表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第壱鬼 百鬼繚乱編
4/94

第肆巻 気に入られました

第肆巻 ()に入られました


「なっ!」

 牢獄核ろうごくかく欠片かけら典人のりとの身体の中に消えて行ったと同時に、典人のりとの意識は奪われ、再び気がついた時には先程一人で歩いていた暗がりのような場所に立っていた。

(ここは確か、『砦』に来る前に歩いてた所だよな……)

 何故それを自覚できたのだろうと典人のりとは不思議に思う。

 それはここに来る直前、自分が明晰夢めいせきむだと思ってどこか他人事のように自分を意識していた空間。

 まったく視界が効いていないはずなのに不安なく足を進めていた暗闇。

「お~い! 座敷童ざしきわらしちゃ~ん! いたら返事して~!」

 取りあえず呼び掛けてみる。

 周りを見渡しても誰もいない。直前まで典人のりとの周りを囲んでいた6人の妖怪の女の子たちも何処にも姿が見当たらない。まあ、暗がりで視界が効いているとは言い難い状況ではあるが。

 ついでに言えば気配も感じられない。こちらに関してはさっきまでの出来事があるだけに、端からあてにできないだろうと典人のりとは思っている。

小豆洗あずきあらいさ~ん! 垢舐あかなめさ~ん! 雪女ちゃ~ん ろくろ首ぃ~! 川天狗ちゃ~ん!」

 半分くらいは無駄かなと思ってはいても、一応続けてみる。

 案の定、少し待っても返事は返ってこない。

(やっぱダメか)

 はあと溜め息は付くが、典人のりとにそれ程落胆の色は無い。

 それどころか典人のりとは自分で言ってて疑問だが、座敷童ざしきわらし以外は見た目はほぼ同じ位の年齢に見えるのに、今会ったばかりの女の子たちを呼ぶのに自然と『ちゃん』と『さん』に分けていたのはどういう基準だろう? などと今この場に合わないどうでもいい事が頭に浮かんでいた。ろくろ首にいたっては呼び捨てだし。まあ、初対面で首で首を絞められかけたのだから敬称略も当然だろう。

 それから、一呼吸おいて考え、

(やっぱ最初の見た目と態度かね?)

 などと苦笑する始末。

 自分が意外と落ち着いていることに気付き、改めて状況を整理してみることにした。

 これはどうやら 自分の心の中を客観的に捉えて見ている状態ではないかと典人のりとは考えはじめている。それに加えて、おそらくは外部からの要因が何らかの影響を自分に与えているのだとも感じていた。

 すると、それを見計らっていたかのように、森から『砦』に跳ばされる際に見ていた光景の中に出てきた七枚の御札が、宙に浮かんで典人のりとの前に現われた。

 その御札は前と同じように、一枚一枚、典人のりとの目の前に進み出ては典人のりとの中に消えていく。

(これは、リプレイ動画みたいなもんか? でもさっきと違うような気もするし)

 さっきは余裕が無く只慌てるだけであった典人のりとだが、今回は随分と落ち着いている為か、その御札の一枚一枚をしっかり見て取ることが出来た。


『ぬらりひょんの七光り』

雲外鏡(うんがいきょう)の万華鏡』

経凛々(きょうりんりん)の高望み』

『傘差し狸の抑止力』

人形神(ひんながみ)の一人遊び』

『風神の熱い友情』

青行燈(あおあんどん)の呼び声』


(それにしてもこのネーミングセンス、どうなんだろ?)

 そんな事を考えている間にも、次々と御札は典人のりとの中へと吸い込まれていく。

そして七枚の御札が、典人のりとの中に入って行く際、典人のりとの脳裏にその御札の事が浮かんでどういう者であるかを漠然と理解することが出来た。

 いや、正確には感覚的にどういう物であるかという事を捉えることが出来たと言うべきだろうか?

 それは簡単にまとめると、次のような物だった。


   ◇


『ぬらりひょんの七光り』

 力は無いが、日本の妖怪の総大将とされる妖怪の緒札おふだ

 魑魅魍魎ちみもうりょう達を統率する能力。最初の祝い。これが無いと恐らく典人のりとに従わず、典人のりとは取り殺されていたかも! 意外と重要な祝いだった。

(マジかよ!? あっ、危ねえなあ)


   ◇


雲外鏡(うんがいきょう)の万華鏡』

 魔物を見破ると言われる鏡の緒札おふだ。 

 牢獄核ろうごくかく本体の影響下内での相手の正体等をある程度見極めることができる。

(おお、これは『異世界転移』モノではお約束と言われる例のあれか!)


   ◇


経凛々(きょうりんりん)の高望み』

 ある術師が術合戦に敗れた時の念が宿ったとされる経文に関する緒札おふだ

 この緒札おふだによって術が使えるようになる。

(よし! これでオレも二十歳前にして魔法使い!)


   ◇


『傘差し狸の抑止力』

 さしかけられた傘に入って一緒に行くと何処かに連れ去られてしまうという化け狸の緒札おふだ

 牢獄核ろうごくかく内で妖怪たちに妖力の供給を行う。

(妖力の供給って? 今まではどうしていたんだ?)


   ◇


人形神(ひんながみ)の一人遊び』

 曰く付きの製法で作られ、式神とも言われる人形の類の緒札おふだ

 式神を使えるようになる<現在はまだ使えない>

(おおっ、陰陽師みたいじゃん!)


   ◇


「風神の熱い友情」

 風を司るという神の緒札おふだ

 風系の妖術を使えるようになる<現在はまだ使えない>

(風属性魔法って事か? それにしても暑苦しそうな)


   ◇


青行燈(あおあんどん)の呼び声』

 百物語の最期の100話目に出てくるという鬼の緒札おふだ

 『牢獄核』のレベルが100になると発動して門を開く力となる。

(んっ、これってもしかすると)


   ◇


 もしかしたらこれだけじゃないのかもしれないが、今現在分かっている事はこれくらいである。

そして最後に『牢獄核ろうごくかく』の欠片かけらが入ってくる感覚。

 それはまるで、牢獄核ろうごくかくと自分が混ざり合って一つになったような奇妙な感覚。

 ただ不快という感じではない。

 だが、次に目にした光景は暗闇ではなくなっていた。

 目の前に広がるのは炎が付いて一本一本が燭台に立った無数の蝋燭。

 幻想的と言えなくもないが、何処か物寂しい印象を受ける。

 その光景は、そう、例えるなら典人のりとが幼い頃、お爺ちゃんやお婆ちゃんに聞かされた昔話に出てきた地獄かどこかで寿命を管理しているという部屋のイメージであった。

 ざっと見、10×10本。

 整然と並んでいる蝋燭。

 合計100本の灯りの付いた蝋燭の炎が静かに灯っていた。

 それを自覚した次の瞬間。

 典人のりとの心の中で、蝋燭の火が一本、揺らいで消えたような感覚がする。

「……レベル1ってところか」

 恐らくこれが『青行燈あおあんどんの呼び声』の緒札おふだの御利益なのだろう。

 『百物語』に(なぞら)えたレベルアップと言うやつだろうかと典人のりとは漠然と当たりを着けていた。

 今回レベルが上がったのは七枚の『緒札おふだ』を取り込んだからなのか? それとも牢獄核ろうごくかくを初めて取り込んだせいなのか? それともその両方なのか? 今一良く解らないが、兎に角レベルアップしたという表現は間違いなさそうだと典人のりとは感じていた。

 一先ず強い敵と戦わないとレベルアップしないという訳でもなさそうなので、多少は一安心である。まあ、それが何処まで通じるかも分からないのだが。

 それと同時に感じた事がある。

(これって、あの牢獄核(ろうごくかく)を全て自分の中に取り込まなきゃならないって事なのか?)

 それはつまり、この心の中にある蝋燭の炎が全て消える、つまり『百物語』が完成する『レベル100』にすれば日本に還れるかもしれないという事になる。

 あくまで典人のりとの勝手な推測と希望にしかすぎないが……。

 その思考と同時に典人のりとは再び意識が遠のいていくのを感じていた。


   ◇


「……さま」

遠くから声が聞こえる

「…お……さま」

 誰かが呼んでいる。

 誰だろうか?

 典人のりとには聞き覚えがあったような気がする。

「……御館様おやかたさま!」

 ふと意識が戻り目を開けると、そこには典人のりとを心配そうにのぞき込む垢舐あかなめの顔があった。

 どうやら垢舐めに膝枕をしてもらっているのか、後頭部に心地よい柔らかさが伝わってくる。と同時に柔らかい香りが鼻孔を擽り気分が落ち着く。

 と、典人のりとは更に気付く。

(この角度じゃ、胸で折角の垢舐めさんの色っぽい口元が見えないな。でもまあ、これはこれで絶景か)

 そんな事を考えていると、不意に額がひんやりとする。

 軽く右側を見れば、心配そうにのぞき込む雪女の手が、典人のりとの額に乗せられている。その手がひんやりとした心地良さを伝えていたのだ。

(やっぱり雪女だけあって手は冷たいのか。手の冷たい人は心が温かいって言うけど)

「いきなり倒れ込むからびっくりしました」

 声の方向、今度は軽く左を見れば、川天狗が心底安堵したという表情をその穏やかな顔に湛えていた。

 よく見れば、他の子たちも周りを囲んでいた様だ。座敷童ざしきわらしいたっては今にも泣き出しそうな表情を必死に抑えているのが実に健気で愛らしい。

「そうだねぇ、御館様おやかたさま小豆あずき洗いちゃんを押し倒した時にはご乱心したかと思ったけどね」

 からかう様にろくろ首が言う。

 気を失った直後、直前まで手を握られていた関係で、一番近くにいた小豆あずき洗いの方に倒れ込んできた典人のりとを受け止めたのは良かったが、体勢を崩してそのまま一緒に倒れ込む形となり、典人のりと小豆あずき洗いにおおいかぶさる体勢となっていたのだ。

「ふっ、不可抗力だ」

 その話を聞かされ、典人のりとは動揺する。

 急に頬が熱くなるのを感じていた。

「今度は合っていそうですわね」

 典人のりとの額に手を添えていた雪女が、ひたいからゆっくり手を離し柔らかく微笑む。

(クール系美少女の柔らかい微笑って、破壊力半端ないなあ)

 典人のりとは更に頬を熱くする。

「そうだね。倒れ込んだ時、御館様おやかたさまがしっかり掴んで握りしめていたモノについては不問にしようか。ねえ、小豆あずき洗いちゃん?」

 最後の言葉と同時に、ろくろ首は小豆あずき洗いの方にニマリとした笑みを向ける。

 するとろくろ首のその言葉に驚いて典人のりと小豆あずき洗いの方を見ると、小豆あずき洗いは顔を真っ赤にしてクリッとした大きな目を潤ませて両手で胸元を抑えながらこちらをジッと見つめてペタリと座り込んでいた。もちろん、見たと言っても、垢舐あかなめにしてもらっている膝枕はキープである。

「ふっ、不可抗力だ」

小豆(あずき)じゃなく、意外とあるかも。それだけに覚えてないとは何たる不覚! まったく感触に記憶がない)

 ろくでも無い考えが典人のりとの頭の中に浮かぶ。顔の熱さも手伝ってか、軽く混乱し始めているのかもしれない。

「もう、大丈夫そうですね」

 その考えが見透かされたのか? そのタイミングで垢舐あかなめが典人のりとに声を掛けた。

「えっ、あっ、ゴメン」

 典人のりとはその言葉に名残惜しさを感じつつ上半身を起こし、それから立ち上がり服を軽くはたく。

それに合わせて他の女の子たちも各々ゆっくりと立ち上がった。

 典人のりとは改めて周りを見渡してみる。

 牢獄核ろうごくかくの明かりが先程より増したおかげか、まだまだ薄暗くはあるが、大分部屋の中が見渡せるようになった。

 やはり、かなり広い部屋のようだ。いや、部屋と言うとあまり広く感じないからホールとか空間とか言った方がしっくりきそうだと典人のりとは感じていた。

すると、さっきはあまり目立たなかったが、足元の石畳には何やら線が引かれている事に気付く。

 形で言うと、三角形を二つ組み合わせた形。よくファンタジーアニメとか魔法関連のマンガとかで見る六芒星というやつだ。

 いや、六芒星に比べると形が少し歪んでいるだろうか?

「これ、六芒星? 魔法陣っていうヤツ?」

 誰にともなく問いかけてみる典人のりと

「『かごめ」です。わたくしたちが御館様を召喚する為の術式として描きました」

 川天狗が典人のりとの疑問に応える。

「召喚って、君たち6人でやったの?」

「6人? ううん、6人じゃないよ」

 座敷童ざしきわらしが言い終えた瞬間、それまでの部屋の中の雰囲気が一気に変わった。

「!!!」

 具体的に言えば、一気に部屋の中に人が増えたような感じ。静かな店から急にドアを開けて祭りの最中の大通りに出てしまった感覚。

 次の瞬間には典人のりとの周りには少し離れて囲むように、大勢の女の子達が取り巻いていた。

 ありえない事である。もう先ほどまで思っていた手品だとか特撮だとか言うつもりはないが、流石に異常過ぎる。

 ざっと見る限り、上は自分と同じ高校生くらいから、下は小学校低学年くらいまでだろうか?

 皆、典人のりとのことをニコニコしながら笑顔で見つめてきている。

 正直、パッと見ただけだけどどの子もかなり可愛い。

 一言で『可愛い』といっても『美少女』とか『綺麗系』とか方向性があるのだろうが、典人のりとにはそんな事を考え、一人一人をじっくり見ている余裕は無かった。

 少なくともこれだけの美少女たちに囲まれ、しかも間違いなく自分を見ている状況なんて、典人のりとが今まで産まれて生きて来た中で一度もありはしなかったのであるから。

 考えてみてほしい。

 そんな夢みたいな状況、そうそうあるだろうか?

 「ある」と答えたヤツがいるなら、「何処のアイドルだよ!」と典人のりとは突っ込みを入れていたに違いない。

 その子たちが示し合わせたように、典人のりとに向かって声を揃えて言った。


『「「呼びかけに応えてくれてありがとう、御館様おやかたさま!」」』


 後で典人のりとは知ることになるのだが、


 その数、100人!!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ