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百年の恋  作者: あおい
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暖かな手

避けていてもばったりと会ってしまうのは、狭い村では仕方なかった。

それでも真っ直ぐに目を合わせられないほどには、気まずさもあった。


私が独りよがりに恋をして、妹のように可愛がってくれた人をあからさまに避けて。


なんて勝手だろう。責められても仕方ないとそっと覚悟を決めて、目を伏せた。

何を言われるか、もしかすれば嫌われて声すらかけられないかもしれないと思えば、怯えで指が震えた。


好きだから近づけない。

でも嫌われるのはもっと辛い。

でもどうしようもなくて。

持て余す気持ちが邪魔だとすら思った。


好きだと思わなければ、少なくとも前に近い形で過ごせた。

せめて、周囲に止められるほどに、私の心が漏れてしまわなければよかったのに。


咲子、と呼ぶ声は前に聞いた時より幾分低くなっていた。

それでも、誠一郎さんの声だった。


胸が、締め付けられるように痛んだ。

痛いのに、甘いと思った。

甘くて、グズグズと溶けてしまいそうだと。


近づくまいと思った気持ちが揺らぐのが怖くて、吐息だけでごめんなさいと囁いた。戸惑ったように歩み寄る誠一郎さんの顔が見れなかった。


顔が見たい。今はどんなお顔をしてらっしゃるのか良くは知らないから。いつも遠目で気づかれないようにそっと覗くだけ。

けれど見てしまえば、誠一郎さんの瞳にどんな顔をした自分がうつるのか、考えるだけで怖かった。


きっと、私の瞳は好きだとそう言ってしまう。口に出せない分、心に押し隠した分、きっと滲み出てしまう。そんな身の程知らずで卑しい目をした私を見られたくない。


知らず硬く握り締めた拳がゆっくりと触れてきた手にほぐされるように包まれた。

暖かい、昔と何も変わらない、変わってしまったのは、私の気持ちだけ。

浅はかなこの気持ちだけと思えば涙がこぼれそうだった。


ますます俯く視界に、綺麗な誠一郎さんの着物の袖口が見えた。それに包まれる私の擦り切れた袖も。

突然恥ずかしくてたまらなくなった。

わかっているのに、ただの着物すら私を身の程知らずだと責めるように感じた。


涙が堪え切れないほど瞳に溜まっていく。視界が歪んで、まるで万華鏡のように揺れた。喉の奥から、何かがせり上がりそうになって唇を噛み締めると、そっと頬に触れた指が、唇をなぞった。


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