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百年の恋  作者: あおい
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全てを失った夜

今から10年前、村の裏山で崖崩れがあった。長雨ののちに起きたそれは、村のいくつかの家を巻き込み、大きな被害を出した。私の家も、例外ではなかった。


夜に家族3人で眠りにつくまでは、父母は確かにいつも通りで、貧しく疲れてはいたけれども私を大切に育んでくれていたし、私は二人とも大好きだった。


忘れもしないあの夜の、音も匂いも光景も、今だって触れられそうなほどに近い。


突然、大きな唸り声のような音が響いた。

飛び起きた父が何かを叫んだ。いつも穏やかな父親の大声に身がすくんだ瞬間、父の姿がかき消えた。


そして母の手が私を掴んで、玄関へ向かって放り投げた。母は体が弱く、あまり畑仕事もできなかったから、その行動に驚いて身を固める。そして、薄い戸口は子供の体重でもあっけなく破れ、私はゴロゴロと泥水の中を転がった。

体の痛みに目がチカチカした。


漸く自分が地面に転がっていることに気づき、家を振り返ると、そこにはもう家はなかった。

ただただ真っ黒な泥と落石の山がそこにあった。


父と母を失ったこと。私を庇わなければ、二人とも助かったかもしれないこと。私だけが助かってしまったこと。

そればかりが頭を巡った。


誰にいつ保護されたかもわからないまま、気づけば見知らぬ部屋にいた。

周りは似たように泥で汚れた村人が数人座り込んでおり、呆然としているものも多かった気がする。


そこに、村長が現れ、そこでようやく今自分がどこにいるのかを知った。


村長は雨のため崖崩れが起きたこと、ここにいるものは家を失ったこと、そしてまだ見つかっていないものの捜索は無理であることを語った。


今思えば、あの段階で泥を掘り返すことなど到底無理だし、生きていないことがわかっているもののために、他の人間を危険にさらすことはできないという選択だったのもわかる。


けれど当時はただ、「生き残ってしまった」という絶望だけがあった。

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