第伍拾玖巻 気迫十分・前 鬼襲? いえ、奇襲です
第伍拾玖巻 気迫十分・前 鬼襲? いえ、奇襲です
『木の葉天狗』の木埜葉が夜襲を掛けてきたこの野盗の集団の頭領たちに裏門で遭遇する少し前。
正面門で動きがあった。
侵入者たちの一団が、砦の防壁から内部へ侵入し、砦の内側を物色中、たまたま正面に出、そこで『牛頭馬頭』の司宇と真宇と遭遇し、交戦となった後。
暗がりの中、野盗の男達の死体の転がる広場を尻目に、幾人かの女の子たちが集まってきていた。
「さあて、こっちもそろそろ反撃の狼煙を上げるとしようかねえ」
騒ぎを聞きつけて駆けつけてきた『豆狸』の瞑魔が、司宇と真宇から状況を聞いた後、まだ地面に内臓を撒き散らして転がっている野盗達の死体を見渡しながら軽い口調で言う。
「待ってください瞑魔さん。あなたが狼煙を上げると明日が……もう今日でしょうか、が雨になってしまうじゃないですか。典人様たちが森の外を探索しているんですから、雨は避けましょうよ」
しっぽを揺らし、腕を回しながら意気込む瞑魔を、お堅い気質の『石妖』の清瀬が制止する。
「ひどい誤解だねえ。私が雨を降らせているわけじゃないんだけどねえ。ただ、転機を予想して、親切心で教えてあげていただけなんだけどねえ」
過去の『豆狸の逸話』からの言葉ではあろうが、えらく不本意な言われようだと言いたげに瞑魔が口をとがらせて抗議する。
「これから奇襲を掛けようという時に」
そう、ここに集まってきた女の子たちはある程度砦内の野盗の始末が終わった際、残っている相手に気取られる前に奇襲を掛けて始末してしまおうと、『硯の精』の鈴璃の策で動いている者たちであった。
「狼煙は言葉の綾だろうに。それに、人を驚かすのは得意なんだけどねえ」
「奇襲をかけるんですから、気づかれちゃダメでしょ」
「こっそりやるのも得意なんだけどねえ」
「ほらほら、二人とも言い争わない」
『なまはげ』の愛刃が二人を諫める。
だが、愛刃もほんのじゃれ合いみたいなものと承知しているため、その言い方も軽い。
「はあ」
「わたちもいくぅ~!」
どこか軽い調子の瞑魔にため息を付く清瀬の後ろから、『木の子』の木の実がヒョッコリと顔を出して元気よく手を上げて主張してきた。
「今回はわたくしと一緒におとなしくお留守番してましょうね」
更に後ろから木の実を追いかけてきたのか、『機尋』の千尋が木の実の肩にそっと手を添えて言う。
「ええー! ぶー、つまんない!」
それに対して頬を可愛らしく膨らませて木の実が不満の声を上げた。
「良い子にできたら、またお洋服を作って差し上げますよ。出来上がったら着て御主人様に見せて褒めてもらいましょうね」
木の実の頭を撫でながら千尋が柔らかな微笑で諭す。
「うぅ~、ほんと?」
「ええ、今からどんなのが良いか生地を選びに行きましょうか」
「うん、わかった!」
どうやらうまく気をそらせられたようだ。
「あと、木の実ちゃんに珠奇さんがお願いしたいことがあるそうですよ」
「なにかなあ?」
「さあ、行ってみないと」
二人は手をつないで砦の中へと消えていった。
去り行く二人の後姿を見つめていた瞑魔と清瀬が視線を残ったメンバーに戻す。
「やれやれ、森の中では木の実の『分け身』は有用なんだけど、前回の事もあるし、今回は自重してもらった方が良いからね」
『虎隠良』の陽虎が熊手を肩に担いだまま腕を組みながら言う。
「とは言え、木の実ちゃんがあのまま大人しくしていてくれますかね?」
なぜか真宇の全身を撫でながら、『鐙口』の愛実が感想を漏らしていた。
癖のようなものだろうか?
「はあん、もっと」
真宇が恍惚とした表情を浮かべ小さく息を漏らす。
性癖のようなものだろうか?
「次、私もお願いできますか?」
「はいはい、司宇ちゃんも真宇ちゃんも一仕事してお疲れだもんね。……司宇ちゃん、大分、肩、凝ってるね」
どうやら愛実が野盗を退治した司宇と真宇の労をねぎらっていたらしい。
「無理無理、ぜ~たい、すぐ飽きて砦内を走り回ってるって」
手ごろな石柱の上に跳び箱を跨るように両手をついて座りながら『古籠火』の呼炉が楽しそうに言う。
「それはあなたのことでしょ呼炉さん。いつも廊下を走って。廊下は走ってはいけませんと何度も言っているではありませんか」
「ボクのはお仕事だもん! それにこの砦広いし」
まるでクラス委員長か風紀委員のように言う清瀬に呼炉も反論する。
「はいはい皆さん。そこは千尋さんにお任せしましょう。主様をお呼びした日以来、麗紀さんの次に懐いているみたいですからね。さて、そろそろ行きましょうか。皆さん野盗の塒に奇襲を掛けますので、お互いの連絡は密にしてくださいね。牢獄核の妖力供給範囲の外になります。決して単独での行動をしないように」
野盗のことに精通しているという事で今回の奇襲の指揮を任された『紅葉』の藻美慈がその場を仕切り号令をかける。
「うんうん、ホウレンソウは大事だよね」
腰に手を当てて『藤原千方の鬼』の『火鬼』である千火が大きく頷いて応える。
「千火、あんた、ちゃんと分かっているの?」
隣りにいた『二口女』の双葉が疑わし気な目を向ける。
「わかってるって。敵に仕掛けられた時の対処法だろ。報復、連射、相殺。飛び道具の迎撃なら任せときな」
「違うわよ! 組織運営の円滑な情報共有方法よ。報告、連絡、相談でしょうが」! あんた、本当に忍の祖と言われた一族の長なの?」
ここ最近『生徒会』と称する、典人を補佐し、砦をまとめるため典人に頼まれてメンバーに名を連ねる双葉はひそかに鈴璃や『算盤小僧、実は算盤小娘』の珠奇たちからいろいろな知識を学んでいた。
表にはあまり出さないが、偏に典人の役に立ちたいからである。
「頭文字はあってるんだけどね」
千火と同じ『藤原千方』の『風鬼』である千風がニコニコと笑っている。
「あははっ、冗談だよ」
「もう」
「まじめにやってください。牢獄核の妖力の供給範囲の外に行くんですから、妖力の状態はくれぐれも気にかけておいてくださいね」
「清瀬は相変わらずお堅いねえ。わかってる。必ず帰ってくるよ。砦の守りは任せたからね」
ひらひらと手を振って笑っていた千火が、急に真剣な面持ちとなって答える。
「はいはい、そろそろ本当に行きますよ」
その時、再度藻美慈が話を打ち切り注目を集めた。
「皆さん、お支度はよろしいですか?」
それまで、大人しく藻美慈の傍らに控えていた『角盥漱』の湖真知が皆に問う。
皆が表情を引き締め頷き返した。
「それではまいりましょうか」
「「行ってらっしゃいませ」」
藻美慈の号令とともに動き出した皆に対し、湖真知と清瀬がきれいな所作で一礼して見送る。
「「ご武運を」」
その後ろでは司宇と真宇がそれぞれの武器を立て仲間の無事を祈り見送る姿勢を取っていた。




