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一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第弐鬼 悪戦鬼闘編
41/94

第肆拾壱巻 気配り

第肆拾壱巻 ()配り


 典人のりとが、森の奥深く、『コボッチ』の千補ちほに連れられて、牢獄核の結界が張られていた境界のさらに外へと急いで向かうと、森の中、少しひらけた場所が見えてきた。

 そこにいきつくまでは森が深くなるにつれて、湿った空気が身体にまとわり付くようで、どこか身体の動きを重たくさせていた。

 典人のりとはその時は夜の暗がりだったため気が付いていないが、この辺りは10日くらい前に『木の子』のが、この世界の生き物、魔物である羊の皮を被った狼(シープルフ)に襲われた辺りである。

「あそこだよ」

 千補ちほが走りながら指をさす。

 自然、典人のりとの走る速度が上がった。

 そして、木々の間を抜け、わずかにひらけていた視界が完全にひらけた時。

 そこに広がる光景は一種異様な光景であった。

 たどり着いた典人のりとが見た光景は 周りは自然が破壊されたという訳では無いが、掘り返されたというか、荒らされたというか、それを元に戻したというか、典人のりとには表現しづらかったが、兎に角不自然な風景が目の前に広がっていた。

 そして更に地面のそこかしこには、そこにぐったりと横たわっている幾人もの女の子たちがいた。

「なんだよこれは!?」

 目にした瞬間、思わず驚愕きょうがくの声を上げた典人のりとではあったが、即座に気を取り直して辺りの状況を把握はあくしようと周囲を確認し始める。

 そして、典人のりとは即座に一番近くで倒れていた『妙多羅天女みょうたらてんにょ』の妙羅たえらを抱き起し、必死に声を掛けた。

妙羅たえらちゃん!」 しっかりして! オレの声が聞こえるか!? 返事してくれ!」

「……のり…………さま

 かすかにに意識はあるようだ。

 ほんのわずかだが、典人のりとは安堵の息を漏らす。

 ふと典人のりとは誰かの視線に気が付いた。

 慌てていたため気付かなかったが、顔を上げてみれば、倒れている女の子たちの中心辺り、ただ一人立ち尽くす少女の姿があった。

 その少女の瞳は何処かうつろで、何事かを見ている様で、またなにおもおをその瞳に移してはいないようでもあった。

 その場に立っていた少女は『算盤そろばん小僧 改め 算盤小娘』の珠奇たまきである。

 典人のりとは抱きかかえている妙羅たえらをそっと地面に寝かし、珠奇たまきの元に駆け寄る。

珠奇たまき何が起きた!」

 典人のりと珠奇たまきの両肩をつかんで、何物をも見ていないような珠奇たまきの瞳を覗き込みながらゆさゆさとする。

「やあ、典人のりと君。ぼくの発案でね。ちょっとした検証実験だよ」

 薄く微笑んでいるはずなのに、何処か無感情な声で珠奇たまきが口を開く。

「検証実験って」

牢獄核ろうごくかくの結界があった場所から外と中の違いさ。ちゃんの一件で、牢獄核ろうごくかくの結界の境界の外では僕たちは妖力の補充が出来ないんじゃないかと思ってね」

 表情無く淡々と説明するその珠奇たまきの態度に典人のりと苛立いらだちを覚え、無意識に珠奇たまきにらみ付けていた。

「何皆にやらせてるんだよ珠奇たまき! 皆ボロボロじゃないか!」

 典人のりとは周囲を見て珠奇たまきに向き戻り、珠奇たまき華奢きゃしゃな両肩を掴んでいた手に力を込めてする。

牢獄核ろうごくかくの外に出るためには仕方がないことだったのさ。僕たちが日本にかえるためには必要な検証だよ。ここまでしないと確証が持てないからね」

 尚も淡々とした口調で言い放つ珠奇たまき

「仕方がないことって……お前!」

 典人のりとが、思わずいい加減にしろとばかりに大声を上げようとする、その時だった。

 典人のりとの足首を掴む者がいた。

 典人のりとがハッとして掴まれた足元を咄嗟に見ると、そこには『つらら女』の雪良せつらが、ここまでってきたのか、着物を泥だらけにしながら典人のりとを見上げていた。

珠奇たまきちゃんを……責めないで。……わたしたちも……納得しているの……です……から」

 雪良せつらがその綺麗な顔を泥で汚し、息も絶え絶えといった声で典人に訴えかける。

「なんだよ。何なんだよ!」

 行き場を失くした怒りが典人のりとの心の中をぐるぐると駆け巡る。

「どうやら予想は正しかったようだね」

 珠奇たまきがフッと軽く微笑む。

珠奇たまき!」

 その笑みに、消えかけていた怒りが再び吹き上がってくる。その時だった。

 それまで平然とした顔で立っていた珠奇たまきがゆらりと揺れその場に崩れ落ちる。

珠奇たまき!」

 典人のりとは慌てて珠奇たまきを抱きとめた。

「おい! 珠奇たまき! 珠奇たまき!」

 見れば珠奇たまきは意識が朦朧もうろうとしている様子だった。

「ようやく皆と同じ位かな? ははっ」

「同じって、一体?」

 典人のりと珠奇たまきを抱きかかえたまま問いかける。

「皆をずっと見て(・・)いたからね」

 珠奇たまきは検証実験に賛同してくれた皆の妖力の変化を捉えるため、砦を出る前から常に珠奇たまきの能力である『目分量』の能力を発動し続け、モニタリングを行なっていたのである。

 『目分量』の能力は相手の能力をある程度数値化する事の出来る類の能力で、典人のりとが異世界転生モノの主人公の定番の能力と思っている『ステータス』に類似する能力だ。

 現在では典人のりとも似たような能力を持っているが、典人のりとの能力は牢獄核に囚われた100人の女の子のデータを見る事しか出来ない。しかも現在の所、極簡単な項目しか表示されてはいなかった。

 これに対して、珠奇たまきの能力はその対象は砦の女の子や砦内に限らない。木になっている木の実の数や空を飛んでいる鳥の群れの数などから、対象のある程度の力まで幅が広い。

 ただ、そこまで便利な能力でもなく、集中しなければ持続時間が短いうえ、対象も通常は一項目に限定される。

 これらを拡大するためには妖力を無理矢理余分に使う必要がある。

 それは酷く効率の悪い、所謂いわゆるコストパフォーマンスの悪い使い方であった。

大きな妖力を一気に振るうことのできる子たちと比べれば負担は少なそうに見えるが、これを珠奇たまきは数日間、複数の子たちに向かって休まず発動し続けていたのである。

「僕の能力は短時間なら消費が少なくて済むんだけど、どうやら長時間や複数の個々の数値を見ることになると効率が悪くなるらしいんだ。でも、皆の一度での大技ほどじゃない」

「どうしてそこまでして……?」

「日本にかえるために決まっているじゃないか」

「だからって、いきなりこんな無茶を……」

「皆にだけ……負わせるわけにはいかないしね……不思議なもんだね……僕たちは個々に自由気ままな生き方をしていたのに、誰かの為というのも、案外、悪くないもんだ……」

 典人のりとの言葉に重ねて、珠奇たまきが辛そうに先を続け、言い終わると静かに目を閉じて、深く胸で呼吸をした。

 その辛そうな声と、先程の珠奇たまきの崩れ落ちる姿を思い出して、典人のりとの脳裏に、先日のの倒れていた姿が重なる。

(またかよ! また、オレ、あの時と同じで何もできないのかよ!)

 典人のりとが奥歯をギリリと噛みしめた。

 やりきれない、言いようのない感情が心の中にあふれてくる。

 その時だった。

 突然、目の前が暗くなる。

 次の瞬間。

 気が付けば、典人のりとは真っ暗な空間に立っていた。

 不思議な事に、何故か真っ暗なのに空間だと自覚できている。

(なんだ!?)

 突然のことに動揺する典人のりとの目の前に、突如、二枚の緒札おふだが淡く薄紫色の光を帯びながら現れた。

(ここはひょっとして……以前、確か……俺の心の中なのか?)

 その緒札おふだを見て、典人のりとは気付く。

 見れば、現れたのは七つの緒札おふだの内の二枚、『経凛々(きょうりんりん)の高望み』と『傘差し狸の抑止力』の緒札おふだであった。

(『経凛々(きょうりんりん)の高望み』? 『傘差し狸の抑止力』? 何故、このタイミングで?)

 まるで自分を使えと自己主張するかのように、典人のりとの心の中で宙に浮かび存在感を放ち続ける緒札おふだに問いかける。

「今使えってことかよ。これを使えば皆を助ける事が出来るんだな」

 典人のりとが問いかけても、当然、答えなど帰ってくるはずもない。

 その代わりに、典人のりとには二枚の緒札おふだの薄紫色の輝きが僅かだが増したように感じられた。

 そして次の瞬間には意識が目の前に抱きかかえている珠奇たまきへと戻っていた。

(そうか……そうだよな。オレだけじゃなく、皆、日本にかえりたいんだよな……)

ここ一ヶ月の間、誰も必要以上に口にすることはなかったが、当たり前のことだ。

 典人のりと自身、男の子の意地と言うべきか、言葉には出さなかったが日本へかえりたい思いは強い。

 そのためには恐らく牢獄核ろうごくかくの結界があった場所より外、この異世界に帰還の手掛かりを求めて踏み出さなければならない事も薄々気付いていた。

「……」

 典人のりとは一度静かに目をせてから、ゆっくり目を開くと、そっと珠奇たまきをその場に横たえて、静かに立ち上がった。

 それからあちらこちらで倒れている女の子たちを見渡してから、自然体の構えで目を閉じる。

(皆を助けたい。『経凛々(きょうりんりん)の高望み』、『傘差し狸の抑止力』、オレに力を貸してくれ!)

 典人のりとは心の中にある緒札おふだに触れるようなイメージを浮かべる。

 心の中の緒札おふだに触れるようにイメージした瞬間。

 身体の奥底から何かが吹き上がって来るような感覚がした。

「うおおおおっ!!!」

 カッと目を開き、典人のりと万感ばんかんの思いを込めるように、そしてその感情を一気に解き放ったかのように声を上げた。

 と、典人のりとの身体が淡い薄紫色の光を帯びる。

 すると、それと同時に、典人のりとの身体から頭上に向かって薄紫の光が伸びていく。

 薄紫の光はある程度の高さまで来ると、その頂点を基点としてその光が傘状に広がっていった。

 その広がりは半径数十メートルに及び、周囲に倒れていた女の子たちをおおっていく。

 薄紫の光は徐々に強くなり、回りにいた女の子たちを包み込むかのように照らしていた。

 やがて、

「……御主人様」

「……あったかい」

典人のりと様」

「……あれ? 何だか楽になってきた」

「……あっ、妖力が、少しずつだけど、戻って来るのを感じる」

 苦しそうにしていた子たちも徐々に穏やかな表情になっていく。

 その光は砦で状況を聞いた女の子たちが、典人のりとたちの元へ駆け付けるまで続いた。

「……典人のりと君、やっぱり、君は」

 光の傘の下、地面に横たわりながら珠奇たまきは周りが薄紫色に淡く発光する典人のりとを見つめながらつぶやいていた。

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