忘れ得ぬ温もり
どうしたの、と優しい声音につられたように顔を上げれば、誠一郎さんが覗き込むように近づいた。
苦しいほど胸が締め付けられた。
頬に触れる手に意識が向かえば、そこから熱が広がるように、顔全体が熱くなった。
見られたくないと咄嗟に伏せようとした顔に、誠一郎さんの両手が優しく触れた。
そんなに優しく触れないで、と心が叫んだ。
期待してしまうから、期待しても叶わないことを知ってるのに、それでももしかしたらと思ってしまうの。
もう一度、ゆっくりと誠一郎さんの指が唇をなぞった。
「こんなに噛み締めたら痛いだろう?」
幼い妹を諭すようなその言葉が、昔は嬉しくてたまらなかったのに、今は苦しい。
一言も喋らない私を怪訝そうに見つめる瞳が、とても綺麗だった。心配されてるのだと思う。心配かけたいわけではないのに、私のことを考えてると思うだけで嬉しかった。
そんな浅ましい考えを、誠一郎さんにだけは知られたくなかった。
「最近顔を見せてくれなくて寂しかったよ。」
ほんの少しだけ悲しげな声でそう話すから、伏せたいのに顔が付伏せられなかった。
おずおずと瞳を見返すと、優しく細めた瞳が私を見つめていた。だから近づきたくなかったのだ、と心の冷静な部分が呟いた。
その瞳を見つめてしまえば、近づきたいと願ってしまう。
距離をうまく取れなくなってしまう。
苦しいだけなのに、近づくほど辛いのに、そばにいたいと願ってしまう。
届かないのに手を伸ばしてしまう。
そうしてきっと、私の自分勝手な感情で、優しい誠一郎さんを困らせてしまう。
違う、困らせたくないだけじゃなくて、本当は。
失いたくないの。
そばで生きることを夢見て、拒絶されるのが怖いのよ。




