番外編:クリスマスの贈り物(1)
今回は本編から離れまして番外編となります。
クリスマスということで、それにちなんだお話を。
時間軸でいうと27年前のお話になります。
雪混じりの北風が吹き荒む中、一台の馬車が峠道を行く。
どんよりとした天候はこの季節では珍しくも無いが、ここ数日は雨ではなく雪が舞い落ちていた。今回の冬はいつも以上に厳しい冬になることだろう。
突然馬の足が止まる。
必死に御者が馬をなだめるが一向に動く気配は無かった。
御者の声が車内に聞こえたのだろう。
馬車の窓がすっとあき、三十路を一つ二つ過ぎたばかりの精悍な顔立ちの男性が頭をだした。
「どうしたのだ?」
いななく馬をなだめながら、御者は弱りきった顔を主人に向ける。
「馬が氷に足を取られたようです。恐れて動こうとしません」
「そうか。早く館に着きたいのだが……。すぐに動くのは難しいか?」
「旦那様、今日はいつも以上の速さで駆けてまいりました。ですが、雪が降っておりますし、道も凍っております。馬も恐ろしいのでございましょう。ご勘弁くださいませ」
「……急かして悪かった。馬が落ち着き次第、できるだけ早く出発してくれ」
「畏まりました」
こればかりは仕方がない。
御者をねぎらうと、旦那様と呼ばれた男は窓をしめ、深くため息をついた。
(どうか間に合ってくれ)
男性、ウェザリー伯爵は、苛立ちを隠せぬように指で膝を叩く。
今日はクリスマス。
夕刻からは久しぶりに会う妻子との大事な晩餐がある。それまでに自領の本宅に戻らねばならない。
本来ならば前日には宮殿を出て旅路についているはずだった。
だが、有能な官僚には良くあることで、急な案件が持ち込まれ、政務が長引き出立が遅くなってしまったのだ。
予定が狂うことを嫌う妻の苛立つ顔が目に浮かぶ。
見合いで結婚し子も生まれお互いに親愛をいだく仲にはなったが、妻の不機嫌な顔にだけはいつまで経っても慣れそうになかった。
(シャーロットも気にはなるが……。如何にするべきか……)
伯爵は額に皺を寄せた。
彼が額の皺を深くするには理由があった。
身内どころではない、比類にならないほどの懸念。
それは数週間前からウェザリー・マナーで預かっている客人のことである。
やんごとなき身分の方から頼み込まれ秘密裏に預かったその女性は――妊娠していた。
突如、今朝方になり産気づいたという。しかも予定よりも一月ばかり早く。
出産は命に関わる事象である。
多種多様な産業が発達したこの女王の御世においても出産の危険は中世の時代とそう変わらずにいた。
女性の三分の一は出産前後で死んでしまうのだ。
彼女がそうでないとはいいきれない。妊娠が順調であったとしても、生れ落ちるその時になってみないと分からないのが出産である。
(あの方は健康そのものではあるが、出産は何があるか分からない。無事なうちに手紙をとどけねばならんというのに……)
ウェザリー伯は宮殿より預かった書状にそっと触れ、窓の外に目を向けた。
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では
次回もお会いできることを祈って。
追伸:他にもいろいろ書いています。
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