコチンパッチを貼り酒の量も減らした。そして、がん探知犬にお目見えする日がやって来た。看護士とがん探知犬のトレーナーが俺に言った。「ここに呼気を吐いてください。それと、このカップに検尿して持って来てください。検査の結果はすぐに分かりますので後は医師に説明を受けて下さい」臭い息と小便の臭いを嗅がされてがん探知犬という仕事も難儀な商売だなと犬に憐憫な思いを寄せた。呼気と検尿の検査が解り、俺は医師に呼ばれた。医師は神妙な面構えで俺に言った。「オドネルさん、検査の結果は陽性でした。精密検査をされる事をお勧めします」俺は日頃の不摂生が祟ってとうとうあの世からお迎えが来たんだなと淡い落胆の色を見せつつ、かみさんと子供の事を考えた。こうして俺はセント ピーターズ病院でPETの検査を受ける事になった。PETとは、放射能を含む薬剤を用いてブドウ糖代謝などの機能から異常をみて検査するってなすげえ奴だそうだ。CTと違って全身を一度に検査出来るってのもすげえなと関心した。俺は薬剤を投与されカプセルみたいな奴に入った。器械がガタガタと音を立てながら俺の身体をスキャンしていく。癌細胞を探す未知の世界へと俺を誘っていくように…検査が終わると病院内のその筋の医師や技師が4、50人集まってコソコソと内輪で話している。皆、一様に驚嘆と動揺、混乱が入り交じったような表情で俺を見ている。「先生、これは医学史に残る発見です」一人の医師が言った。俺は不安に駆られた。100万人に一人、いや、1億人に一人、いや、医学史に残る発見とか言っていたな。とすると、世界初?医師を統括していると思われる齢60くらいの白髪交じりの医師が言った。「オドネルさん、脳に重大な異常が認められました。追加でMRIとCTの検査を受けて頂きたいのですが。費用は自己負担になりますがよろしいでしょうか?」俺は想った。普通、医学史に残る発見とかだったら病院側が検査費用なんか負担してくれるんじゃねえのかと…そして、そんな大層な発見ならば治療法とかも確立されてねえだろうし、俺は死ぬなと思った。「解りました。先生、お願いします」俺はMRIとCTの検査を自費で受けた。2日後。俺は検査の結果を聞きに病院に行った。診察室に通されるとそこには入りきれる限りの医師団がびっしりと部屋を占拠し異様な空気が流れていた。俺は診察室の椅子に座り開口一番おどろおどろ尋ねた。「先生、俺は死ぬんでしょうか?」この前の白髪交じりの医師が言った。「結論から言いますと癌は何処にも認められません。オドネルさん、腫瘍は何処にも有りません」俺はきょとんとした。「でも、先生、MRIとCTの検査を受けたのは脳腫瘍の疑いがあったからじゃないんですか?」「実はその件なのですが…」医師が言葉を濁しながらクリアファイルからMRIフィルムの断面図をシャウカステンに掛けていく。頭蓋骨内の脳の写真がくっきりと映し出される。そこには掌サイズの男の子のようなシルエットがくっきりと浮かび上がっている。「先生、こ、これは何ですか?」医師は当惑しながら言った。「断面図を3D化して検証してみたのですが。お知りになられないでいた方が…」俺は懇願した。「先生、教えてください」「『チャイルド プレイ』のチャッキーです。脳が存在しないんです。足の裏から神経中枢に繋がっている繊維状のようなものが認められます。言ってみればチャッキーがあなたのブレインです」俺は阿呆のように口をあんぐりと開けた。「チャッキーが手にしている物は?」「手斧だと思われます」チャッキーが手斧の柄をペシペシと掌に叩き付けている断面図がMRIフィルムに映し出されていた。「先生、あのがん探知犬が俺を癌と誤認したと?」また医師は言葉を濁しながら言った。「犬も生き物ですから…」医師団から失笑が零れる。その時、神が降臨するかのようにチャッキーが覚醒して奴の声が聞こえてきた。「あの、がん探知犬を殺しちまえ。ついでに、この能無しの医者どもも皆殺しにしちまえ。殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ…」俺は自分で入れた覚えの無い手斧をバッグから取り出し頭上に振り翳していた。

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