表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第壱鬼 百鬼繚乱編
25/94

第弐拾伍巻 気を揉んだ……結果

第弐拾伍巻 ()を揉んだ……結果


 牢獄核ろうごくかくによって作られたであろう結界の境界を見るために森の中に入った典人のりとたちだったが、境界付近で一つ角の大型兎に襲われる。

 獲物認定されロックオン状態になった典人のりとは一つ角の大型兎から逃げるため、坂を下って走っていたのだが、勢いが付き過ぎて止まれなくなってしまった。

 走り込む先には見ることはできないが牢獄核の結界の境界があり、先に『油取り』の亜鳥あとりが妖力で作り出した大きな串()を投げて見せた際、結界に触れると同時に消滅してしまったところから、衝突すればただの人間である典人のりとでは一溜まりも無く消滅してしまうであろうことが予想できる。

 それを助けるため、決死の覚悟で『藤原千方ふじわらのちかた四鬼(実は六鬼)』の『金鬼きんき』である千金ちがねが飛び込んでいき、典人のりとを確保するが、典人のりとが足をすべらせ千金ちがね共々坂の下、結界の境界へとすべり落ちていってしまった。

 二人は結界に触れ動かなくなり、皆慌てたが、しばらくして二人が起き上がるのが見えたことにより胸をでおろす。

 それから、皆が典人のりとたちのもとへ一斉に駆け降りていった。

「旦那様、ご無事ですか!」

 『清姫』の祈世女きよめ典人のりとたちの元へ真っ先に駆け寄ってくる。

「危ないだろ! 何やってるのさ典人のりとは。亜鳥あとりの投げた槍がどうなったのか見ていただろ! て、あれ? 典人のりと、怪我してるじゃないか! 鼻から血が出てるのか!? 大丈夫か!? 止血しないと!」

 続いて駆けつけて来てから怒っていた『血塊けっかい』の覇里亜はりあだったが、典人のりとが鼻から血を流しているのを見た途端、はすかまえて冷たい印象のある覇里亜はりあが予想外に心配して動揺してオロオロしている。

「大丈夫だから、ちょっとぶつけただけで大したことないから。何か詰めておけばそのうち止まるって」

「油取り紙なら持っているのですけど」

「止血に使えそうな植物を探してきましょうか?」

 『油取り』の亜鳥あとりと『木霊こだま』の麗紀れいきも心配している。

「傷口、メル?」

七帆ななほ、お主、それは……おぬしがめて大丈夫なのか?」

 『七歩蛇しちほだ』の七帆ななほと『妖狐』の璃菜りなも心配している?

「皆心配し過ぎだから。ポケットティッシュ持ってるから大丈夫だよ」

 そういうと典人のりとは取り出したポケットティッシュをヒラヒラと振って見せた。

「申し訳ありません。わたしが『金剛装気こんごうそうき』の防御膜を張っていたせいで、抱え込んだ際、私の胸に思いっきり打ち付けてしまいました」

 適当に言えばいいのに、忍を束ねる役回りのせいか生真面目なところのある千金ちがねは事実をありのままに皆に話した。

「そうでしたか。ですが、典人のりと様をお守りするためでしたし」

「それはお主のせいではなかろう。致し方のない事だしな」

 麗紀れいき璃菜りなが、千金ちがねを気遣って言う。

「ああ、なるほどな。あたいはてっきり典人のりとが、千金ちがねの胸に興奮こうふんしたのかと」

 覇里亜はりあは最初は一番(あわ)てていたにもかかわらず、事情を理解した今は思いっきりわざとらしいニタニタ顔で典人のりとをからかい始める。

「誤解だ! つうか、分かってて言ってるだろ覇里亜はりあ

「旦那様! そんな鼻血を吹き出すほど千金ちがねさんの胸がお好きなんですか!? ……わたしなら、言ってくださればいつでも……こうなったら何とか、天音あまねさんたちをかわして夜這よばいを……早速、今夜にでも……」

 初めに駆けつけてから、覇里亜はりあの隣で黙っていた祈世女きよめだったが、やがて何やらブツブツと危ない思考をらし始める。

「だから、今の千金ちがねさんの話聞いてたよね。(半分)誤解だから!」

(確かに途中から千金ちがねさんの胸で窒息ちっそくしそうになって、そこからのがれるために、千金ちがねさんの胸を思いっきりつかんだかもしれないけど。それはあくまで脱出の為だし、淡雪あわゆきちゃんも納得の完全な不可抗力だよな……って、ひっ!)

 『さとり』の慧理さとりがこの場にいたら、典人のりとの心を読んですかさず突っ込みを入れていたであろう。

 完全な誤解? と声を上げる典人のりとではあったが、祈世女きよめのそのれ出した危険なオーラに背筋を寒くし慌てて別の話題を振ろうと頭を巡らす。

「そっ、そう言えば千金ちがねさん。さっき、ここは結界の外って言ってたよね。一体どういう事?」

「「!」」

 それを聞いた他のメンバーもはっとなる。

「恐らく、結界が完全に消失しています」

「「えっ」」

 流石にこの言葉には皆が一斉に驚きの声を上げた。

「そんな!? まさか! 確かに、いくらまとまりがなかったとは言えど、あれだけのあやかしが挑んで無駄だったんだぞ! そんな簡単に解けてたまるか!」

 璃菜りなが白い狐耳をピンッと立て、周囲をさぐり始める。

 祈世女きよめ覇里亜はりあも、それぞれに辺りに意識を向けている。

「結界の境界がたまたま広がっただけとは考えられませんか?」

 麗紀れいきが疑問をていする。

「でしたら、また私が試して見ましょう。広がったにしてもどのくらい広がったか一応測れるでしょうし」

「そうだな。論より証拠。その方が早い師、ためしてみようか」

 皆で結界の境界があったであろう場所まで戻り、亜鳥あとり大きな串()を具現化させ、今度は充分な助走をつけ力一杯投擲する。

 先ほどの投擲よりもさらに勢いの付いた大きな串()が、先程よりも力強いギュンッという轟音と共に飛んでいき、今度は空中で結界に当たり消滅することなく、遠く、遠く、森の彼方へと消えて行った。

「「おおっ!」」

 その場にいた全員から驚きの声が上がった。

 亜鳥あとりは再度試しにとばかりに大きな串()を妖力で生み出しては結界の境界のあったところよりも外側に何本か投擲している。

 だが、やはり先程と違い途中で遮られる事も無く、そのすべてが青空に一直線に飛んでいき、その後綺麗な放物線を描きながら遥か遠くの森の中へと消えて行った。

「これはやはり、結界が消失したと考えてよいのではないでしょうか」

 その様子をながめながら亜鳥あとりがしみじみとつぶやく。だが、その表情は嬉しそうで、興奮しているのか力一杯何度も投げたせいか多少息が上がり頬が上気し、その頬に張り付いた飴色の髪と流れた一筋のきらめく汗が何か清々しい色気を感じさせた。

わたしと御館様が結界に衝突した際、確かに結界は発動していました。

 千金ちがねはその時の間隔を背中に思い出す。

「ああ、わらわたちの所からも結界に接触した時に生じていた波紋はもんは見て取れた」

 璃菜りなの返事に他の女の子達も頷く。

 結界に接触した時に生じていた波紋。

 これまで牢獄核の砦に跳ばされてきた魑魅魍魎ちみもうりょうの中で、妖術にたけた者たちがいろいろな方法で牢獄核の結界の解除、あるいは突破を図ってきた。

 しかし、その度にことごとく結界にはばまれ、妖力を吸収され、傷付いてきている。

 幸い、消滅に至った者はいなかったが、妖力を無駄にそして大量に消耗する結果となり、中には千金ちがねのように瀕死ひんしにまでおちいった者までいた。

 その際に幾度と無く目にすることになった忌々しい波紋。

「その時私は、何かガラスがくだけるような感覚を覚えたのです。

 それが砕けた。

「なんだって! 典人のりと、お主はどうだ? 何か心当たりは有るか?」

 信じられないと言わんばかりに、目を見開き璃菜りな典人のりとる。

「いやあ、全然覚えがないよ」

 典人のりとはその時、千金ちがねの胸に強打され鼻血を出し、千金ちがねの胸に押し付けられ窒息し掛け、それどころではなかったのだ。決して典人のりとは悪くない! 繰り返そう! 決して典人のりとは悪くない!

「……そうか」

「これは私の勝手な推測なのですが、もしかしたら御館様が結界に触れたことによって、結界が解除されたのではないでしょうか?」

「どうですか旦那様?」

 期待に満ちた声で、祈世女きよめがいつの間にかピタリとって典人のりとを見上げながら訪ねてくる。

「えっ、オレ? そう言われてもなあ、オレなんかにそんな事出来る訳ないじゃん」

 再度繰り返そう! 典人のりとはその時、千金ちがねの胸に強打され鼻血を出し、千金ちがねの胸に押し付けられ窒息し掛け、それどころではなかったのだ。決して典人のりとは悪くない! 再度再度繰り返そう! 決して典人のりとは悪くない!

「そうか! 典人のりとはあたいたちが召喚したその日に牢獄核ろうごくかくの一部を身体に取り込んでいたよね」

 何かに気付いたといわんばかりに覇里亜はりあがはっとなって声を上げた。

「確かに、旦那様と牢獄核の欠片かけらが一つになっていましたね……うらやましい」

 祈世女きよめがその事にうなづく。最後の方が何かおかしなコメントだが、それは一先ず脇に置いておくとしよう。

「なるほどな。いうなれば、典人のりと牢獄核ろうごくかくの牢獄のおりを開くかぎと言うわけか」

 璃菜りな覇里亜はりあの言わんとするところを理解したようで、例えるように自分の見解を述べてみせた。

「オレが鍵? だからオレなんかがそんな大した……」

 典人のりと謙遜けんそん気味に言葉を続けようとしたその時、典人のりとに異変が起こった。

 一瞬、心ここにあらずという目になる典人。

「どうなさいました旦那様?」

 典人のりとの異変にいち早く気が付いた祈世女きよめが問いかける。

「……レベル3って事か」

「旦那様?」

 そのつぶやきに、祈世女きよめいぶかしんで典人のりとたずねる。

「……どうやら、正解らしい。オレの中にある七枚の緒札おふだの中の一枚『青行燈(あおあんどん)の呼び声』が反応してオレの心の中にある蝋燭の1本……3本目が消えた」

「本当ですか?」

 麗紀れいきが確認する。

「ああ、間違いないよ」

 それを聞いて周りの女の子たちも喜びの声を上げた。

 森の中に黄色い声が響き渡る。

「一歩前進?」

 七帆ななほが、典人のりとに聞いてくる。

「ああ、その通りだよ」

 思わず典人のりと七帆ななほの頭をでていた。

 どうやら、典人のりとの思わぬ珍事ちんじにより、結界が焼失したらしい。

「文字通り『怪我の功名』だな」

 典人のりとは鼻にティッシュを詰めたまま良い笑顔を見せる。

典人のりと、お主は少しは危なかった自覚をもて」

 璃菜りなあきれたと言わんばかりの顔で典人のりとを見る。

「そうです旦那様! もし旦那様に万が一の事が有ったら、わたし冥府めいふてまで追いかけて行くところだったんですから!」

 涙目になりながら祈世女きよめがしがみ付いてくる。

 かなり重たい言葉だ。

 いつもなら、そんな祈世女きよめの言葉に冷や汗をかきつつ何とか話をらそうとあたふたする典人のりとなのだが、祈世女きよめの真剣な顔を見てしまっては、次に出て来る言葉はこれしかなかった。

 「ごっ、ごめん……それから心配してくれてありがとう」

 前進した事は嬉しい事には違いないが、一歩間違えていれば命を落としていた可能性すらあった。

 今更ながらに典人のりとの背中に冷たい物が走る。

 流石さすがに、能天気な典人のりともみんなの心配の言葉に素直に謝り、そしてお礼を言った。

千金ちがねさん、改めてありがとう。もしかしたらオレも千金ちがねさんも、あの槍みたいに消滅しょうめつしていたかも知れないのに助けに飛び込んできてくれて」

 典人のりとあらためて千金ちがねの前に立ち深々と頭を下げた。

「いえ、頭をお上げください御館様。忍は主の為に生き、主の為に死ぬのが定めですから」

「それは……」

 典人のりとは続く言葉を失った。

 何より、その言葉が嘘偽うそいつわりのない言葉であるからだ。

 たった今、身をもって体験し、身をもって証明して見せた言葉。

 現代日本の一介の高校生として何気ない平和な日常に生きる典人のりとにとってみれば、この言葉はある意味、祈世女きよめの思いより重たい言葉かもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ