1話
目が覚めると女神アクアの言った通り、森の中だった。
湿った土を踏みしめ、新鮮な緑の香りを肺に取り込む。
そういえば先立つ物をアイテムボックスに入れてくれているはずだ。
発動方法にしばし悩んだが、右手を前に出し頭の中で「アイテムボックス」と唱えてみる。
すると、目の前に半透明なウインドウが現れた。
右上には5000という数字と、大部分はインベントリになっており、中には
・赤ポーション3つ
・青ポーション3つ
・携帯食料3つ
・瓶入りの水3つ
・赤い宝石のはめ込まれた指輪
・手鏡
が入っているのを確認した。
ゲームの知識では恐らく赤ポーションはHP回復、青ポーションはMP回復だろう。
手鏡は今の容姿を確認するためだろうか?
インベントリから手鏡を取り出して自分の容姿を確認してみる。
……女神様よ、確かに若返らせてくれとは頼んだがこれは明らかに子供じゃないか。
鏡には明らかに8歳から10歳といった感じの幼い少年が映っていた。
髪の色はキラキラと輝く銀色、瞳は吸い込まれそうなほど深い青い色。
我ながらこれは10年後が楽しみだと言わざるを得ないほどに愛らしく整った顔立ちをしていた。
不細工よりはマシだがこれじゃあ目立つ上に子供だから自由に動き回れるかどうか不安だ…。
当初予定していた、地球の物を使って旅の商人って設定も使えない。どこの世界にこんな子供が一人で魔物のいる世界を旅なんてするんだ?いや、異世界だし珍しいことじゃないのか?
…気を取り直して、女神様が言っていた人の村というのを探してみよう。いつまでも森の中にいて魔物に襲われでもしたらたまったもんじゃないしな。
と、歩き出そうとした瞬間、自分の後ろでガサリと草をかき分ける音がして体が硬直する。
ギギギ、と音がなりそうなほどぎこちなく後ろを振り向くと、そこには美しい銀の毛並みで血まみれで怪我をした大きな犬?が息を荒くさせてこちらを睨みつけていた。
…早速ピンチだ。
武器なんて持ってない、魔法の使い方だってまだ分かってない、戦う術を持たず手負いの獣と相対するなんて自殺行為だ。詰んだ。
が、そんな自分の思いとは裏腹に、犬は力なくその場に倒れた。
あれだけ血を流しているんだ、当然と言えば当然なのかもしれない。
そのまま無視して進むこともできたが、動物好きの自分としては放っておけなくて恐る恐る犬に近づく。
苦しそうに呼吸をしている。まだ死んでいない。だがこのままだと死んでしまう。
そう思い、インベントリから3本赤ポーションを取り出して2本の中身を犬の傷ついた体に振りかける。残りの1本の中身を口の中にそっと流し込んだ。
すると、犬の体が仄かに光り、傷口が徐々に塞がっていくのが確認できた。
よかった、タダでもらったポーションだから効くか不安だったけどちゃんと効いたみたいだ。
そうだ、魔法適性をもらったのだから回復魔法が使えるか確かめてみてもいいんじゃないかな?
犬の体にそっと手をかざす。
回復…といえばヒールだよな。
犬よ回復しろー、と念じながらヒール、と頭の中で唱える。
パァァ、と手のひらから光が発し、犬の体を包み込む。10秒ぐらいそうしていると、光が収まり犬がパチリと目を開けた。
ゆっくりと体を起こし、傷が塞がっているのを確認すると、俺の方をじっと見つめたと思うと俺の頬をぺろりと舐めた。
尻尾をぶんぶん振ってこちらを見つめている。
よかった、ポーションもヒールも効いたみたいだな。
それに俺が治したことが理解できているみたいで、どうやら懐いてくれたみたいだ。
「元気になってよかったな」
犬の体をわしわし撫でるついでに毛にこびりついた血が気になったので、クリーン、と唱えて犬の体を綺麗にする。
すると、頭の中でぴこん、と音が鳴った。
[フェンリルを獣魔にしますか?]
・はい
・いいえ
獣魔!?フェンリル!?
俺が読んでいたラノベでよく聞く単語に思わず頰が緩む。
それはもちろん「はい」だ!
イエス!と心で呟くと、また頭の中で[フェンリルを獣魔にしました。名前をつけて下さい]と流れた。
「名前か。リルとかフェルとかだとありきたりだし…そもそもお前オスなのか?」
わふ、と小さく吠える。
肯定なのか否定なのか分からない。
「俺が覚えやすくてカッコいい名前…うーん…そうだ、ルナってどうかな?俺のいた世界で月を表す言葉なんだけど」
ルナがわん!と吠えて尻尾を振る。
どうやら受け入れてもらえたようだ。
『ルナ、良い響きです。このルナ、命尽きるまで主様に付き従います』
「うわっ、ビビった!…え、今のってルナか?」
『はい、獣魔契約をしたため念話で主様と会話ができるようになったのです』
「へー、そうなんだ。改めてよろしくな、ルナ」
ルナに自分は異世界から来たことや、女神様から色んなスキルをもらったことを話しつつ、近くの村とやらに向けて歩き出した。




