薬屋での出会い
このまま、こんな思いを抱いてあなたのそばにいるのはよくない。
でも外へ出る手段もなくて。
誠一郎さんから逃げたいのか、私から誠一郎さんを逃したいのかもわからないままに、ただ離れなければと思った。
ぼんやりと、それでも手だけは動かしながらいつもどおりの仕事をこなす。従姉妹のように都会の学校へ行くお金もない。
そんな度胸も多分私にはなくて、私の世界はずっと狭いままで終わると思ってた。
終わればいいと願っていた。
閉じられた世界で穏やかに、誠一郎さんを思って生きていきたいと願っていた。
でももう叶わないから全部捨ててもいいから何もかもから逃げたい。
あなたへの思いを失って、それでも私をこの村に引き止めるものはないから。
顔色の悪いおばを先に家に帰した。そのためにいつもより長く畑にいることになったけれど、一人の時間を持つことができて少し心が落ち着いた。
そういえば、と思い返す。毎年のように同じ時期に体を悪くするおばはいつも同じ薬を飲んでいた。この間でそれを飲み切ってしまい、また薬を買わなければと嘆息していた。
どうせなら通り道であるし、私が受け取れば良い。それに、もう少し一人で気を抜いていたい。
その人は柔らかく微笑みながら薬屋のおばさんへ薬の効能の説明をしていた。見たことのない男の人だった。顔立ちは綺麗に整っており、村では浮いてしまうほどだった。
けれどなんだろう、と違和感を感じる。その正体がわからぬままに足を止めた。
視線を感じたのかふと顔を上げたその人と目があった。不躾だったろうかと焦りながら、ごまかすようにおばさんへ挨拶をした。




