恋の終わり
いつもと変わらない朝だった。
朝目覚めてから畑仕事に精を出し、太陽が半ばに登ったのを確認して家に戻る。
道すがら叔母と夕飯の相談をしながら歩いていると、村の中で一番立派な作りの家の前を通りすがった。
そういえば、と思い出したように話し始めた叔母を見つめると、ちらりとこちらを伺うように見つめてから目をそらした。
何か悪い話なのだな、と察する。
叔母は話しにくい時にいつも同じ顔をする。
父母が亡くなった時も、そのわずかな遺産で従姉妹を都会の学校に通わせたいと言い始めた時も、全く同じ顔をしていた。
「誠一郎さんの祝言の日取りが決まったよ。」
言葉の意味がわからなかった。
祝言、とぼんやり呟いても、頭が言葉を拒絶する。
世界から音が消えたように静まり返る。
叔母の口が動いているのに、その先の言葉が一言も聞き取れなかった。
気持ちが恋に変わったのは、いつだったろうと思い返す。
小さな村だから、子供はいつもみんなで集まって遊んでいた。誠一郎さんは3つばかり年上だったけれど、歳の近い子供が数人しかいない村では大した差ではなかったから、いつも一緒に遊んでいた。
けれどその時は多分、少し年上の優しい男の子としか感じてなかった。
少なくとも恋をするには幼すぎたし、家格がわからない程度には、子供たちは何も知らなかった。




