お城で愛玩動物を飼う方法
※読む人によっては胸くそだったり、不快だったりするかもしれません。
誤字直しましたありがとうございました。
婚約を解消してほしい、ですか?
まあ! まあ! ああ、いえ、驚いただけですわ。申し訳ありません。理由をお伺いしても宜しいでしょうか?
まあ! 愛する方が? いえいえ、とても素晴らしいことだと思いますわ。
それで、わたくしへ婚約解消ですのね。
ええ。宜しいですわ。わたくしは。
いいのか、ですか?
ええ。ですから、わたくしは宜しいのです。愛する方々を引き離すような真似は、わたくしもしたくはありませんもの。
いえいえ、そんな。お礼を言われる程のことではありませんわ。ええ、全く。
それで、どちらのご令嬢なのでしょうか? 侯爵令嬢? 伯爵令嬢? それとも、他国の令嬢や王女様なのでしょうか?
え? 違うのですか?
はあ……貴族ではない?
偶々知り合った平民のお嬢さん、ですか。
あ、いえ。そんな、侮辱など致しませんわ。ええ、はい。とんでもございません。
はい、わたくしは、婚約解消を了承致します。ええ、殿下にここで言われたのですから。
ですが……少しだけ、わたくしの雑談に付き合ってくださると嬉しく思いますわ。
いいえ? 説得など、するつもりはございませんわ。……もう、無駄なことですので。
婚約を解消してしまったら、もう殿下とはこうしてお話できるような機会も無くなってしまうでしょうから。これがきっと、二人だけの最期のお話になるでしょうし。
この立派なお城の庭園も、本日で見納めとなることでしょうね……
まあ、お付き合いくださるのですか? ありがとうございます。お優しいのですね。
では、そうですね。殿下は、『ペット』を飼ったことがお有りでしょうか?
あら、有りませんの。そうですか。道理で……
あ、いえ。犬や猫、うさぎ、小鳥、様々な動物達がおりますでしょう? 珍しいものだと、獅子や虎、猛禽類などの獰猛なペットを飼われている他国の王族の方もいらっしゃるようですから。
ええ、ええ。獰猛な動物は飼育がとても大変なのだそうですわ。けれど、そんな珍しくて、飼育の難しい動物を飼うことを、王候貴族の箔付けだと見做している国もあるそうなのです。
中には、王族自ら狩りへ出て見繕って、捕まえた動物をペットにする国もあるそうですわ。
殿下も憧れるのですか? まあ、殿方はやはり、そういうものなんですのね……
……いえ、なんでもありませんわ。
でしたら殿下は、その捕まえられてしまった動物がどういう風にお城へ召し上げられるかご存知でしょうか?
そのままお城に、ですか?
いえ、まさか。そんな筈はありませんわ。
まずは、専門のお医者様の『診察』ですよ。はい、病気を持っていたら大変ですものね。お城の方に、迷惑となりますから。
お医者様の『診察』がお済になったら、次は徹底的に『洗浄』しなくてはいけませんわ。ええ、そうです。不潔なままお城へ上がるなんてこと、仮令無知な動物だとしても、とても許されることではありませんもの。
ええ。『身綺麗にする』のは当然のことですわね。ダニやノミ、その他寄生虫や人に移る病気を持っていたりなんかすると大変ですもの。ダニやノミなどは、人間の血も啜るんですのよ?
では、次にすることはおわかりでしょうか?
いいえ。お城へ上げる前に、どうしてもしなければいならないことがありますわ。
わかりませんか? 『躾』ですわ。
ええ、だって、誰彼構わずに吠え掛かったり、噛み付いたりしたらとても困りますもの。下手をしたら、飼い主にも噛み付いてしまいますわ。
それは困りますでしょう? ええ、ですから、徹底的に躾なくてはなりませんわ。
まずは無駄吠えをしないよう、誰彼構わず噛み付かないよう、教えなくてはなりませんわ。
それから、『序列』を教え込んで、逆らってはいけない相手には『絶対服従』を。
そして、それ以外の命令を聞いてはいけないということを教えてあげなくてはいけません。
間違っても『粗相』をしないように。
更には、『食事』についてはとても厳しく躾なくてはなりませんわ。
? 当然ではありませんか。だって、王族に飼われるのですよ? 誰からでも『餌』を貰って、下手に食べてしまって、もしもそれが毒入りだったらどうしますの?
毒に拠っては、折角捕まえたペットがすぐに『台無し』になってしまいますわ。
そんなことになったら、可哀想ですものね。
それから……
まだあるのか、ですか? 当然ですわ。
だって、『生き物を飼う』のですから。『命を預かる』のですよ? 適当なことは、赦されません。
そのペットがなにをするかで、『飼い主への評判』にも関わって来る重大なことなのですから。
そして、『愛玩動物』も、動物です。
なんといいますか……レディの口からは少々言い難いのですが、ありますでしょう? その……発情期、という現象が。
少々目を離した隙に、いつの間にか子供を……なんてことになってしまったら、目にも当てられませんもの。
ええ、ええ。そんな事態になってしまっては、とても大変でしょう? 『王族の愛玩動物』に手を出したモノがいては、厳粛に『責任追及』をしなくてはなりませんもの。
大袈裟、ですか?
いいえ、いいえ。そんなことはございません。
どんなことでも、王族の方が他者へ付け入る隙を与えてはなりません。それが仮令、『愛玩動物』のことに対してだとしても。
王族が『愛玩する』のですもの。『愛玩動物』にだって、『由緒正しいお相手』が必要ですわ。
どこの馬の骨かもわからないお相手は、『絶対に赦されないこと』です。
それができないのならば、去勢してしまうよりありません。ああ、いえ。実際に施術処置をしてしまうかは兎も角、お薬を使うという手段もありますので。……まぁ、身体に負担はそれなりにあるでしょうが。
けれど、お城に連れて来てしまった時点で、身籠ってしまっているようなことも……絶対に無い、とは言い切れませんが……その場合には、流してしまうか、『処分する』より仕方ありませんわね。
だって、『愛玩動物』とは言え『王族のモノ』なのですから。然るべきときに、『然るべきお相手』と子を作って頂かなければなりませんわ。
そうでなければ、とても大変なことになってしまいますもの。『血統』は大事なことですもの。
それに……
まだあるのか、ですか?
ええ、まだございますわ。
これは、動物を『お城に上げる』と決めた時点でしなくてはならないのですけど。
なにを、ですか?
それは当然、『親兄弟、親類縁者と引き離す』ことですわ。だって、野生動物や野良なのですよ? ほら、絆の強いタイプの動物っておりますでしょう? そういう動物が、身内を返せと乗り込んで来る可能性もありますから。
『そういうこと』が起きないよう、『愛玩動物』が身内に助けを呼ばないよう、引き離さなくてはなりません。
そうでなければ、その『群れ』ごと『囲い込む』しかありませんわね。無論、『群れ全体』を『徹底的に管理』して、『厳粛に躾ける』ことが必要不可欠になりますが。
このような『躾』に拠って、精神的に追い詰められ、心身共に不調になってしまうモノもいるそうで……下手をすると、自ら命を……ということもあったりするそうですが、仕方のないことですわ。
可哀想、ですか?
ええ、そうですね。わたくしも、心よりそう思いますわ。本当に……
ええ、ええ。途中で可哀想とお思いになるのでしたら、外に暮らしている野良の動物なんて、最初から構っては……欲してはいけないのです。
だって、『王族』なのですもの。
権力を有する者が口にすれば、大抵のことは叶ってしまいますわ。
あら、そんなに可哀想ならば飼うのをやめてしまわれる、ですか……
そう、ですか……お可哀想に。
え? なにが、と?
殿下は、ご存知ないのですか? 一度人に飼われてしまった動物は、外で生きて行くのがとても困難になってしまうのですよ? 群れには戻れず、餌の取り方も忘れてしまって……
『親切な顔をした悪い人間』に、すぐ捕まってしまうことが多いらしくて。
ええ、ええ。可哀想に。毛皮を剥がされたり、見世物にされてしまったり、無理矢理交配させられてしまったりと……すぐに『食い物』にされてしまいますの。
だから……そういう、中途半端に人に懐いてしまった動物を……『殺してしまうほうが親切』だ、と主張する方もおりますので……
あら、殿下? どうされましたか? お顔の色が急に、お加減でも悪いのですか?
え? わたくしのせい、ですか?
ああ、『愛玩動物』のお話でお気を悪くなされたのですか? それは申し訳ございません。
いえ、いいえ。わたくしに他意はありませんわ。
わたくしはただ、『愛玩される側』のモノについて、少々語っただけですもの。
それが、こんなにも殿下のお気を悪くしてしまうことだとは気づきませんで。
本当に申し訳ございません。
ええ、婚約解消については、わたくしは、了承致します。あくまでもわたくし個人としては、になりますが。
お父様や陛下へは、勿論殿下の方からお話を通してくださったのでしょう?
え? これから、なのですか?
そう、ですか。それはまた……
ああ、いえ。なんでもありませんわ。打診も根回しも相談もなにもせず、婚約者であるわたくしとの公式なお茶会の席で、いきなりこのようなお話をされるだなんて……
ああ、いえ。これから、とても大変なことになるのだと思っただけです。
殿下はこれから、ご自分の身の振り方をよくよくお考えになると宜しいかと。
なにを、ですか?
だって、この場にはわたくし達以外にも人がいらっしゃるではないですか。
ここは、お城の一角ですよ? しかも、開けた庭園です。そんな場所で人払いもせず、婚約解消についてお話をなさるのですもの。もう既に陛下へ伝わっているに決まっているではないですか。
え? 殿下がどうなるか、ですか?
そんなことわたくしに聞かれても困りますわ。だって、お決めになるのは陛下でしょうから。
それに、わたくしだってどうなるか……ああ、いえ。婚約解消をされるのですから、殿下には関係無いことでしたわ。お気になさらず。
それでは、わたくしはこの辺りで失礼致しますね。
ええ、ええ。もう二度と殿下にお目に掛かることは無いかと存知ますが。
お元気で。お身体にはお気を付けて。
殿下の幸運をお祈りしておりますわ。
さて、これからどう致しましょうかねぇ……
殿下へ嫁ぐよう育てられたわたくしは、もう用済みでしょうし。
『病気』になってしまう前に……
『管理された檻の中』を出て外で野垂れ死にするも一興、と言ったところでしょうか。
……まぁ、簡単には野垂れ死にしてやるようなつもりはありませんけど。
『檻』の中で生涯を過ごすことを定め付けられ、そういう風に育てられたモノだとしても――――
わたくしにだって、それなりの矜持くらいはありますわ。知恵だって、全く無いというワケではありませんもの。
足掻いてやりますわ。
とりあえず、『檻』からの脱出でも企てますか。
読んでくださり、ありがとうございました。
まぁ、王子の頭がお花畑だとしても、王室自体はまともに機能しているとするなら、こうなるんじゃないかな? という話ですが、ダークですね。
感想はお手柔らかにお願いします。
ブックマーク、評価ありがとうございます。
こっちの続きっぽい話を書きました。
タイトルは、『お城で愛玩動物を飼う方法~わたくしの小鳥さん達~』です。そっちはハピエン風味になりました。
タイトルの上の、『シリアス系な短編』リンクから飛べます。