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8.ルーチェは喧嘩を売られる

ソレイユ王国では5の倍数の年齢になる王族の誕生日は盛大にお祝いをする習わしがある。

セシル様が15歳になられた本日、城には自国の貴族達は勿論、各国の要人が招かれ誕生パーティーが行われていた。


「ルーチェ、僕とダンスを踊って頂けますか?」

「はい、喜んで」


差し出された手を握る。6歳からずっと繋いできた手は今では大きく頼もしく成長していた。

昔は同じくらいの大きさだったのに…。正面に立つセシル様を見て思う。


いつからだろう、彼の声が低く艶やかになったのは。顔を見るのに見上げなくてはいけなくなったのは。歩く速さが変わってしまったのは。


そして、触れる事に僅かに緊張してしまう様になったのは、いつからだっただろうか。


「今日のルーチェはとても素敵ですね。他の人に見せるのが勿体無いくらいだ」

「ありがとうございます。セシル様に頂いたドレスのお陰かと」

「その()はルーチェにとても良く似合っていますよ」


そう言ってドレスと同じ色の蒼玉の瞳を嬉しそうに細めるセシル様。意味ありげな言葉に気恥しくなり視線を逸らした。


それでも姿勢やステップが崩れる事がないのは「魅了を打ち消すのに手を繋いでるなら、ついでに2人でダンス練習をなさい」という王后様の強制レッスンを5年間続けたからだろう。


長年の練習パートナーとのダンスは呼吸も良く合い気持ちよく踊る事が出来る。時折周りから感心した声が聞こえてくるので何とか様になっているのだろう。


しかしながら好意的でない視線もビリビリ感じるものだ。怒り、僻み、妬み…理由は言われなくても分かる。正式な婚約者でもない平凡顔のたかが子爵令嬢が麗し王子とファーストダンスを踊っていればこうなるのが自然の摂理だろう。


チラと周りに視線を向ける。年頃の、特に他国の姫君達は口元を扇で隠してはいるものの虫の居所が芳しくなさそうなのは見てわかる。


その中で手に持った扇で隠そうともせず、ひたすらこちらを睨みつけている女性がいた。

あまりの眼光の鋭さに思わずステップを踏み間違えてしまい、


「他所見ばかりしていてはダメですよ」

「あっ…」


…ふらつきそうになったところでセシル様に抱き寄せられた。


「僕だけを見ていてください」

「あの、セシル様…近いです…」


幼少より天使の様だと称された美貌は年を追うごとに磨きがかかり、ついには色気を放つようになった。その魅力を至近距離でぶつけられると、麗し王子に慣れている私もさすがに恥ずかしくなってしまう。


その様子に気づいたセシル様が嬉しそうに笑った。


「ふふ、ルーチェもやっと僕の事を意識してくれるようになりましたね」

「…意識などしておりません」

「そうですか?では意識してもらえる様にもっと攻めてみましょうか」

「それは正式な婚約者の方にどうぞ」

「相変わらずつれない…」


そう言いながら手が離れる。曲が終わりダンス終了だ。礼をするとセシル様が何か言おうと口を開きかけたが、我先にと集まった女性の集団に囲まれその言葉は遮られてしまった。


四方八方からダンスへ誘われセシル様がこちらに助けを求める様な視線を寄越したが、静かに首を振って1人会場の端へと移動をした。


魅了の力を打ち消しているというのに、セシル様が微笑めば鼻血こそ出さないものの意識を飛ばしそうな人が何人もいる。


打ち消しを行っていなければ死者が出るのではなかろうか、とぼんやり思っていると横から高い声が聞こえてきた。


『なによ、ただの不美人(ブス)じゃない。たかが候補のくせに王子に縋りつくなんて見苦しいわね』

「…?」


これはエニシャ国の公用語…?

その声の発生源は赤髪の派手な美人で、いつの間にか私の隣に立っていた。顔はあくまでホールの中央へ向けたままだが、ニコニコ笑顔で吐き捨てる言葉は私に向けているようでとても鋭い。


私が自分の方へ向いている事にやっと気づいたかの様に女性はたどたどしく「アラ、ごきげんヨウ」と挨拶をしてきた。


成程、堂々とバレない様に馬鹿にしているつもりなのか。


「さきほどノ、ダンス、見事でしタ」

『……お褒め頂き光栄で御座います』

『っ!?なっ、あなた言葉…っ』


エニシャ語で返しにっこり笑うと、女性は酷く驚いた様で手に持っていた扇を落としそうになっていた。

こちとら6歳から陛下にあちこちに連れて行かれている。特に親交の深い隣国の言葉くらい覚えるというものだ。


そしてこの女性は外見の特徴からしてエニシャ国の第2王女で間違いないだろう。翡翠の瞳が悔しそうに歪められ手の中の扇がミシミシと音を立てている。先程ダンスの最中に睨みつけていたのもこの方だった。


『なによ…真実じゃない!謝ったりしないわよ!!セシル様には地味なあなたより私の方が相応しいんだから!!』

『お姉様!!お止めください!』


今にも掴みかかりそうな王女を桃色の髪の少女が止めに入る。私よりも少し年下に見える彼女は話を聞く限り第2王女の妹…魔力が高いと噂されている第3王女の様だ。派手め美人の姉と違い、甘い髪色が良く似合う可愛らしい方だった。


『なによ!離しなさい!!』

『騒ぎを起こさないとお父様と約束したではありませんか。今後この国に来れなくなってもいいのですか?』

『う…っ』


セシル様に会えなくなる事は嫌なのか第2王女の勢いが止まる。気まずそうに辺りを見渡した後に私をもう一度睨みつけて去っていった。

残された第3王女も慌てて後を追おうとして立ち止まりこちらを振り返る。何かハンドサインをした後ペコリと頭を下げて姉の後を追っていった。


あのハンドサインは…、


「カニ料理が美味しい…?」


いや、絶対違うな。


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