14話
『主様!』
その瞬間、俺の体からぶわっと霧が出て行き目の前に俺を庇うように立ち塞がるルナが現れた。
『遅れて申し訳ありません、街中ではパニックになると思い出られませんでした』
そこまで考えてルナは我慢してくれていたんだ。なんて優秀な獣魔なんだ。
「な、なんだこのでかいウルフ…!獣魔か!?」
男はナイフを構えてルナを睨み付ける。
それを見てルナは大きく前足を振りかぶった。
「!ダメだルナ、殺しちゃダメだ!」
『…!』
それを聞いて寸前のところで軌道を変え振り下ろし、ルナの風の刃は男のすぐ横を凄い勢いで走り抜けていき石の壁や地面を抉っていった。
「ひ、ひぃ…!」
男は腰を抜かして地面に尻をついた。
このまま逃げて行ってくれないかと思ったが、腰が抜けて動けないらしい。
そして俺も先ほどの恐怖から男の隣を抜けて逃げることができずにいた。
相変わらずルナはぐるる、と牙をむき出しにして唸っている。
暫しの静寂の中、コツ、コツ、と誰かの足音が響いた。
「これは…どういう状況だ?」
現れたその人は鎧に身を包んだ金の髪がキラキラ光るイケメンだった。この世界のイケメン人口高すぎない?
「き、騎士様!助けて下さい、この子供が突然私にこのウルフをけしかけてきて!」
「!?」
全くちぐはぐなことを叫ばれて困惑して言葉が詰まる。
ダメだ、否定しなければ!
「ち、ちが…!」
「獣魔で民を傷付けるのは重犯罪です!どうか裁きを!!」
俺の否定の声よりも大きな声で畳み掛けられて怯む。
このままじゃ俺とルナが犯罪者にされる!
焦りと混乱で思わず涙が滲む。
そんな俺のことを騎士はちらりと見、男に向き直った。
「お前はダンだな」
「は?そ、そうですが…何か?」
騎士は男の腕を取り立ち上がり、ぽかんとしている男の手に手枷をはめた。
「な、何を…!?」
「お前は詐欺と少年への性的暴行の罪で指名手配されている。詳しい話は向こうで聞こうか」
「何だって…!?」
騎士は俺とルナに視線をやり、小さく頷いた。
「君たちも一緒に来てくれ。詳しい話を聞かせてほしい」
「……は、はい」
男が犯罪の常習犯だったおかげでなんとかこの場は乗り切れたようだ。
ルナに支えられながらなんとか立ち上がり、未だに騒いでいるダンという男と一緒に騎士について行った。
ルナが出しっ放しだったため道中注目されたが、どうやら住民はルナのことをフェンリルではなくただのでかいウルフだと思っているらしく、大した騒ぎにはならなかった。
引っ込めた方がよかったのだろうけど、今は1人でも味方が欲しかった。
連れられてきたのは重厚な感じがする巨大な建物だった。ここは騎士団の宿舎兼職場らしい。
ダンとは違う個室に連れていかれ、しばらくしてさっきの騎士が入ってきた。
「俺はアルフレッドだ。君の名前は?」
「イツキです…」
「イツキ君。何があったか聞かせてもらえるかな?」
そう言われ、市場で歩いていると突然声をかけられたことや父親のふりをして連れていかれたこと、乱暴にされたことを包み隠さず話した。
あのままだったらいったい何をされていたのだろう。ダンは少年への性的暴行を行なっていると言っていた。男同士でしかも無理やりなんてなんて考えたくもないが、もしアルフレッドもルナもいなければ俺がその毒牙にかかっていたのだと思う。
その恐怖と、信じてもらえなかったらどうしようという思いとがせめぎ合ってまた涙が出てきた。
そんな俺を見てアルフレッドは俺を落ち着かせるように頭を撫でてきた。
「大丈夫、君の話を信じるよ。ダンは詐欺の常習犯でね、奴の話を信じる者なんていないさ」
それはそれでどうなのかと思ったが、今は自分にとってそれが都合が良かった。




