花開く気持ち
その日から毎日のように誠一郎さんは私のお見舞いに来てくれた。時にはお菓子やお花を持って。
それまではただの年の近い男の子だったのに、あまりにも弱った私を見たせいか、過保護な兄のように振る舞うようになった。
庭に出るときですら危ないを手を引かれることは、少し恥ずかしかったけれど、でも嬉しかった。
一人になったわけではないと思えた。まだ子供だった誠一郎さんが心配するほどには、私は弱って見えたのだと思うし、実際心身ともに弱っていた。寂しさも悲しみも、人を弱らずには十分すぎる病なのだと身をもってわかった。
でも誠一郎さんの声で名前を呼ばれれば、深い悲しみの中にほんの少し、温かな気持ちが生まれた。
きっとその時、私は誠一郎さんに恋し始めたのだと思う。
当時はひたすら温もりに飢えていたから、誠一郎さんの勉強中に膝の上に座り込んで怒られもした。
思い返せば、幸せだったのだと思う。あの時は、何も考えずに近くへ行きたいと思えば近くへ行けた。
大好きと、舌足らずに伝えれば、手作りの花輪をふわりと頭に乗せてくれた。
にこにこと笑えば、つられたように誠一郎さんも笑った。
「僕のお嫁さんになる?」
戯れのように、遊ぶように問われる言葉に毎日頷いた。当たり前のように一緒に居られるのだと疑いもしなかった。
誠一郎さんがやがて村長になる人で、だから私のような孤児とは一緒になれないと気づかされるまでは。
距離を取りなさいと、そう諭したのは誰だったろう?
誠一郎さんのお母様か、叔母かも定かではない。けれどその言葉でやっとわかった。
決して、結ばれないと。
私がどんなに望んでも。たとえ、誠一郎さんが望んでも、認められることはないと。
だから距離を置いた。
どんなに誠一郎さんに笑いかけたくても、近づきたくても、遠くからじっと息を潜めて過ごした。
そうする以外に何もできなかった。
何もできないのに、好きな気持ちが止められなくて。
そしてあの日、本当に偶然に誠一郎さんに会ってしまった。




