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15話:私だけにしてください。

久しぶりの更新になりました。

(この娘は、自分の言動がどうとらえられるのか分かっていないのか)



 社交界を渡るケネスにとっても初めてと言っていい反応だ。あの聡明な伯爵の令嬢がこの体らく。想定外もいいところだ。


 何度伝えようとしてもこの伯爵令嬢には届かないらしい。やんわりと対応するのが社交界のマナーではあるが、これははっきりと伝える他はなさそうだ。

 アリアナのために。



「そういうところですよ。レディ。あなたは、私を口説き落とそうとなさっておられるのですか?」


「くど……!」



 アリアナは顔を真っ赤にし、口ごもった。



「前お会いしたときも随分思わせぶりでした。平民の私を一時の慰みにでもしたいと思われているのですか?」


「いいえ、決して。その……。私はただベナーニさんとお友達になりたいだけなのです。ベナーニさんはいろいろなことをご存知ですから、あなたのことをもっと知りたいと思っています。もちろん、あの、変なことを企んではいませんし……」


「決して愛人などと」と尻すぼみになりながらアリアナは必死に否定する。



(それを世間一般では口説くというのだが)



 この国を離れているうちに観念が変わってしまったというのか。

 やれやれとケネスは首をすくめ、「レディ・アリアナ」とアリアナにますます顔を寄せた。



「あなたのおっしゃることは分かりました。いいですか? 今のような言葉は、つまりは心に浮かぶ思いを、社交界では表に出さないのが賢明です。あなたには無理でしょうから、そうですね……」



 ほんの少し思案した風に視線を外し、ケネスは意味深に微笑んだ。



「これからは私にだけにしてください。他の方におっしゃらないでください。あたり構わず誰彼に声かけるのはただの尻軽ですから」


「尻軽!」



 アリアナは目を白黒させる。


 籠の鳥とまではいかないまでも、田舎の領で家門の者だけに囲まれて育ってきた。エミリーとは違って、異性とは何の縁もない所にいると自認している。


 それなのに尻軽だなんて!



「そんなこと、おっしゃらないでください。ひどいわ、べナーニさん」



 ケネスは吹き出した。



「レディ・アリアナ。近頃では年若い女性でも公にできない恋人を持つのが流行です。私も色々見知っていますが、ほら、あなたの親友であるエミリア様と我が悪友のように……あなたがの方々のように自由主義ではないことを切に願いますよ」


「ちがいます。決して! 勘違いなさらないでください」


「ハハハ。冗談です。分かっていますよ。あなたが尻軽であるならば、世の中の女性は皆地獄に落ちなければならないでしょう。……ではレディは私と愛人関係ではなく、友人となりたいというわけですね?」


「そうです。いけませんか?」


「いいえ、あなたのような若くて美しい方と友人になれることは平民としての誉れです。では、友人であるならば、ベナーニではなくファーストネームで呼んでくださいますか。私の友人は皆そう呼びます」


「……ケネス」



 アリアナはケネスの名を呟くと、おずおずと見上げる。



「はい。何でしょう?」



 ケネスは戯けた口調で応え、肩をすくめた。



「あなたのことはレディ・アリアナ? それともアリアナ様?」


「私にはレディも様もいらないわ。もっと気楽にはなしていただけませんか? ベナ……ケネスがスレイドさんに話すように」


「ダニエルと同じように? 気楽に……ですか。淑女に対して男同士と同じようにはいきませんが、努力します。で、よろしいですか?」


「もちろんです。ケネスはとても親切なのね」



 アリアナが知る限りでは、女性にここまで丁寧に言葉を選んでくれる異性は身内でもいなかった。


 世の中の男性の全てがこうだとはとても思えないが、ケネスは間違いなく尊敬を持った態度で接してくれる。


 それがアリアナには嬉しかった。


 しかもケネスに男性として惹かれている今。

 ケネスの何気ない一言に心が高まってしまっていた。

 これが恋なのだろうか。



「ケネスは皆様にも同じように親切なのですか?」


「基本女性は尊ばれるべきものだとは思っていますが、皆が当てはまる訳ではありませんよ。ご安心ください。では、新しい友人のアリアナ。もしもラストダンスの相手がまだ決まっていないのならば、本日も私とワルツを踊っていただけませんか?」


「……よろこんで。あれから練習をしたのです。ワルツ、上手く踊れるようになりました」


「それは楽しみです」



 アリアナが差し出されたケネスの腕を取ったのと同時に、会場がどっと湧く。

 ゲストたちの視線の先には、鮮やかなドレスをまとったエミリーとパートナーであるダニエルの姿があった。



「アリアナ、本日の主役たちに挨拶しにいきましょうか」



 アリアナはそっと頷き、ケネスの腕を握りしめた。

お久しぶりです。


吉井あんです。

前回の更新後、宮平なおきから改名しました。

(宮平〜の名前が有名ミュージシャンと同じでしたので汗)


ゆっくり不定期の更新となりますが、最後までお付き合いくださいね。

では。

次回もお会いしましょう。

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