3話
疲れているだろうからと一人と一匹にしてもらい、ベッドに腰掛ける。
女神様から施された加護の確認をしなくては。
まずはアイテムボックスの右上の5000という数字。
容量無限でお願いしたから空き容量ということはないだろう。
ということは…お金か?
ジッと数字を見ていると、数字の隣に小さく「ガルディン」と書かれているのに気付く。
もしかして通貨の名前だろうか?
手のひらを出し、「100ガルディン出ろ」と祈ると、手のひらに銅貨が1枚現れた。そしてアイテムボックスの5000の数字が4900になっているのを確認する。これはお金で間違いなさそうだ。
今度は銅貨をアイテムボックスへ、と祈ると、銅貨は消え数字は5000に戻った。
今度は魔法適性の確認をしようと思ったが、くぅぅ、と小さくお腹が鳴った。
ならばと女神様が持たせてくれた携帯食料を取り出そうとしたが、ふと『異世界物お取り寄せ』スキルの存在を思い出した。
女神様の言う通りならガルディンで買い物ができるはずだ。
頭の中で『お取り寄せ』と呟くと、目の前に白いウインドウが現れる。
それは地球でよく使っていた密林というネットショッピングサイトによく似ていた。
ただ、カテゴリの中に「重火器」や「家」などといった明らかに密林では売っていなかった物が追加されているのが気になるところではある。
テストも兼ねて気軽に食べられる物を購入してみよう、と検索欄に菓子パンと入力してみる。
ずらりとクリームパンやメロンパン、ジャムパンなどが並ぶ中、3個入り300ガルディンのあんぱんを見つけたのでそれとミックスジュースをカートに入れて注文する。
すると、間髪入れず目の前に小さなダンボール箱が現れた。
中には注文通りの美味しそうな菓子パン。
中身を取り出すと、ダンボールは音も無く消えてしまった。これは便利だ。
「ルナも食うか?」
袋から取り出したあんぱんをルナの目の前に置いてやると、少し匂いを嗅いだ後嬉しそうに食べ始めたので、もう一つ置いてやった。小さくなったこの体には一つで充分だ。
うん、美味い。
アイテムボックスを見るときっちり400ガルディン減っていた。いちいちチャージしたりお金を取り出したりしなくて済むのでこれは便利だ。
あんぱんやジュースの空きパックはアイテムボックスに「ゴミ」カテゴリを作ってその中へ入れておいた。
プラや紙パックなんてもしかしたらこの世界にない物かもしれないしな。
しかし最初から5000ガルディンも持たせてくれるなんて女神様太っ腹だな。こっちの物価はまだ分からないけどお取り寄せを使えば節約すればしばらくはもつだろう。
ベッドでごろごろ横になっていると、突然ルナがそわそわし始めた。
「ルナ、どうした?」
『主様、お気をつけ下さい。何やら良くない気が立ち込め始めました』
「よくない気…って?」
『魔物です。大量の魔物の気配があちらこちらから湧いて来ています。どこか安全な場所へ避難しなければ主様の身が危険です』
突然魔物がどうとか言われたって困惑する。
そもそもここは村の中なんだから安全なんじゃないのか?
そんな俺の心の中を読んだかのように、ルナは口を開く。
『私が今感知しているだけでもおよそ数百の魔物の気配が湧いております。この村には結界があるとはいえこの数に押し切られたらどうにもならないでしょう』
「数百…!?こ、この世界ではそんなに魔物が蔓延ってるのが普通なのか!?」
『いいえ、これははっきり言って異常です。魔王が復活したとしか考えられ…いえ、失言でした。忘れて下さい』
魔王。ファンタジーでよく聞く単語に思考がフリーズする。これが自分に危険な及ばない範囲ならば魔王なんて男の憧れ、狂喜乱舞しているに違いない。
しかしここは異世界。
魔物や魔王が実際に自分に危害を加えてくる世界。魔王からしてみれば自分はその辺に転がっている石ころにも満たない存在で、小指一本で殺されるような存在だ。
「ど、どうすればいい!?逃げないと…!!」
『いえ、今から逃げても間に合いません。主様に結界を張りますのでお姿を隠して下さい』
「でも村の結界は無駄なんだろ!?結界なんて張ったって…!」
『主様、私は神の眷属フェンリルです。そこらの人間が張った結界などとは比べものにならないほどの高性能な結界を張ることができます。信じて下さい』
「……」
真剣なルナの瞳に思わず黙って首を縦に振った。
「あとどれくらいで魔物が来る?村のみんなに知らせないと!」
『知らせても無駄です。恐らくこの村の者は子供である主様のお言葉は信じません。それどころか軽蔑される恐れがあります』
「でも!このままじゃみんな死んじまう!」
ルナの言葉を無視して俺は部屋を飛び出した。
書類を読んでいた村長がびっくりして俺を見る。
「村長!大変です、魔物の群れが襲って来るってルナが!」
「落ち着きなさい、イツキ君。ルナとは…?」
「あ…このフェンリルの名前です。それより早く村のみんなを安全な場所へ!」
「ふむ…」
村長はあご髭を撫でて何やら思案顔だ。
早く早くと自分の心だけが急かされる。
「この村の周辺の森には強い魔物が日頃から蔓延っていてね、その魔物に対応するためにこの村には結界が張ってあるし、村の者は魔物と戦えるだけの力がある者ばかりなんだ。仮に魔物が群れをなして襲ってきても、心配はいらない」
村長は力強く大丈夫だ、と頷く。
それに少なからずほっとするが、ルナの言葉を思い出す。魔物が結界を破ってきたら?村人が歯が立たなかったら?
そんな俺の心中を察したように、村長はそうだ、と手を叩いた。




