第伍拾肆巻 侵入者 気はこころ
第伍拾肆巻 気はこころ
薄暗い砦内のある一室。
「おっ、へっへっへっ、宝箱だぜ」
「俺達ツイてるな」
「ああ、他の奴らには内緒で山分けといこうや」
「いいねえ」
別の部屋では野盗の男達が金目の物をあさりに、あるいは女を捕まえに、そこかしこを物色中であった。
ここにも二人。
保管部屋らしき室内に宝箱を見つけ、喜色の笑みを浮かべつつ近寄っていく連中がいた。
「そんじゃまあ、お宝とご対面といこうや」
一人の男が、宝箱に罠が仕掛けられていないか用心深く確認すると、鍵がかかっていないことを確かめてから、ゆっくりと宝箱の蓋を開ける。
すると、そこには。
「「……」」
「……ウチはお宝?」
宝箱の中で膝を抱えて丸まっている赤い髪の毛の女の子が、野盗の男達を見つめながら言ってきた。
「「うわああ!」」
野盗の男達は驚いて思わず、反射的に大きく、後ろへと飛びのく。
すると、宝箱の蓋が開き、中から長い赤髪を後ろで四本に束ねた少女が、ゆっくりと起き上がってくる。
『衣蛸』のこころであった。
「何だ、女じゃねえか」
「びっくりさせやがって! だけどむしろ好都合だ」
「ああ、見ろよ、上玉だぜおいっ! お宝じゃなかったが、俺達やっぱりツイてるぜ」
「そうだな。それじゃあ改めてお宝を開くとしますか」
「げへへ、いいねえ」
安堵すると同時に女だと分かると、下卑た笑いを浮かべながら再度、野盗の男達が宝箱に、いや、こころに近付いていこうとする。
「ウチはお宝?」
再びこころが野盗の男達に向かって問いかけた。
「ああ、かなりの上玉だぜ」
「そうそう。だから、俺達にもそのお宝をじっくり拝ませてくれよ」
野盗の男達は隠すことなく舐めるような視線をこころの肢体へと向けてきた。
「ふ~ん、そんなに見たいなら見せて上げても良いのお」
こころは宝箱からスラリとした素足を徐に石の床にヒタリと付ける。
そして、宝箱の中から跨いででると、艶めかしい生足も露わにヒタヒタと野盗の男達に近づいていく。
ピタピタとこころが素足で石の床を歩く音が微かに男達の耳に届いた。
その艶っぽい光景に、男達は思わずゴクリと生唾を飲み込む。
そして、こころは一人の男の前までいき立ち止まると、少し見上げるように上目遣いで男に向かってニッコリと笑顔を作った。
「おっ、なかなか物分かりがいい女だな」
それを男に媚を売ってきたと考えた野盗はニヤ付いた笑みをさらに濃くする。
男もこころの肩に触れようと、手を伸ばそうとした。
次の瞬間。
「タコ焼き!」
直後に股間に一撃。
野盗の男に、形容しがたい強烈な痛みが股間から脳天に向かって突き抜ける。
いや、あえて例えるのであるのならば、それは雷に打たれたと形容するのに相応しい痛みだっただろう。
「うっぐあああああっ!」
たまらず、こころの目の前の男が股間を抑えその場にうずくまる。
鈍い痛みが男の股間にジンジンと響く。
「小玉2個上がりなのお。小玉だと今一物足りないのお。やっぱり、大玉に限るのお」
技? を放った後、心は男達から少し距離を取った。いろいろとイタく、男を踏みにじるような発言を添えて。
「このアマ! 舐めてんじゃねえぞ! 優しくしてやろうと思えば付け上がりやがって!」
勝手な言い分を述べながらもう一人の野盗の男は懐からナイフを取り出し投擲する。
男が投げたナイフは狙い違わずヒュンという音と共に、こころに向かって一直線に飛んでいく。
「蛸の盾!」
いろいろと盛大な勘違いな技名を叫びつつ、こころが両手を大きく広げると、こころの前方に薄い半透明の幕が出現し、男が投げたナイフをあっさりと弾いてしまった。
「何だよ今のは!? 魔術師か!?」
ナイフを投げた男が驚愕の表情を浮かべている隙に、こころは男に接近する。
「タコの八ちゃん!」
今度は一応合っていそうな技名を叫びつつ、こころはナイフを投げた男の懐に滑り込むと両手両足でそれぞれ2撃ずつ叩き込んだ。
「ぐあっ!」
野盗の男はその場に崩れ落ちる。
こころはすかさず近くで股間を抑えて動けないでいる最初の野盗の男に近寄り、再度ニッコリと微笑んだ。
窓から差し込んでくる月明かりに照らされた美しくも邪悪なその笑みを見上げて野盗の男はいろいろな意味で冷や汗を流す。
「まっ、待ってく!」
今度は勘違いする事無く、野盗の男は片腕は股間を押さえ、もう片腕をこころへと伸ばし、こころに対し制止を求めるが、こころはさらに笑みを深くし一歩野盗の男に近づいた。
その踏み出した素足が石の床を踏むヒタリという音が、やけに野盗の男の耳に響く。
「タコせんべい!」
「うぎゃあああああ!」
野盗の男の悲鳴が部屋中に響いた。
「リクエストに応えて、うちの必殺技、じっくり拝ませてあげたのお! うちって、サービス精神旺盛なのお!」
絞め技を決め、気絶させた野盗の男を放り捨て、宝箱の方へと戻るこころ。
「撮影はウエルカムだけど、お触りは厳禁なのお」
宝箱の前へと戻ると、宝箱を背に振り返るこころ。
「宝箱警備員、任務完了なのお。うちはやれば出来るタコなのお」
|誰も聞く者がいなくなった《・・・・・・・・・・・・》部屋で一人、決めポーズを取り雄たけびを上げるこころであった。
◇
所変わって砦の敷地内の一廓にある一つの倉庫の前。
分散して砦内を漁り回る男達の一団がここにも、お宝を捜して入り込んでいた。
入り口には片付け忘れたのか、この地方では変わった作りの箒が一本、倉庫の入口に上下逆に立てかけられていた。
倉庫の辺りなら片付け忘れたのだろうさして珍しくもない光景に、野盗の男達は気にした様子もなく、次々と倉庫の中へと入っていく。
深夜とはいえ、今の季節外は比較的暖かい。
だが、倉庫の中は入り口を入った瞬間、数段温度が下がりひんやりとしていた。
野盗の男達は思わずブルッと身震いする。
「意外と中はひんやりしてるな」
「そうだな。当たり前だがよ。中には誰もいやしねえか」
「仕方ねえだろ。いくら女しかいないとはいっても、倉庫担当じゃあどうしょうもねえだろ」
「まあな、こんな廃砦の倉庫じゃお宝もなさそうだし」
「でもよう。酒らしきものの臭いがさっきからプンプンしてやがるぜ」
「そうだな。そこら辺の甕でも開けてみるか」
誰も人がいないことを良い事に、野盗の男達は暗がりの中、ランタンを掲げ辺りをキョロキョロと見渡す。
そして見つけたいくつかの甕に近づき、上蓋を開けて中身を確認する。
「当たりだぜ! 間違いねえ、酒だ! しかも、かなり上等だぜ!」
「これで、女でもいりゃあ文句ねえんだがな」
「何処かから攫ってきてここにでも連れ込むか?」
「そりゃいいねえ」
「うまそうな酒もあるしな」
「そう考えると、倉庫に当たったのもあながちハズレじゃなかったかもな」
「そうそう、物は考えようってか」
「ちげえねえ」
現金な物で、先程まで不満たらたらだった男達から陽気な声が上がり始めた。
そんな話をしている中、野盗の一人がブルリと震える。
「どうした?」
「何か用を足したくなってきたぜ」
「ったく、倉庫の端にでもしておけばいいだろ」
「そうだな。そうするか」
「緊張感ねえなあ」
「ついでにその辺に汲む物でもないか?」
「ああ、ついでに探してみるか」
一人の男が倉庫の空いている場所を探してウロウロし始める。
やがて適当な所を見つけたのか、立ち止まりズボンを抑えている紐を緩め始めた。
「倉の中での粗相は困ります。後、勝手に精魂込めて作ったお酒を飲もうとしないでください」
男は驚き、解いていた腰の紐も途中に、声のした方向に振り返る。
見れば、黒髪が地面まで届きそうなほど長い髪の幼げで可愛らしい少女がいつのまにやら立っていた。
『蔵ぼっこ』の小補玖である。
「おいおい、向こうさんからわざわざやってきてくれたぜ」
その声を聞いた他の男達もそちらに目を向ける。
「けどよお、ちっと幼過ぎじゃねえか?」
「別に構わねえだろ。女は女だ」
「それもそうか」
一番近く、先程まで用を足そうと腰の紐を解いていた男が、こんどは別の目的で腰ひもを解こうとしながら少女に近付いて行く。
片手でズボンを抑えつつ、もう片方の手で小補玖に手を伸ばそうとした時。
「ぐえっ!」
急に何かに弾き飛ばされるように男は宙を浮き、倉庫の出口へと飛んでいった。
そのまま倉庫の外へと放り出されていく。
「何だ! ぶはあ」
「どわあ!」
「ぐえっ!」
「あなた方のような連中がいると掃除の邪魔です。屑は屑らしく大人しく外に掃きだされてくださいませ」
突如現れた『箒神』の奉祈が箒をくるくると振り回し楽しそうに野盗の男達を次々と蔵の中から入り口の外へと履き飛ばしていく。
野盗の男達は何事かと考える間もなく、次々と倉庫の外へと掃きだされていった。
「このアマ共!」
「メチャクチャにしてやる!」
「泣こうがわめこうが容赦しねえ!」
初めからそんな気も無いくせに、そう吐き捨てると、掃きだされた野盗の男達は起き上がると即座に懐などに持っていた短剣などを抜き構えだす。
「蔵の中が血で汚れるのはヤだなあ」
「七帆ちゃんが噛みます?」
蔵の出口まで歩み寄り小補玖が素朴な感想をもらすと、同じく隣まで来ていた奉祈が蔵の中の一か所に目をやって甕と甕との隙間に入っていた『七歩蛇』の七帆に問いかける。
「アンマリ噛ミタクナイ」
甕と甕との間から顔を覗かせながら、七帆が、その表情に乏しい顔に明らかに嫌そうな表情を浮かべていた。
◇
話は元に戻って。
砦内を回り、それぞれの状況を確認していた『座敷童』のさきらが、こころのいる部屋へと駆けこんできた。
「こころお姉ちゃん大丈夫?」
部屋の中に飛び込んできた『座敷童』のさきらが心配そうに尋ねる。
砦の敷地内はさきらの能力『家内繁栄』の効果により、さきらが味方と判断した者の基礎能力値を底上げすることが出来るとはいえ、多くの子が戦いに向いているわけではなかったし、この世界に跳ばされてきて初めての対人戦である。
おまけに、さきらたちの中にも表れたような特殊な能力を持つ者がいそうであることが予想されたため、安心はできなかった。
「問題ないのお。余裕なのお!」
ところが、入ってきたさきらに向かって、何とも気楽そうにこころがVサインを決めて応じてくる。
部屋の中を見れば、気絶している野盗の男が二人、床に無造作に転がされていた。
「わああ、こころお姉ちゃん凄ーい!」
それを見て、大分安心したのかパチパチパチとさきらが手を叩く。
それに気を良くして再びポーズを決めるこころであった。




