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百年の恋  作者: あおい
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この人は私を好いているわけではないとわかっていた。もし、私を好きだというだけなら信用できないと思った。だってそんなものが役に立たないともうわかっていたから。


理由を問えば、また首を傾げていた。癖なのだろうか。

「一人で行商してると、女ばかりの村だと警戒されがちでな。夫婦でやってる方が信用されるんだ。」


思ったよりも単純な理由に拍子抜けする。顔の綺麗さとは対照的に、かなり大雑把な人なのかもしれない。少なくとも私を人買いに売り飛ばすには、村で顔が割れすぎているし、子供を誘拐する方が手っ取り早いとも思う。


慶弥さんは変わらずニコニコとする。意地悪そうな顔で、楽しそうに笑う。本当にそれだけだろうか。疑う気持ちも確かにある。


けれど、外に出たいという気持ちが勝った。それにもう、ここにいても何も願いは叶わないという捨て鉢な気分もあった。ここで、私はいつも大切なものを失ってばかりいる。これ以上ここにいるのは、ずっと辛いかもしれない。


「私があなたの嫁でいいのですか。」

挑むように背筋を伸ばした。一歩だけ、二人の距離を詰める。

「私は見ての通り、読み書きもほとんどできません。あなたの商売の手伝いも、簡単なことしかできないでしょう。」


それでも良いのかと問えば、瞳が細められた。相変わらず笑っているのに、獰猛な動物のような印象を与える笑顔だった。怯みそうになる自分を叱咤し、見つめ返す。


いま、ここで何かを試されている気がした。連れて行くだけの価値が私にあるかどうか。

そして、これに負ければきっと、死ぬまでここから出られないだろうこともわかった。


「よし、じゃあ叔母さんに挨拶に行こう。」

突然の提案に唖然とした。いくらなんでも決めるのが早すぎる。


「いいんですか、適当すぎませんか。」

思わず確認すれば、左手をひらひらと踊らせた。

どうやら大丈夫ということらしい。


「私は嫁が欲しい。君はここを出たい。何も迷うことはないだろう。」

そして元来た道を勝手に戻り出した。その背中につられるように足が歩き出した。


一定の距離を保ちながら、とんでもない決断をしてしまったのかもしれない、と少し後悔した。


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