2話
しばらく歩いていると、森の中に柵で囲まれた村に辿り着いた。
ぐるりと周囲をまわって入り口を探す。
柵が途切れた場所を見つけ中に入ろうとすると、近くの家から槍を持った男が慌てて出てきた。
「止まれ!!何者だ!?」
おいおい、10歳の子供に向かって槍を向けて何者だも何もないだろう。
と、思ったが、隣には牙を剥いて唸っているフェンリルのルナがいた。これは警戒するなと言われても無理な話だ。
「あ、あの、僕…森の中に捨てられて。この子はさっきそこで知り合った子です。獣魔だから暴れたりしません」
「…確かにこの森にはフェンリルが棲んでいるが…フェンリルが獣魔に…?」
なんとも言えぬ表情を浮かべる村人。
俺が知るラノベとかだとフェンリルといえば神の眷属として名高い伝説の獣だ。それがこんな幼い子供の獣魔になるなんてあり得ない話だろう。
「ルナ、唸っちゃダメ。めっだよ」
俺が叱ると尻尾を垂らしてしゅんとするルナ。
そんなルナを見て村人は感心したようにほう、と頷いた。
「た、確かに従えているようだな…ちょっと待ってろ、村長と相談してくる。くれぐれも勝手に中に入るなよ。村長の許可なく侵入すると敵と見なすからな」
そう言って村人は駆け足で村の奥へと向かって行った。
よかった、なんとか必要以上に怪しまれずに済んだようだ。
フェンリルのルナに意識が向いていたせいで自分については追求されなかったし。
5分ほどでさっきの村人が戻ってきた。
「今から村長の所へ案内する。いいか、くれぐれもフェンリルが暴れないようにしてくれよ」
「そんなことしないよね、ルナ」
『主様のお言葉ならば』
俺が言わなかったら暴れるんかい。
まぁ野生の獣だしなぁ、人間とはあんまり良い関係ではないのだろう。
そういえば会った時の怪我は人間にやられたのだろうか?それともフェンリルよりも強い魔物や獣に…?
そんなのがいる場所に転生させるなんて女神様って意外とぽんこつ?
そうこうしているうちに村の一番奥にある一際大きな建物に辿り着く。そこへ案内してくれた男と一緒に入ると、大きな机を挟んでもじゃもじゃあご髭の生えた老人が座っていた。
「君がフェンリルを獣魔にしたという子かね?」
威厳のある見た目とは反対に、優しい声色で尋ねられてこくりと頷く。ルナも警戒していないようだった。
「リンシンの村へよく来たね。私の名前はバジルだ。ここでは君やフェンリルが悪いことをしなければ歓迎するよ。よければ君のことを聞かせてくれないかな?」
「はい。と言っても捨てられる前のことは覚えてなくて…気が付いたら森の中にいたんです。そこでフェンリルのルナと出会って」
「ふむ…君の名前は?」
「イツキです」
ラノベでよくある設定だと苗字があるのは貴族だけだとかいう設定があるから名乗るのは名前だけにしてみる。
「イツキ君か。あいにくこの村に宿は無くてね。今後の予定が決まるまでの間私の家で寝泊まりするといい」
「え、いいのですか?」
「ああ、魔物の出る森から無事にここまでやって来た幼い子供を放り出すような真似はしないよ」
にっこりと笑って言ってくれる村長。
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
「よし、そうと決まればこっちへ」
村長は立ち上がって向かって右側の扉を開ける。
「少し前まで私の孫が使っていた部屋だ。少し狭いが寝泊まりするには充分だろう」
そこは村長の言う通り部屋と言うには少々狭いが、ベッドやタンスなど生活するには充分な必要最低限の家具が揃っていた。
「孫は騎士になるんだと言って王都へ行ってしまってね。ここは自由に使ってもらって構わないよ」
「ありがとうございます」
お礼を言うと、村長はまたにっこりと笑った。




