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13話:あなたに恋をしたようです。

本編もどります。

エミリィの婚約式が始まります。


ちょっぴり甘いかもしれません。

 エヴァンス伯爵家とスレイド家。

 この国の民であるならば、誰でもその名を知る存在である。


 全ての産業に食い込み奥底にまで根を張ったこの二つの家門は、国王でさえも時に両家の顔色を窺うこともあるという。

 つまりは「この国の経済の要」である。

 

 二次産業・三次産業が加速度的に成長しつつある現代において、経済を支配する者は国をも配下に置く。

 この国の真の支配者はエヴァンスとスレイド両家門といっても過言ではない。


 その二家が婚姻をもって結びつくという。


 何の前触れもなく突然発表されたエミリア・エヴァンスとダニエル・スレイドの婚約。

 過去に例のないほどに――王族の結婚でさえも凌ぐほど――大きく報道されることになった。


 誰もが想像もしなかった両家の結合。

 

 覚めやらぬ衝撃のなか渦中の二人の婚約式が急遽行われることが決まった。

 それが数日前のこと。



(さすがはエヴァンスとスレイドね……)


 アリアナは人でごった返す会場を呆れたように見渡した。



「宰相閣下から王太子殿下までいらっしゃるなんて」



 王族や上位貴族のおもなスケジュールは遅くとも一ヶ月前には決定されている。それなのに国を動かす権力と勢力を持つであろう重鎮たちが顔をそろえているとはありえないことだ。


 全ての予定をキャンセルしてでも出席せねばならない重要案件がこの婚約式であり、どれだけ巨大な権力をもっているのかということだろう。



「さすがね」



 殆ど社会と係わりの無かったアリアナでさえも見知っている政財界の大物たちが談笑している。


 その中でも特に目立つ一団があった。

 きらびやかな衣裳の人々はエミリィかダニエルの親族であろうか。男性も女性も最新のモードで飾り立てていた。

 女性陣の身に付けた貴金属のなんと豪華なことか……。



(田舎の伯爵家とは世界が違う感じね。王家の方々よりもずっと堂々としているし、いかにも彼らの方が王族らしいわ)



 現代の支配者は経済を支配する者たちなのだろう。

 爵位タイトルなど何の意味も無い。



(ベナーニさんもこういう世界に住んでいるのね)



 商売で成功しかなりの富を持つというケネスもそういう人たちの一員なのだと、アリアナはしみじみ思いながらレモネードを口に運んだ。



(ベナーニさんはどこかしら。こんなに人が居るとわかんないわ……)



 黒髪もちらほら見えるが、如何せん人の多さにどうしようもない。


 会いたい。

 今すぐに、顔が見たいのに。

 


 ケネスの姿はどこにもなかった。





 

 アリアナは人で溢れる大広間を出、目的もなく邸宅の中をそぞろ歩き、気付くと見覚えの無い部屋の前にいた。


 いつの間にかメイン会場である大広間からほんの少し外れた場に来てしまったようだ。


 かすかに葉巻の香りがする。

 どうやら男性専用のエリアらしい。


 ひっきりなしに行き来する下僕フットマンや下女たち、盛装した紳士までもが無遠慮な視線をアリアナに浴びせかけ、ひどく落ち着かなかった。



(こんなところに来てしまった。はやく戻らなくては)



 若い女性が一人で男性用の喫煙室の前でうろうろしているなど、あってはならない事柄である。

 おかしな噂が立ってしまっては、ウェザリー伯爵家の疵になる。


 踵を返そうとしたとき、アリアナは自らを呼び止める声に足を止めた。



(この声って!)



 アリアナは振り返った。



「ベナーニさん!」

「やはりあなたでしたか。レディ・アリアナ。どうしてここにいらっしゃるのです?」



 心細さとケネスに出会えた悦びにアリアナは破顔し駆け寄った。

 ケネスは慌てたように壁際に導き、



「こんなところに女性がお一人で居るなんて、無用心きわまりない事ですよ。付き添い役はどちらに?」


「今日は末兄に付き添い役をお願いしているのですが、兄は……」



 喫煙室から出てきた招待客が横目でアリアナを眺めながら通り過ぎる。

 ケネスは客からの視線を遮るようにアリアナの前に移動した。


 ふわりと葉巻とあの涼やかな香水が香りたつ。


 アリアナは思わず目を伏せた。


 ドクリと心臓が鳴る。

 なぜだろう。体の芯も熱くなる。



「兄は……カードルームにいるとおもいます」


「見守らなければならない妹をほったらかしで、ですか? 困ったお兄様ですね。ここは喫煙室前ですよ。男性ばかりのこのような場にあなたのような女性が一人でいてはなりません」


「ごめんなさい。邸宅が広くて、歩いているうちに迷ってしまったの」


「……あなたらしいですね。そろそろ会場に戻ろうと思っていたところです。ご一緒いたしましょう」


 と柔らかに言うと、ケネスは腕を差し出した。

 アリアナは腕を通しながら、体中が熱くなるのを感じていた。きっと頬も赤らんでいるはずだ。


(どうしよう、私)


 ケネスにこう触れるだけで、喜びが溢れてくる。

 もっともっとと衝動が湧き上がる。


(これは、うん。そうね)


 ケネスに恋をしているんだ。

読んでいただきありがとうございます。

前回の更新では番外編を3話公開しました。


今回から本編にもどります。


ブックマーク・PVありがとうございます。

とても励みにしています。

またお会いできることを祈って。


追伸:他にもいろいろ書いています。

よろしければこちらも!

https://mypage.syosetu.com/1722750/

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