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20.第2王女の嘘

誤字報告ありがとうございます。

情熱的な色の髪に、長い睫毛の勝気な瞳、誘う様な色っぽい唇、欲をそそるしなやかな肢体。

私を見れば誰もが頬を染め上げる。エニシャの燃える宝石と称えられる、この美貌。


彼に似合うのは私だけなのよ―――



「お待たせしてすみません」

「まぁ、セシル様!」


案内された部屋で長い事待たされて苛立っていたが、やっとやってきた麗しい姿を見てそんな気持ちは綺麗に消え去ってしまった。


挨拶をするセシル王子に私は優雅に微笑んでみせる。


「お久しぶりですね、第2王女様」

「お久しぶりデス。セシル様にずっとオ会いしたかったので、今日はトテモ嬉しいです」

『それは光栄です。…それで、本日はどういったご用事でしょうか?』


表情の読めないセシル王子はエニシャの公用語で話を急かしてくる。その態度に一瞬だけ眉を顰めたものの、すぐに表情を取り繕った。


『…セシル様は意外とせっかちですのね。今日は貴方にお話ししたい事があって来ましたの』

『話とは?』

『ルーチェさんの事です』


私が最も気に食わない人間、ルーチェ・フルール。

彼の隣に相応しくない地味な女で、自分が特別なのだと勘違いして、婚約者候補の座にしがみ付く浅ましい奴だ。


その名前を出すとセシル王子は片眉をあげた。

きっとあの女が居なくなった事は耳にしているだろう。しかし彼の落ち着いた様子から、あの女がいかに愛されていないかが窺える。


『ルーチェがどうかしましたか?』

『……彼女はもう、戻ってきません』

『…どういう意味でしょう?』

『実は私、ルーチェさんと知り合いで…先日ルーチェさんに頼まれたんです。好きな人がいるから、ここから逃げ出すのを手伝ってほしいと』


今頃あの女は雇った男に良い様にされてるだろう。

本当なら遠くの国に売り飛ばしたかったが、仮にも貴族だからと従者(げぼく)に止められた。


『………好きな人…』

『どうか彼女を責めないでください!好きな人と添い遂げたいという気持ちは、私にも痛い程わかります。全ては手を貸してしまった私の責任なんです…!!』


こう言っておけば優しいのだと印象付けれるだろう。現に私の連れてきた侍女と護衛は感動した様に目を潤ませている。


……そういえば従者(げぼく)は今日は付いて来なかったのよね。いつもなら断っても来るくせに。

まぁアイツがいると周りが緊張するから居なくて良いんだけど。


そんな事を考えていると、セシル王子が口を開いた。


『……ルーチェはどこにいるのですか?』

『…南の港町です。どうか二人の仲を引き裂かないでください』

『………それは約束出来ません』

『そんな…っ、無理やり連れ帰るおつもりですか…!?』


抗議の声をあげたものの、別に迎えに行っても困らない。男娼を受け入れてようが力ずくだろうが、一線を越えていれば気まずくて会うわけないのだから。


逃げる女を見てセシル王子も、私の言葉が事実だったのだと納得するだけだ。


万が一あの女が真実を話したところで、一国の王女と下位令嬢じゃ、どっちの言葉が重いかなんて分かりきっている。


『……もう彼女は10年も縛り付けていたではないですか。そろそろ自由にしてあげてください。貴方も偽りではなく、本当に好きになれる人を婚約者に迎え入れるべきです!』

『…それでも、僕には彼女が必要なんです』

『……魅了の事ですね?』


小さく告げるとセシル王子が驚いた様に顔を上げた。そんな彼にゆっくりと歩み寄る。


『ルーチェさんから聞きました。魅了の打ち消しを行わなければいけないから、離れられないのだと』

『知っていたなら何故…!?』

『…代わりに私をお側においてください』

『え…?』


私の言葉を理解していないのか、困った表情をする彼の手をそっと包み込んだ。こうすれば魅了が消えるのだと調べはついている。上目遣いも忘れずに。


『…私の力を感じますか?実は、私にも魅了耐性があるんです』

『貴女に、魅了耐性が…!?』


私がこの力に気づいたのは最近の事だ。彼の魅了の力について調べている内に、小さい頃の出来事を思い出したのだ。


―――私は7歳の頃に4歳のセシル王子に出会っていた。その頃はあの女もまだおらず、打ち消しのされていないセシル王子は会う人会う人を魅了していた。


事実、挨拶をしたお父様も顔を真っ赤にして狼狽えるばかりだったけど、隣にいた私は何の影響も受けていなかった。

綺麗な子だなと思ったけど「3つも下だしお子ちゃまね」と興味を示さなかったのだ。


『…それはつまり、私の耐性が貴方の魅了に勝ったという事。私にも打ち消しが出来るという事です!』

「………」

『私はルーチェさんのように貴方の側から離れたりしません。だって、私は…貴方の事をお慕いしているのです…!!』


いくら造形が神がかっているからと言っても、私くらいの美人に言い寄られてなびかない訳が無い。

なにより私は、彼が一番必要としている魅了耐性を持っているのだ。あの女の事なんて捨て置いて、すぐに私の事を迎え入れ…―――


「―――そんなふざけた理由でルーチェを危険に晒したのか…」

『……………え?』


冷たい声で紡がれた言葉を上手く聞き取る事は出来なかったが、期待通りに事が進んでいないのだという事は理解できた。


俯いた彼から感じる息苦しい程の威圧感に、思わず手を離し後退る。


何が起っているのか分からないまま、助けを求め護衛の方へ振り向き、愕然とした。護衛も侍女も血塗れで倒れていたのだ。


『キャァァアッ!!?何…っ、何がどうなってるのよ!?』


扉の側に控えていた王子の護衛や執事達も同様に倒れている。私の悲鳴が届いている筈の室外からも助けは来ない。


まさかセシル王子が魔術で害をなそうとしているのか!?


『何をしたのよ!?私の護衛まで……こんな…こんな事が許されると思っているの!?』

『……あぁ、勘違いしないでください。これは僕の意思じゃない。容量を超えた魅了の力が溢れ出して暴走しているだけです』

『はぁっ!?』

『…でも可笑しいですね。貴女が先程打ち消しをしていた筈なのに、魅了の力は全く弱まっていない。

何故だか分かりますか?』


そう言って演技がかった仕草で私に問いかけてくる。感情の映らないガラス玉の様な瞳を前に、思わず身震いをしてしまった。


魅了が消えてないなんて意味が分からない。だって私は魅了耐性者で、触るだけで打ち消しが出来るはず。そう有るべきなのだ。


『それは…、初めての事だったから上手く出来なかっただけで…』

『違いますね。僕が意識せず周囲を魅了してしまう様に、魅了耐性者は何もせずとも魅了の力を消していくんです。それこそ触れずに今くらい離れていても、少しずつにはなりますが打ち消しされるんですよ』

『でも…それなら…』


尚更打ち消しが出来てないのは可笑しい。

どうして?なんで?私は強い魅了耐性を持っていて、美しくて賢くて、王女様だからセシル王子の婚約者に相応しくて…――――


『第2王女、貴女に魅了の耐性はありません』

『…嘘よ!!だって、魅了が効かなかったじゃない!今だって!!』

『……確かに耐性を持つ者に魅了は効きません』

『ほら!!』

『ですが、他にも効かない人達がいるんですよ』


勿体ぶった言い方が癪に障る。外見はものすごく好みなのだが、性格は合わないかもしれない。

あれだけ見たかった麗しい顔にイライラしながら言葉の続きを待つ。


『貴女は魅了体質ですね』

『―――――は?』


被っていた筈の猫は、とうの昔に居なくなった様だ。

第2王女はスカーレットという名前でしたが、名前を出さなくても話が進んだので諦めました。

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