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百年の恋  作者: あおい
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目覚め

これからどうしたらいいのだろう。

闇に1人で、慶弥さんのように耳が良いわけでも、旅に慣れてるわけでもない。

村にいるのが辛かった。

初恋を失ってもう誰でもいいと思った。

捨て鉢だったのだ。どうなってもいいと、諦めてしまった。


命が危ないほどの状況になってようやく、私は自分の愚かさを恥じた。

小さくなった火が揺れる。

消えそうに揺らぐたび、私の心も同じように揺れた。不安で。寂しさで。


1人で生きてきたつもりだった。

でも結局色々な人に私は甘えていたのだ。

だって今感じる孤独は、これまでと比べようもなく大きく冷たい。


怖い。

こんな死に方ではきっと父母は嘆くだろう。

2人を犠牲に生き残ったのに、私はどうしていつもこんなふうに生きてしまうのだろう。


唇を噛み締めた。怯えているだけではダメだ。

それでも出そうな涙を堪える。

泣いてはダメだ。泣いても何も解決しない。


1人でも生きねばならないのだ。

まず、そうだ、火を消してはならない。

火があればそうそう獣は寄ってこない。

万が一来たとして、闇の中で対峙することほど恐ろしいことはない。


小さくなった火を守るように風上に座り込んだ。夕方に集めた小枝を縦に裂いて燃えやすくしてから焚き火で燃やす。

今夜は、火を絶やさずに、明日のことは朝考えよう。今考えたら恐ろしくて、何もできなくなってしまう。


耳の奥で、あの夜の音が遠くに聞こえる。

父母を飲み込んだ音。悪魔の唸り声を聞いてしまったように、鳥肌が止まらなかった。


「大丈夫、もう聞こえない。」

吐息のように呟いた。大丈夫、大丈夫と。

これは幼い私が夢を見て泣いた時に、いつも誠一郎さんがしてくれたおまじないだった。

そっと抱きしめて、頭を撫でて。

子守唄のように、耳の近くで大丈夫と繰り返してくれた。

優しくて暖かくて、でも今はまだ思い出すには痛みを感じる思い出。


突然、鳥が飛び立つような音がした。

思ったより近い音に驚いて肩が震える。

こんな暗いのに、鳥が飛ぶなんて。近くに獣がいたのだろうか。

その獣は鳥に逃げられて、近くで他の獲物を探してるのだろうか。

そうなら、次は私を狙うのではないか?


鼓動が耳の中で濁流のような音をたてる。

もしそうなら、何か武器を持たないと。こんなところで獣に食い殺されるなんて嫌だ。

誰も知らないこんなところでたった1人で死ぬなんて絶対に嫌だ。


夕食の支度に使った刃物を指だけでたどる。掌が緊張で濡れ、取り落としそうになりながらも、胸の前で両手で握り込んだ。

恐れてはダメだ。生きるなら、自分の身は自分で守らねばダメだ。


呼吸を落ち着かせる。一秒一秒が永遠のように長かった。自分の呼吸も鼓動も辺りに響き渡っている気さえした。そして。


目の前の草むらが微かに揺れる。刃物を指の感覚が消えるほど握りしめる。黒い毛並みが顔を覗かせた。顔がひきつった。

現れたのは。


「何してるんだ。」

慶弥さんだった。

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