表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/18

番外編:クリスマスの贈り物(3)

本編はなれまして番外編3話目です。

これで番外編は終わりです。


本編から27年前が舞台になります。

「この子の名前が決まったわ。ケネス・バースィル。ケネスはアランのふるさとの名前、そして私の国の名バースィル。父親からの最初で最後の贈り物が名前だなんて、クリスマスに最高のプレゼントだわ」



 ジュマーナは飛び切り明るい笑顔で言った。


 かわいそうに。

 この子は父親から名前だけしかもらうことができなかった。富も地位も、なにもかも授けられなかったのだ。


 ジュマーナの極めて明るく振舞う様子にウェサリー伯爵はいたたまれなくなり、シャーロットの手をとると握り締めた。



(嫡子にはなれなくとも、せめて認知でも……。あぁ不可能だ。この国に逆らうことなど、閣下にはできはしないだろう)



 これが最善なのだろう。

 この小さなケネスにとっても、ジュマーナにとっても。


 ウェザリー伯爵はそっと嬰児を抱き上げた。



「ケネス。ケネス・バースィル・ベナーニ。……良いお名前だ。すばらしい男子に育つのですよ。この国はあなたには試練しか与えないかもしれません。でも世界は広いのです。あなたを受け入れてくれる国もあるでしょう。幸せに生きるのですよ」



 ぐっすりと寝入るケネスを赤子の母に返し、



「あなた様もです。御子とともにお幸せにおなりください」


「当然よ。私はこの子と最高の人生を送るわ。この子は、ケネスは私とあの人の子ですもの。世界の大陸と血の繋がった貴重な子なの。幸せな人生を送る運命の下にあるわ」


「ジュマーナ様。ご後悔なさっておいでですか? 祖国に留まっておればと……。国に戻れば尊い立場であるのに、この国では平民だ。しかも決して認められない存在でもある」


「ウェザリー伯は相変わらずおかしなことを言うわね。後悔なんて全くしていないわ。私が選んだのよ。アランを愛したのも、子を産んだのも私の選択。何の後悔も無いわ。むしろこんなにかわいい子を授かったの。幸せよ」


「なんとお強い。心から尊敬申し上げる」


「あなたのほうこそ。これから立場が厳しいものになるだろうに、わざわざ自領に私を迎え入れてくれてありがとう。無事に子を生むことが出来たのはあなたと奥方のおかげよ」



 ジュマーナの青褪めた頬に一筋の涙が落ちた。

 シャーロットはそっとぬぐい、



「……クリスマスでございますよ、ジュマーナ様。それに元気な御子が生まれました。これほどめでたいことは無いでしょう。おめでたい日です。泣いてはいけません」


「そうね。クリスマスだもの」



 クリスマスは救世主の生まれた日であるという。


 雪の降りしきる朝に生まれたこの子の運命を誰が救ってくれるのだろう。きっと厳しく、辛い。茨の道であることは間違いない。


 だが、これがジュマーナの選んだ道なのだ。



「ウェザリー伯爵夫妻。あなた方は家族の元へお行きなさいな。小さな子たちが首を長くして待っているわ」


「それでは戻ります。何かございましたらメイドを遣わしてくださいませ。ゆっくりお休みになってください。ジュマーナ様、そして小さなケネス様。メリークリスマス。お幸せな年になりますよう」


「メリークリスマス。ウェザリー伯爵夫妻。よいクリスマスを」




 年が明けほどなくして、ジュマーナはケネスをつれウェザリー・マナーを去った。

 

 その後のジュマーナは決して王族や貴族階級と交わることなく、完全なる平民として生きている。

 聞くところによれば、この国を拠点にしつつも、世界を股にかけ商人として身を立てているらしい。

 なんともジュマーナらしい人生であると思ったものだ。





「お父様、いかがなされたの?」



 ウェザリー伯爵は背後からの耳なじみのする声に我にかえる。この声は……?



「アリアナか……」


「外に何かあります? 熱心にご覧になっていらっしゃったから」


「いや、雪がな、また降ってきたのだ」


「あら、寒いと思ったら。今年の冬は積もるのかしら」



 アリアナが父親の隣に並ぶ。

 窓ガラスに輝かんばかりの若さ溢れる娘と年老いた男の姿が映る。



(なんと年をとったものだ)



 ウェザリー伯爵は自らの額の皺に触れた。

 あの雪の日から凡そ三十年。あの時には無かった皺は増え、髪は白くなった。



(何年経っても思い出すとは、なぁ)



 子は成人し、もう孫もいる年になったというのに、こんな雪の日は決まってあの日のことを思い出す。


 クリスマスの朝に生まれた祝福されない忘れられた子ども。

 異国の姫君と、最も高貴なお方の夫君との許されない恋の末に生まれた子ども。


 あの子は大学まではこの国に留まっていたが、今は極東のどこかの国に商用で赴任しているらしい。


 世界のどこかに彼を愛する人がいるだろう。その相手と幸せになるといい。王室がある限り、彼の幸せはこの国のどこにもないのだから。



「来年にはお前もデビュタントだな。そろそろ準備をしないといけない」


「そうですね。ドレスを作ろうと思います。首都に良いデザイナーがいるので、エミリィに紹介していただこうかと。よろしいですか?」


「もちろん。好きにしていい。ティアラはウェザリーティアラを使うといい」


「本当に?? 結婚式でしか許していただけ無い貴重なものなのに。いいのですか?」


「一人娘のデビュタントだ。祝ってやりたいのだよ」


 ウェザリー伯爵は家族から一身に愛を受ける一人娘の頭を撫でた。

読んでいただきありがとうございます。

番外編最終話です!

なんとか終わりました!!


クリスマス縛りにして、書き始めたのも今日の午後からという、ちょっとまって?な所、勢いでやりきりました。

ほっとしました。


ケネス、ちょっと訳ありすぎになってしまいました笑

アリアナの両親が反対するのもそうだろうなぁという感じですね。


ブックマーク・PVありがとうございます。

とても励みにしています。


次回は本編に戻ります。


またお会いできることを祈って。


追伸:他にもいろいろ書いています。

よろしければこちらも!

https://mypage.syosetu.com/1722750/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ