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一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第弐鬼 悪戦鬼闘編
60/94

第陸拾巻 気迫十分・間 士気高揚 ある野盗のアジトにて

第陸拾巻 ()迫十分・間 士()高揚 ある野盗のアジトにて


「はあ、今回私わたくし、出番がありませんでした」

 正面門の前の橋を守っていた『橋姫はしひめ』の姫刃ひめはが、つまらなそうに橋の欄干らんかんに座り足をプラプラさせながら太腿ふともも頬杖ほおづえをつき頬をふくらませて一人不満をらしていた。

 夜更よふけの闇の中、少し離れた森の中から、暗がりにまぎれ、虫の声が微かに耳に届く。

 見上げれば、この世界特有の二つの月がおだやかに浮かんでいた。

 一見すれば赤髪に日に焼けた小麦色の肌、頭には3つの炎をあしらった髪飾りに両耳には頭と同じ炎のデザインの耳飾みみかざりという派手な外見ではあるが、根は一途いちずで真面目な性格の姫刃ひめは

 今回、数の多い野盗をできるだけ逃さないようにとりで内にさそい込み、『座敷童ざしきわらし』のさきらの能力『家内繁栄かないはんえい』による味方の底上げを図ってむかさくのため、『家内繁栄かないはんえい』の効果範囲外のこの砦前の橋は素通りさせることになった。

 『橋姫はしひめ』も橋の範囲内では力を底上げする能力を有しているが、それは『橋姫はしひめ』である姫刃ひめは個人にしか効果がない。

 そのことは理解しているが、その能力をかして逃げ出してくる連中を相手しようにも正門の守護は守りに関して長年の定評のある『牛頭馬頭ごずめず』の司宇しう真宇まうのコンビである。

 二人がらすとも思えず。

 結論。

 折角の荒事あらごとにも関わらず、要するにひまなのである。

「さむしろに 衣かたしき 今宵こよいもや われを待つらむ 宇治うじ橋姫はしひめ、かあ」

 月に向かって静かにつぶやく。

 待つことには慣れているとはいえ、それは愛しい人を待つことであって典人のりとのことであればともかく、これは 種類が違う。

「それじゃあさ、あたしたちと一緒にガイショクに行こうよ!」

 そこに突然、正門の方から声がかかる。

 見れば、声を掛けてきた『藤原千方ふじわらのちかた』の『火鬼かき』である千火ちかをはじめとする女の子たちがそこにいた。

外食がいしょく?」

 それに驚いた様子もなく姫刃ひめはがゆっくりと首を向ける。

 そろそろ片付くころだし、素通りさせた連中を見た限り大した強者もいなかったはずだ。

 なら、打ち上げで火系のあやかしの子もいるし、森で狩りでもしてバーベキューでもするのだろうかと姫刃ひめはは考えた。

「まあ、いいけど」


   ◇


 それから闇夜の森の中をけることしばし。

 ある岩場の洞窟を利用した人工的に作られた砦の前。

「さて、奇襲と行きましょうか」

 森の木々の陰に身を隠しながら様子をうかがっていた 『紅葉もみじ』の藻美慈もみじが目線を皆に向ける。

「ここなら多少燃えてもいいよね! いいよね!」

 やる気が抑えられないといった様子で千火ちか藻美慈もみじに聞いてくる。

「ほどほどにお願いしますね。妙な烽火のろしになっても面倒ですから」

 千火ちかに尋ねられた藻美慈もみじは苦笑交じりに口元に手を当てながら答えを返す。

 今回、藻美慈もみじは野盗の拠点を奇襲するに際し指揮を任されていた

 『紅葉もみじ』は高貴な身分まで上り詰めていながらその地位を追われ、戸隠山とがくしやまに落ちびて鬼と化し、その地で山賊にまで身をやつしたとされている。

 そのため、野盗の動きには精通せいつうしているが故の起用である。

「フラグってヤツ?」

「フリってやつじゃない?」

 千火ちか千風ちかぜが茶化すように言う。

「……理解しているなら加減してくださいね」

「でも、ここなら遠慮しなくても良いんだろ?」

千水ちみずがいれば水責めでもよかったのに」

「呼び水?」

「それもフリ?」

「ほらほら、言葉遊びはそれ位にして、遊ぶならあちらを相手にしてください」

 二人のやり取りを制し、藻美慈もみじは再び野盗の拠点の方に視線を戻す。

「では、始めましょうか」

 そして、愛刀:小鴉丸こがらすまるを静かに抜き放ち号令をかけた。



「頭からの命令はまだ来ねえのか?」

「ああ、今頃はあっちで女とよろしくやってる頃じゃねえか?」

「なんたって上玉揃いだって話だったしな。俺等のこと、忘れてるんじゃねえのか?」

「まさかな。いくら何でもここにあるお宝を向こうへ移動させねえとなんねえのにそりゃあねえだろ」

「わかんねえぞ。

「ようよう、今のうちに高価そうな物を見繕って俺達だけで帝国か王国にでも逃げちまわねえか?」

「馬鹿言うな、そんなの出来るかよ。もし頭領達に捕まったらただじゃ済まねえぞ。俺は首領が騎士をあの大斧で鎧ごと縦に真っ二つにしたのを見た事があるんだ。あれは酷えなんてもんじゃねえ。あんときゃ、まともに見ちまったせいで、しばらく物を食べても吐き続けてたんだぜ。俺はあんなのはごめんだね」

「じょ、冗談だって。まともに受けんなよな」

「それにしてもいいなあ。俺もあっちに混ざりたかったぜ」

 だらけた口調で手ごろな岩に腰を下ろしている男や酒を飲みながら明らかにった口調で軽口をたたく男など、見張りと呼ぶにはあまりにもやる気のない光景が広がっている。

 それもそのはず。

 ここは森の奥深くの隠れた岩場に作られた古びたとりで

 加えて森には魔物も存在する。

 こんな夜中にこの大規模な野盗の集団のアジトを襲うものなどいるはずもない。

 今はほとんどが出払ではらっているとはいえ、野盗の男達からしてみれば、いつものアジトのせまさから、外で見張りの役を押し付けられたという感覚でしかなかった。

 しかも、出払ではらっている男達は今頃お楽しみの真っ最中である。

 やる気が起きようはずもない。

「あ~あ、今頃は女達とよろしくやってやがるんだろうな~。うらやましい限りだぜ」

「そうだな。早く俺も味わいてえぜ」

 そこへ。

「そ? そんなに良いモノじゃないとおもうけど」

「向こうと同じ目を味わいたいというなら、同じ目に味わわせて上げるよ」

 野盗の男達の矮小わいしょうな雑談の中、森の暗がりから二人の女の声がした。

「誰だ!?」

 だらけていた野盗の男達も不意の声に流石さすがに声のした方向に身構みがまえる。

 だが、それはすでに遅かった。

 視線の先にはいずれも異国の装束を身にまとった美しい女、赤い髪の褐色かっしょく千火ちかと、対照的に白い髪の色白の千風ちかぜが静かにたたずんでいる。

だが、千火ちかいたっては盛大に燃やしたくて仕方がないといわんばかりに手をうずうずさせていた

「『火炎放気かえんほうき』!」

「うわあああああっ!」

 男たちが反応する前に無数の火玉の雨がとりでの門の前、野盗の男達へとそそいだ。

 これだけ見ると危ない人間にしか見えないが、もともと千火ちかは火を扱うことにけた忍びである。

 それもちまちました攻撃法より派手な技を好む。

 砦内ではかなり抑えて技を使っていたため、それはそれで技の向上には役に立っていたのだろうが、大分ストレスが溜まっていたようだ。

「『風颯破気ふうそうはき』!」

「ぎゃあああああっ!」

 そこに、後に続いて千風ちかぜが大技を放つ。

 風の塊が千火ちかの放った炎もろとも巻き込み、砦の門を突き破りアジト内へと襲い掛かっていった。

 これだけ見ると危ない人間にしか見えないが、もともと千風ちかぜは風を扱う……以下同文。

 以前砦内で洗濯物の乾燥の際、冗談ぽくあやうく火災旋風を起こしそうになったと二人でにこやかに言っていたが、今まさに砦の門の内部では炎の嵐が吹き荒れていた。

「いやあ、戦闘系なのに今回あたしだけ出番なしかと思ったよ。流石さすがとりで内を燃やし過ぎると御屋形様おやかたさまにバレるもんな」

「それはわたしも同じだよ」

 心底スッキリしたといわんばかりの清々(すがすが)しい良い笑顔で二人が目の前の惨状さんじょうながめている。

千火ちかさん、千風ちかぜさん、あまりやり過ぎないでください。こういう場所にはさらわれた女性がわれている可能性が高いですから」

 すでに手遅れの気もするが、二人のこの行動に指揮を任されている藻美慈もみじが上品な口調で注意する。

「分かってるって」

「妖力の関係上、これで打ち止めだから。藻美慈もみじやさしいね」

「いえ、その方達を助けて、家まで送り届ければ、謝礼が貰えるかもしれませんし、身分のそれなりの所の場合はさら交渉次第こうしょうしだいでいろいろ便宜べんぎを図ってもらえる可能性もありますので」

「「藻美慈もみじちゃん、意外と腹黒い」」

 楚々としたおしとやかな所作とは裏腹に藻美慈もみじは結構打算的な面がある。

 これは元は貴族の娘でありながら野盗の頭へと身を落とした過去のさがによるものであろう。

「ねえ千火ちか、これの何処どこ外食がいしょくなの?」

 姫刃ひめはが燃え盛る野盗のアジトと呼んでいる洞窟付近の様子を見ながら千火ちかに問う。

「鎧袖一触、略して鎧触がいしょくってね♪」

 千火ちか姫刃ひめはの問いにあっけらかんと言ってのけた。

「はあ、まあ、斬殺でさ晴らししたい気分だから別に良いけどね」

 一度息を吐くと姫刃ひめはは名刀・髭切ひげきりさやからスラリと引き抜く。

「草木も眠る丑三うしみとき。愛しい人の為、悪縁はこの髭切ひげきりち切りましょう」

 それもまた『橋姫はしひめ姫刃ひめはさがであった。

「それじゃあ、山砦さんさい取りでもしますかね」

 千火ちかが刀を肩ににないで軽く言った。

 妖力のことを考えると今ので打ち止めだが、千火ちか千風ちかぜも忍のルーツともいわれるだけあって刀での戦闘も心得ている。

 ちなみに千火ちか山砦さんさいと言ったのは山賊のことである。

「じゃあボク一番乗りね!」

 そういうと武器も持たずに『古籠火ころうか』の呼炉ころが燃え盛る砦の入り口に向かって走り出していった。

 外見を見ると、上は白いTシャツに下は濃紺のレギンス、足にはハイカットのバッシュをいた、どう見ても放課後の部活少女が、逃げ惑い混乱している野盗の男達のそばまでっていく。

「何だ!?」

「ばあー!」

「どわっ!」

 一人の野盗の男の前で飛び上がると、呼炉ころはいきなり炎を口から野盗の男の顔に向かって吹きかけた。

「あっ、! わたくしも!」

 出遅れたといわんばかりに姫刃ひめはも走りだす。

 そのあとを千火ちか千風ちかぜ藻美慈もみじが続いていった。

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