表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第弐鬼 悪戦鬼闘編
71/94

第漆拾壱巻 気にしない

第漆拾壱巻 ()にしない


突撃とっつげきぃ~!」

 とりで内の石造りの長い通路を、『雷獣らいじゅう』のらいちが、雷を全身にまといながらけていく。

「しびびびびっ!」

「あがががががががっ!!」

 途中の廊下を歩いていた幾人かの野盗の男たちは突然の後ろからのらいちの不意討ちによる突進に、逃げ場もないまますべもなく感電させられていった。

 死にはいたってはいないものの通路には痙攣けいれんした男たちがピクピクと床に転がって跳ねており、さながら陸に打ち上げられた魚を思い起こさせる。

一丁上いっちょうあがり!」

 廊下を駆け抜けたらいちは振り返ると、満面の笑みを浮かべて片手を上げドヤ顔を決めた。

「やれやれ、我の出番がまるでなかったのじゃ」

 その後ろからはまるで足元からピコピコという擬音ぎおんが聞こえてきそうな和装の童女が、倒れている男達を気にした様子もなく歩いてくる。

 『山姥やまんば』の麻弥刃まやはであった。

「えへへっ、すごいでしょ」

「ふむ、確かにすごいのじゃ。まあ、今回は仕方ないのじゃ。我の出番がなかったが、切り札は温存しておくとするのじゃ」

 さして残念そうな様子もなく麻弥刃まやははそう言うと、らいちの頭をでている。

 のはよいのだが、はたから見ていれば、見た目中学生くらいのらいちを、見た目小学生中学年程の麻弥刃まやはが背伸びをして懸命けんめいでているようにしか見えない光景は何とも心がなごむ。

「えへへっ」

 らいちもうれしそうだ。

 童女が少女を撫でている姿には微笑ほほえましいものがあるが、その前には幾人もの野盗の男達がピクピクと床でのたうち回っているという異様な光景が広がっていた。

 さらにそこへ。

「らいちちゃ~ん! まやはちゃ~ん!」

 声がかかる。

 麻弥刃まやはとらいちが振り向くと、自分たちが来た通路のさらに奥から手を繋いで歩いてくる『木の子』のと『機尋はたひろ』の千尋ちひろの姿が見えた。

 笑顔で千尋ちひろと手を繋ぎ、もう片方の手をブンブンと勢いよく振っていただったが、途中から千尋ちひろの手を離して走り寄っていく。

「ぐへっ!」

「うぷっ!」

 先ほど麻弥刃まやはが野盗の男達にたいして「倒れている男達を気にした様子もなく歩いてくる」と評したが、それでも障害物をけるくらいの感覚で歩んでいたのに対し、は無邪気に気にせず、男達をみ越えてきた。

「のがっ!」

「ごへっ!」

 次々と倒れている男達が、まるで飛び石を跳ねて楽しむかのようにみつけられていく。

「はあああ!」

 ……一部、奇妙な声も混じっていたが。

「あれっ? ちゃん、藻美慈もみじさんと一緒に『亀の巣穴』に行ったんじゃなかったの?」

「うんとね、うんとね、ちひろおねえちゃまが、あたらしいおようふくをつくってくれるんだって」

 らいちの疑問に、嬉しそうに手を振り回しては答える。

「なんじゃそれは???」

珠奇たまきさんがちゃんに頼みたいことがあるそうで呼ばれてまして」

 麻弥刃まやはの意味不明だと言わんばかりの表情に、の後ろから歩いてきた千尋ちひろが苦笑しながら答えた。

「そうか」

 もちろん、倒れている野盗の男達はけながら。

「それにしても随分と倒しましたね」

「えっへん。わたし、えらい? えらい?」

「ええ、とても」

「えへへっ」

「にしてもなのじゃ、ひい、ふう、みい、よ、いつ、むう、なな、や。8人か。さて、全員運ぶのはちと面倒なのじゃ、何人かこの場で……」

「だいじょうぶだよ! わたちにまかせて。えいっ!」

 はそう言うが早いか、『分け身』を使って10人に増えていた。

「じゃが、われなら兎も角、おぬし一人で運ぶのは荷が重いじゃろ? それとも二人で担ぐのか? それならば、まあ……」

「こうするの!」

 麻弥刃まやはが施行していると、10人ののうちより2人がてててっと近くに倒れている男に駆け寄ると、それぞれが片足ずつを持ち上げ引きずり出した。

「なるほどね、ちゃんたちペアで5人、わたしたちで一人ずつで、これで8人か」

『『うん!』』

 らいちの納得に、そう元気よく返事をするとたちは次々と男達の足をペアで持って引きずり出した。

「あっ、でも珠奇たまきさんの所へ行くには階段が……」

 そう千尋ちひろが言いかけるが、先頭ののペアは気にした様子もなく階段を上り始めた。

「へいきだもん!」

「のぼれるもん!」

「やっ、やめ、うがっ」

 足を持たれ引きずられたままの男はそのままガコンガコンと頭と言わず身体と言わず階段に打ちえられたまま上の階へと運ばれていく。

 それからも次々と後続のペアが、男達を引きずったまま昇っていった。

「ごげっ! うぎゃっ! ぐへっ!」」「やめっ! ががっ! ぐぎゃっ!」

「はああ! うおおおっ! うっ!」

 ……一部、奇妙な声も混じっていたが。

 残された三人は顔を見合わせ、お互い苦笑いをしてから残った男達を運ぶべく動き出した。


   ◇



 とりで内の別の通路。

「待ちやがれ!」

「ちっ、何てすばしっこい小娘だ!」

兎人族うさぎひとぞくだからな。逃げ足ははええんだろよ」

 一方では浴場近くの通路で野盗の男たちが、一人の少女を追って砦の廊下を走っていた。

 追われているのは『ケセランパサラン』の世良せらである。

 男達を見るなり、文字通り脱兎だっとごとく背中を見せて逃げ出した少女へと、見つけた野盗の男達は我先に向かって走っていく。

「あの角を左に曲がったぞ!」

「布の下がっている部屋に入ったぞ」

「しめたぜ。これで逃げ場はねえだろ」

「ああ、そうだな」

 男達はもう袋のネズミ、いや袋のウサギだと言わんばかりに速度を上げ部屋へと突入する。

「もう逃げ場はねえぞ!」

 勝ち誇った表情を浮かべた男達が、次々と入り口に垂れ下がっている変わった紋様の描かれた布を押しのけ室内へと雪崩なだれ込む。

 男達は知る由もなかったが、そこは大浴場であった。

 だが、追いめたと飛び込んだ先で、先頭の男が目にしたのは兎耳の少女ではなく、しっとりとした椿色、明るい紫がかった赤色の髪を持つ、追いかけていた少女よりは大人びた色白の少女。

杖術じょうじゅつ『玉椿』!」

「ぐはっ!」

 脱衣所(大広間)の中にいたのは『古椿ふるつばきの霊』の小椿こつばきであった。

 小椿こつばきたくみな杖術じょうじゅつで次々と入ってきた男達をたたきのめしていく。

「ひっ!」

 仲間が次々と打ちのめされていく中、運よく小椿こつばきの杖の攻撃範囲から転がり部屋の中に飛びのくことのできた一人の男が咄嗟に浴場の方へと逃げ込んだ。

 だが。

 男が入ってすぐ目の前に少女が現れた。

 それを視界にとらえたと同時にのどの辺りにするどい痛みが走る。

 そして。

「ぐはっ!」

 男の喉から下あごに強烈な一撃が咥えられ、男は宙に浮きあがって背中から落ち、石の床へと叩きつけられた。

 赤い血溜まりが、石造りの床に広がっていく。

 見れば、それは『垢舐あかなめ』の亜華奈あかなであり、その彼女が男をり上げていたのである。

 太腿もあらわに頭よりも高く振り上げられ、なまめかしく伸びた素足の先に鋭く伸びた鉤爪からは赤い鮮血がしたたっていた。

 その目の前には野盗の男が仰向けに倒れ、切りかれたのどからは血を流している。

 同じ足技に秀でた『馬の足』の魔埜亜まのあが一撃の蹴りの威力に特化しているのに対し、亜華奈あかなの足技はそのつま先に鋭く伸びたやや鉤爪状の鋭い爪を生かした柔軟な足技で相手を切り裂く戦い方にその特徴がある。

 今回は相手の正面に現れると同時に蹴りを横一線、男ののどを切りき、次に振りぬいた足を戻し、下から上にり上げるという動作を流れるように行なった。

「おうおう、亜華奈あかなっち、大胆だねえ」

 浴場の入り口から入ってきた『ろくろ首』の麓毘ろくひはやし立てるように亜華奈あかなの大胆にも高々と足を振り上げた今の姿を茶化す。

麓毘ろくひさん」

 亜華奈あかなは太腿もあらわに振り上げていたあしを降ろし、倒れ伏して動かなくなった野盗の男を見やると、いつものおだやかだけど何処どこつやめかしい笑みに戻っていた

「どうやら、大将首は天音あまねっちが取ったみたいだよ」

「そうですか」

「ただ、野盗連中の頭領に木埜葉このはっちが怪我を負わされて、それに静かに激怒した天音あまねっちが単身でいどんで大分無茶をしたらしくて自分も倒れたみたいだけど」

「面倒見の良い方ですし、仲間意識の強い方ですから、何となくそれは想像できますね」

 亜華奈あかな麓毘ろくひの話を聞きながら、血に汚れてしまった足先を水で洗い、脱衣所に戻る。

世良せらちゃん、囮役おとりやくお疲れさまでした」

「えへへっ、これくらいならお安い御用ですよ」

 丁度そこには小椿こつばきに頭をでられ、屈託のない笑顔で世良せらがウサ耳をピョコピョコとさせながら喜んでいる姿があった。

「「けばやり はらえば薙刀なぎなた 持たば太刀たち つえはかくにも はずれざりけり」ですか。広い屋外でも狭い屋内でも対応が利く見事な技ですね」

 たまたま、奇襲きしゅう組を見送ってから砦内を見て回っていた『角盥漱(つのはんぞう)』の湖真知こまちが脱衣所の奥におり、感心したように感想を述べた。

 だが、湖真知こまちのその姿はその性質上なのか、たらいを抱えているため、この場では見回ってきたというより、湯を浴びに来たと言った方がしっくりきそうである。

「あれもハニートラップと言うのでしょうか?」

 そのとなりには『洗濯狐せんたくぎつね』の月世つきせも盥を抱えて立っていた。

 こちらは洗濯物で山盛りになっている。

「あれはハニートラップと言うのではなくてバニートラップと言うのではないかと」

 さらにそのとなりでは『油徳利あぶらとっくり』の由利ゆりが、月世つきせ素朴そぼくな疑問に答えていた。

「う~ん、はち使いの小椿こつばきさんもいますし、ハニートラップでもいいような気が」

 さらさらにそのとなりでは『瓶長かめおさ』の芽梨茶めりさが、割とどうでもいい由利ゆりのボケに真剣に悩んでいる。

 脱衣所の中には 数人の女の子たちがおり、先ほどまで外にいた月世つきせ由利ゆり芽梨茶めりさも『すずりの精』の鈴璃すずりの指示通りに応援に来ていた。

「何れにしても使い方が間違っていますね」

 隣りの三人の会話を湖真知こまちが総括している。

「ところで、亜華奈あかなさん。素朴な質問なんですけど」

「何ですか?」

 左手を身体にピッタリと着け、右手をピッと真上に挙げてする麓毘ろくひのいつもと違う口調に亜華奈あかなが首をかしげつつ応じる。

「わざわざ浴場まで誘い込む必要、あったんでしょうか?」

「きっ、気分の問題です」

 その茶化す気満々なニヘラとした口調で麓毘ろくひに思わぬところを突かれて、赤面しながら答えると、ごまかすように数歩歩み出る。

「さっ、さて、お片付けをしましょう」

 亜華奈あかながパンパンと手をたたいて皆の注目を集めた。

「皆さん、『粗大そだいゴミのお掃除そうじ』が終わったら、今度は『掃除そうじ』の時間ですよ。現代日本に生きる垢舐あかなめとしてはルミノール反応が出ない程に綺麗にしておきたいものですね」

 見惚みほれる程の妖艶ようえんな笑みを浮かべて亜華奈あかなが皆に告げる。

 痕跡こんせきを残さない、完全犯罪宣言であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ