表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第壱鬼 百鬼繚乱編
9/94

第玖巻 気が大きい!

第玖巻 ()が大きい!


 牢獄核ろうごくかくが室内の高い位置でっすらと発光している。

 だが、広すぎる空間のため、おぼろげに見渡せる程度の視界でしかない。

 典人のりとたちが近付いてくるのが分かったのか、牢獄核の真下辺りにいた人影は振り返り5人を見て微笑んだように感じられた。

 そして、その人影は典人のりとたちの方にむかって歩き始める。

 典人のりとたちもその人影、牢獄核ろうごくかくに向かって近付いていく。

 段々とお互いに距離が近づくにつれて、その容姿が見て取れるようになってきた。

 淡い薄紫色の光の下なのではっきりとした事は言えないが、おそらくは茶色の髪の毛であろう、つやのある長めの髪を、首の辺りから一本の三つ編みにまとめて後ろに垂らしている。眼はやや垂れ眼気味ではあるが温和で愛嬌あいきょうのある顔立ちをしている。多分見た目、典人のりとと同じ位か少し下といった感じだ。

 だが、それよりも何よりも、典人のりとはある一点に釘付けになっていた。

(デッ、デカい!)

 そう。当目に見ても解るほど胸が大きいのである。

 明らかにその上に載っている頭よりも間違いなく大きい。双丘が例えるならスイカかバスケットボールかといわんばかりに着物の胸元を押し上げているのである。その為、歩いてくる度着崩しているわけではないにも関わらず、襟元から胸の谷間が上下して見え隠れしている。

小豆あずき洗いさんや垢舐あかなめさんも大きいと思ったけど、これは……オッパイお化け? そんなのいたっけ? いたような、いないような? マンガかなんかで見たような)

 典人のりとは空間の中央に歩み寄りながら、そんなには詳しくない自分の妖怪や精霊、神などの知識を総動員して探り思考をめぐらす。

「……多分そんな妖怪いない」

「そっ、そうか。助かった、ありがとな」

 何が助かったのだろうか?

 動揺しているせいか、さとりの突っ込みに自分の思考が読まれている事に気が付いていないのか、普通に会話を続ける典人のりと

絹狸きぬたぬきちゃん、おはよう!」

「ああ、座敷童ざしきわらしちゃん、おはようございます」

「「おはようございます、絹狸きぬたぬきさん」」

「おはようございます皆さん」

 そんな考えを繰り広げている間にも、お互いに距離の縮まった女の子たちが挨拶あいさつを交わしている。

「もしかして、昨夜からずっと、牢獄核ろうごくかくながめていたんですか?」

「妖力が戻って来るのが感じられるの、嬉しいですものね。私、早速お米出していじゃいましたよ」

「いえ、さっきここに来たばかりなんですよ」

 傍から見ていても微笑ましい光景で和む。

 絹狸きぬたぬきの身長は小豆あずき洗いよりは大きいが垢舐あかなめよりは小さいといったところだろうか。その垢舐あかなめも典人のりとよりは少し低い。いずれにしても、典人のりとは身長が175cmなのでこの中では一番大きい。

「絹狸ちゃんか。オレは天神あまがみ 典人のりと。よろしくね」

 典人のりともその輪の中に入ろうと声を掛ける。

絹狸きぬたぬきって、たぬきって事は!)

 典人のりとの予想と期待の通り、絹狸きぬたぬきの頭にはたぬきの耳が可愛らしくチョコンとついていた。

(リアルケモミミ! モフりたい!)

 さっきまでは、そのあまりにも巨大すぎる胸に目が釘付けとなって気が付かなかったが、明らかに人の耳とは違う二つの耳がついているのである。

 この異世界にじゅんじて魑魅魍魎ちみもうりょうたちが人化したのであるならば、この世界には獣人けものにんが存在するのであろうか?

(すると、さっきは遠目の後姿で見落としたがお尻にはたぬきシッポがついているのか! 是非ともモフりたい!)

 先程よりも一段高い気持ちの入り方である。

「……耳よりしっぽ派?」

 そこは触れないでおいて上げて頂きたい。それが情けというものであるだろう。

 そんなさとりつぶやきは耳に入らなかったのか、期待? が膨らみ典人のりと絹狸きぬたぬき凝視ぎょうししてしまう。

「よろしくお願いします、御館様おやかたさま。……あまり、わたしの事は気にしないでください。わたし、自分の由来についての事あまり気に入ってないんです」

「由来?」

 思わず凝視ぎょうししてしまったことで、典人のりとのことを拒絶きょぜつしてしまったのかと思ったのだが、どうやらそういうわけではなさそうだが、少し距離を取ろうとしている態度に典人のりとが疑問を抱く。

 一瞬考えて後、典人のりとは気が付いたことを率直そっちょくに尋ねてみた。

「もしかして、上から読んでも下から読んでも『きぬたぬき』っていうのを気にしてるのかな?」

「……いえ、そう言う事では無く……ち……しきの事です」

 的外まとはずれな典人のりとの言葉に、少し目を丸くしたが、絹狸きぬたぬきは言いにくそうにモジモジと応える。その度に巨大な胸が小刻みにふるふると揺れていた。ここまでくると官能的というよりもはや圧巻と言うべきかもしれない。

「えっ? 知識?」

 典人のりとはその様子をガン見しつつも、小声でよく聞き取れなかった言葉を聞き返す。

八畳敷はちじょうじきの事です!」

 絹狸きぬたぬきは言いよどんでいた言葉を意を決したように言い切った。

「「……」」

 言い放った後、絹狸きぬたぬき典人のりとたちの間に、地下空間にも関わらず、一陣の風が吹き抜けたような気がした。何やら唄やら音楽やらの幻聴も聞こえたかもしれない。

 典人のりとは後で知ることになるが、『絹狸きぬたぬき』は絹生産が盛んだった八丈島に由来する化け狸の妖怪である。

 ずかしかったのか、絹狸きぬたぬきが顔を下にうつむかせるのに合わせて、巨大な胸が、ぷるんっと揺れる。それに合わせて角度が付いたことと、両腕で挟む形となった為に寄せて上げての状態となった谷間が強調されて凄い事になっていた。

たぬき……八畳敷はちじょうじき……ああ、男じゃなくて女の子だから、胸に特徴が出たわけね)

 典人のりとはしっかりとその素晴らしい光景を捉えつつも、大体の当たりを付ける。ふざけているのか、自然とそういう風になる様に何らかの決まりがあったのかまでは分からない。が、何はともあれである。

(グッジョブ、見事な仕事だ! 昨夜は牢獄核ろうごくかくで呼んだヤツに怒りを覚えたけど、今は少しだけ見直したぜ!)

 見えない主犯格に讃辞さんじの言葉を心の中で贈る典人のりとなのであった。

(取り敢えずこれは今日のウイニングショットだな)

 そして、先ほどの素晴らしい光景はしっかりと心のアルバムに加えることを忘れなかった典人のりとであった。

「あの、そろそろ始めませんか? ご主人様」

 おずおずと切り出す小豆あずき洗いの言葉に、ようやくここに来た目的を思い出す典人のりと

「ああ、そっ、そうだね。それから、絹狸きぬたぬきちゃん、由来はどうあれ、今の絹狸ちゃんは物凄~く魅力的だと思うよ。いろいろと、本当に。だからこれから少しずつゆっくり自信を持っていければいいんじゃないかな」

「!」

 絹狸きぬたぬきは驚いたように典人のりとに向かって目を見開く。それは内懐うちぶところ見透みすかされたような気がしたからだ。まあ実際、典人のりと絹狸きぬたぬきの胸元をガン見していたのだが、それとはまったく微塵みじんも関係無いのだろう。

 そんな絹狸きぬたぬきの胸の内の動きを他所に、典人のりとはそれだけ言うと『かもめ』の術式の真ん中、牢獄核ろうごくかくの真下に立ち、自然体のかまえで目を閉じた。

 特段、武道を納めているというわけでもない典人のりとだが、その自然体のかまえはなかなかどうして、意外にも様になった立ち姿である。

 周りにいた5人がその姿に見入る。

 典人のりとはゆっくりと深呼吸を数回繰り返すと、目を閉じて静かにつぶやいた。

牢獄核ろうごくかく

 今度は右手を高々と突き上げて掲げる様な真似はしない。

 一日のうちで立て続けに同じてつを踏みたくないのだろう。

 幸い、反応はあった。

 集中してみると、心の中で『経凛々(きょうりんりん)の高望み』と『雲外鏡うんがいきょうの万華鏡』の緒札おふだが淡く光っているような気がした。

 傍から見ている5人からすれば、典人のりとが光に包まれて輝くわけでも、牢獄核ろうごくかく明滅めいめつして反応するわけでもない、何のエフェクトも無い、ただ典人のりとが目を閉じて立っているだけの地味な光景であるが、さとりうなづいたのを見て他の4人も何かを感じたらしい。黙って典人のりとを見守り続けていた。

(これを使えと言うことなのかな?)

 典人のりとはさらに集中してその二枚の緒札おふだを使うような、感覚的にはボタンを押すようなイメージで意識を強くする。

 すると、典人のりとの心の中に一巻きの巻物が出現し、その巻物がスクロールして縦書きの内容が左から右に流れて行った。どうでもいいけど巻物がスクロールしてって、自分で思ってて変じゃねぇ? などとどうでもいい事を考えてしまう典人のりとであった。

(なんと! スリーサイズまで載っている親切設計! ……なんて訳ないか)

「……」

 ふと、典人のりとは右横に気配がして、目を開けて右横を見ると、何時の間にか典人のりとかたわらでさとりがジッと典人のりとを見つめているのに気づく。

「なっ、何かな?」

 引き攣った笑みを浮かべて問いかける典人のりと

「……エッチ」

「なっ、だから冗談だって冗談」

典人のりとお兄ちゃん、何考えてたの?」

 反対側からは邪気のない座敷童ざしきわらしの質問。

「なっ、何でもないよ。ちょっと、載ってる内容についてね。呼び方だけしか載ってないのが物足りないかなあと。もっと身長とかパーソナルデータがあると良いかなあなんて」

「……ほう」

「ふ~ん?」

 さとりは下手にかくし立てをしない言い様に感心したように、座敷童ざしきわらしは不思議そうに反応した。

 再び典人のりとは目を閉じ、巻物に目を通していく。

 それ程長くはないが、暫しの静寂の時間が地下の室内の広い空間内に流れる。

 初めに名前が載っていたのは座敷童ざしきわらしである。

 その後は知ってる妖怪やら知らない妖怪やらがどういう順番なのかが分からない並びで流れていく。

(あいうえお順でもないし、いろはにほへと順でもなさそうだし、これは一体どういう順で書かれているんだ? それに『オンボノヤス』? 『せんぽくかんぽく』? 『コボッチ』? 『わいら』? 聞いたこと無いんだけど)

 あらためて一通り目を通してみると、そこには100人分の魑魅魍魎ちみもうりょうの名が書かれていたが、典人のりとの知らない名前の妖怪も結構多かった。

 まあ、典人のりとは特段妖怪に詳しい訳でも無かったので、仕方のない事ではあるのだが、これではこの先困るだろうと典人のりとは考えた。

 そして、眼を開けてから自分の左側にいた座敷童ざしきわらしを見て問いかける。

座敷童ざしきわらしちゃん、今オレは心の中で巻物の様な物に書かれたみんなの呼び名の一覧表みたいなものを見ていたんだけど、その一番初めに座敷童ざしきわらしちゃんが載っているんだよ。これってどういう事か分かるかな?」

「う~ん?」

 座敷童ざしきわらし典人のりとに聞かれて首をかしげる。まあ、これだけでは仕方のない事だろう。

典人のりと様、二番目以降は誰が書かれていましたか?」

 垢舐あかなめが横合いから声を掛ける。

「え~っと、確か二番目が『豆狸まめたぬき』、三番目が『くらぼっこ』、4番目が『すなふらし』だったかな」

「そうですか……」

 聞いた垢舐あかなめをふくめて他の女の子も考えはじめる。

「それなら多分、ここに跳ばされて来た順番ではないかと思うのですが」

 絹狸きぬたぬきが心当たりが有りそうではあるが何処か自信無さ気に横合いから恐る恐ると言ってきた。

「跳ばされてきた順?」

「はい。2番目に跳ばされてきた豆狸まめたぬきさんとは同じたぬきあやかしとして懇意こんいにしていただいているのですが、その豆狸まねたぬきさんがその様なお話をしていました」

「うん、豆狸まめたぬきちゃんはこのお屋敷に来て最初のお友達!」

「なるほど。ありがとう絹狸きぬたぬきちゃん、座敷童ざしきわらしちゃん」

 お礼を言われた絹狸きぬたぬき座敷童ざしきわらしは少しうれしそうだ。

 一方、典人のりとはその話を聞きながら、目をつぶったまま何事か考えをまとめている様であった。

「よし! 決めた」

 再び目を開けた典人のりとが何かを決心したように声を出す。

典人のりと様、どうかしましたか?」

「ああ、これから何をしていけばいいか分からなかったけど、初めにやることを決めたよ」

 5人を見渡してから、典人は宣言をする。

「面接をします!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ