仮想ツイッター ~ショートショート~
「先生、最近ツイッター依存症になってしまって、仕事中でもツイッターをずっと見てしまうのです」
「それはいけませんね。こちらを処方しましょう」
SNS依存症の専門医師はスマホのような物を取り出した。
「こちらはSNS依存症の方のために最近開発された仮想スマホです」
「なんですかそれは」
「一見してスマホですが、ネットにつながっていません。中のFacebookもTwitterもLINEもすべて仮想となっています」
「意味が分かりません」
「とりあえず、一ヶ月使ってみてください」
私は一ヶ月の間、その仮想スマホを使ってみた。
いつものようにTwitterで愚痴をツイートしたり、他の人のツイートをリツイートする。
フォロー数もフォロワー数もむしろ以前よりも順調に増えていく。
「先生、むしろ依存症が酷くなりました。偽物なのに本物より本物らしいです。今ではフォロワー数を増やすために夜中でもツイッターをしてしまいます」
「実は他にも依存症が酷くなった方がいます。そこで最近新たに考案された仮想ツイッターがこちらです」
「これはなんですか。ノートの表紙にツイッターと書かれていますが。これに書けというのは、あまりに人を馬鹿にしています」
「とりあえず、一ヶ月使ってみてください」
私は一ヶ月の間、その仮想ツイッターに仕事の愚痴ツイートを繰り返してみた。
他人のツイートがないことは不満だったが、140文字の制限がないのはすばらしい。
部長の理不尽さから同僚の使えなさまで微に入り細に入り、克明に描写できる。
「先生、これはなかなかよいですね」
「経過も順調ですね。あと一ヶ月使ってみてください」
愚痴をツイートし続けるのも飽き、学生時代の妄想などもツイートするようになった。
1つのツイートはだんだんと長くなっていく。
いつの間にかそれは小説になっていった。
「先生、賞に投稿してもいいでしょうか」
「依存症からの回復につながるでしょう。どうぞ」
できた小説をある賞に投稿すると、なんと書籍化することになってしまった。
「先生、ツイッター依存から抜けることができました」
「おめでとうございます」
「でも……」
「なんでしょう」
「作家という病気にかかってしまいました。執筆依存症はどの課にかかればいいのでしょうか?」