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一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第壱鬼 百鬼繚乱編
23/94

第弐拾参巻 殺気! 兎に角逃げる!

第弐拾参巻 殺()! 兎に角逃げる!


 出発してから10分くらいだろうか。

 典人のりとたちは森の中をかき分けながら先を進んでいく。

 あんなところに砦があったにもかかわらず砦の入口を出ると、道らしい道は存在せず、ほどなくうっそうと茂る樹海の様相を見せていた。

「いつ頃からこの世界にいるの?」

わらわ等もそれ程前の事では無い。ごく最近の事だ。皆に話を聞いたところ、どうやら一番最初にこの世界に飛ばされてきたのは『座敷童ざしきわらし』のさきららしい」

 青々とした木々の生い茂る森の中を牢獄核の結界の境界に向かい歩きながら白い髪の妖狐の璃菜りな典人のりとの質問に答えている。

「ああ、前にそんな感じの話を絹姫きぬひめちゃんから聞いたよ。ふざけた話だけど、これを仕組んだヤツは『牢獄核』だけに座敷牢とでもシャレたつもりなのかな?」

典人のりとよ、お主なあ、ただ思い付きで知ってる単語を出しただけだろう」

 璃菜りなが目を細めて典人のりとを見る。

「あっ、分かる?」

「当たり前だ。全く緊張感の欠片かけらもない」

 璃菜りなが呆れたような顔をして目線を前方へと戻す。

「悪い悪い、そこから次々と飛ばされてきて、百を数えたところでピタリと止まったと言う訳だな」

「そういうことだ」

 10日間も雨が降り続いていたので、典人のりとは森の中も相当足場が悪いかと思ったのだが、土の質の関係か、思ったほど歩きにくくは無かった。

 山道なので上り下りや木の根が張り出したり岩が有ったりと、元々の足場の悪さはあるものの、すべるのさえ注意していればそれほどぬかるんでいないだけ何とか歩ける。

 なので、こうやって軽口を叩きながら歩くのもそれ程苦にはなってはいなかった。

 ただ、それほどというだけで、まるっきり疲れていない訳では無い。

 流石さすがと言うべきか、典人のりと以外の女の子たちに至っては何ら変わることなく平然として森を歩いている。

 むしろ典人のりとのペースに合わせているくらいだ。

 典人のりとは少しその事を気にしないでもなかったが、慌てて急いで歩いて葉っぱやこけに足を取られて滑って転んだのではそれこそ男の子として立つ瀬が無いと、軽口をたたいて足に力が入っているのを誤魔化している次第である。

 女の子たちにはバレバレであろうが。

 そこは男の子の見栄みえである。

 んでやってほしい。

「でも、よくここが異世界だって思ったね。日本の何処か山奥に跳ばされたという可能性は考えなかったの?」

「私たちも始めはそれを考えましたが、ここには日本各地様々な場所に住むものが集まっております。皆に聞いて回り、見知らぬ植物や生物が多数生息しているのを確認しております」

 『木霊こだま』である麗紀れいきらしい答えが帰って来た。

「ふうーん」

 そう言われて頷きつつ周囲を見渡すが、もとよりそれ程木とか草とかの植物に詳しい訳でもない典人のりとからすると、この世界に召喚される直前まで歩いていた森とさほど変わりが有るようには見えなかった。

「そう言えば、狩りもしていたって聞いたけど、結界内に動物とかはいたの?」

「結界は砦だけでなく、ある程度の森の部分を含んだ領域に貼られている様で、今のところおよそ半径500mくらいといったところでしょうか」

 今度は狩り(油取り)をする為、牢獄核の結界内をあちこち見て回っていたという『油取り』の亜鳥あとりが答えた。

「500m? 砦の広さとかでよく分からないけど、今ってもうそれ位森を歩いたんじゃないか? けど、全然結界らしきものは見えないんだけど」

「はい。恐らく、もう少しいくと、そろそろ牢獄核の結界の境界です。見ていてください」

「恐らく?」

 そして立ち止まり、亜鳥あとりが大きな槍、実際は串を妖力で具現化して出現させ、軽く何度か握りを確かめ、その場から数歩落ち葉を踏みしめ勢いをつけ槍投げの要領で空に向かって投げた。

 そのほそそうな用紙に似合わぬ力強い投擲とうてきにより、ギュンという音とともに大きなくしは勢いよく一直線に飛んでいく。

 だが、数十m程飛んだところでいきなり何かにぶつかったように波紋の様なものが見え広がり、ジリジリという音と電光のような輝きとともに大きな串が焼失してしまった。

「なっ!」

 典人のりとはそれを見て唖然としてしまう。

「ごらんのとおりです」

「あたいたちでも感知できないから近付き過ぎるのは危険なんだ」

 『血塊けっかい』の覇里亜はりあが警告する。

 覇里亜はりあは実際にみずから妖力で結界を作ることが出来るらしい。

 その覇里亜はりあが危険だと言っている。

 事実、典人のりとが召喚される前、この三人を含め結界を張れる者や術に精通している者達が結界の解除を試みているが、すべて徒労に終わり、妖力の無駄な消費になり、自らの妖力の枯渇を速める結果となってしまった。

「最初に結界に触れてしまったのはちゃんなんですよ。その時は運良く弾き飛ばされたため、多少怪我をしましたものの、消失は免れ事なきを得たという次第です」

 麗紀れいきが結界の存在に気付いた理由を教えてくれた。

「ああ」

 典人のりとはその話を聞いて思わず納得の声を上げていた。

 話している麗紀れいきはどこかの事を気に掛けているような表情を見せる。

 どうやら同じ山林で生きるあやかしとして気に掛けているのだろう。

 典人のりとは始め『牢獄核の間』で名付けの際に二人を見た時、顔立ちが似ていたため姉妹かと思ったが、『七人みさき』や『手長足長てながあしなが』のような姉妹設定はこの異世界に飛ばした何者かによって付けられてはいなかったらしい。

(さしずめ、麗紀(れいき)さんは優しく見守る近所に住む親戚の綺麗なお姉さんポジションっていうイメージってとこだな)

 典人のりとには二人の関係がそんな風に映っていた。

(もともと『』は森の中で遊んでいるあやかしって言ってたし……ちゃんのことだから、気にしないで何の警戒心も無く突進していったんだろうなあ)

 典人のりととしても何度か突進して来られているので、その光景は容易に目に浮かぶようだった。

(にしても、りてないな、あれは絶対)

 の無邪気な満面の笑みが頭に浮かび、典人のりとは思わず苦笑する。

「どうやら、結界内に入って来るのは自由らしいのですが、出ることが出来ないみたいです」

 『清姫』の祈世女きよめが付け加えてくれた。

「どういう事? ためした、ってわけじゃないよね。出られないんだから」

「ああ、それなら理由はいくつかあるのだけど、今分かり易いのだとあれかな」

 そういって璃菜りなが指をさした方向を典人のりとが見ると

「おっ、うさぎだ!」


 トットット


 結界の外と思しき場所から、こちらに向かって一匹の兎が走り寄って来る愛らしい光景が見えた。


 トットットット


「なあ、麗紀れいきさん」

「何でしょう典人のりと様?」

 だが、ちょっとした違和感に典人のりととなりにいた麗紀れいきに声をかける。


 トットットットット


「あの兎、角が有るように見えるんだけど」

「ええ、有りますね。『ネット小説』? に詳しいこころさんによると『一角兎』とか『ホーンラビット』とか言うらしいですよ。なんでもインド洋の島にもそれらしき動物がいるらしいとかいう伝承があるそうで」


 トットットットッド


「何か、結構大きいように見えるんだけど」

「そうですね、おおよそですが、わたし達と同じくらいの大きさに見えますね」

角の生えた熊くらいの兎が典人のりとたちをめがけて突進してきていた。


 トットットッドッド


「こっちにめがけて突っ込んできてるんだけど!」

「恐らく、私たちを獲物と認識したのでしょうね」

 麗紀れいきがその状況にもかかわらず、相変わらずのんびりとした口調で答えている。


 トットッドッドッド


典人のりと様」

「何っ?」


 トッドッドッドッド


「私、思うんです」

「何が!?」


 ドッドッドッドッド


「『とにかく』という言葉ですが、『兎』に『角』って書くのは当て字だって言いますけど」

「うん」


 どどどどど!


「日本の何処かに、ホーンラビット(角兎)がいた証拠なんじゃないかって」

「今どうでもいいですよねそれ!」

 長寿の木霊特有の穏やかさなのか、典人のりとは余裕も無いのに、そののんびり差に思わず突っ込みを入れていた。

 その次の瞬間。

「どわっ!」

 典人のりと大慌おおあわてで横へと飛びのく。

 もちろん、他の女の子たちも余裕をもって身をかわしていた。

 そしてその直後。 

 一つ角の大型兎が今まで典人のりとがいたところをものすごい勢いで通り過ぎていった。


  ドゴン!


 何かにぶつかった衝突音がする。

 典人のりとが振り返って見ると、大型兎の角が木を貫通している光景が目に入って来た。

「げっ! マジッ!」

 一つ角の大型兎はゆっくりと木から角を引き抜き、典人のりとの方に振り向く。

 パラパラと穴の開いた木から木片が崩れ落ちていた。

 普段なら愛らしいはずの兎が、その大きさと角、獲物を狙う目つきとが合い合わさって凶悪な気配をただよわせている。

 典人のりとと目が合う。

 さらにその赤い目がギラリと細められた。

「えっ、ウソッ!」

 どうやら典人のりとを正式な獲物と定めロックオンしたようだ。

 おそらく本能的にこの中で一番弱いと思われたのだろう。実際、間違いでは無い。

「マジかあ!」

 典人のりとは山の上の方へと駆け出した。


 ドスッドスッドスッドスッドスッ!


「うわあああ、なんかさっきより速いみたいなんだけど!」

典人のりと様、兎は天敵から逃げるために後ろ足が発達していますので、上り坂の方が得意なんですよ。実力を発揮し調子が良い状況を『兎の登り坂』と言う言葉もあるくらいですから」

 相変わらずの呑気のんき麗紀れいきの声。

「だから今、その知識いいから、これ何とかしてえ! どわあっ!」

典人のりとは必死に坂を駆け上がりながらも思わず突っ込みだけは入れていた。

 その間にも、一つ角の大型兎と典人のりとの距離はぐんぐん縮まっていく。


 ドスッドスッドスッドスッドスッ!


「うわっ!」

 典人のりとはまたも横に飛びのく。

 と、同時に典人のりとが今まで走っていたところを大型兎が通り過ぎて行って、すぐには止まれないのか少し先まで行ってからドゴンという音と共に木に衝突していく。

「はあ、はあ、はあ、あっぶねえ」

 典人のりとが荒い呼吸の中でも安堵の息を大きくつくと、パラパラという木片の崩れる音と共に角を引き抜いた大型兎がゆっくりと典人のりとの方を振り向いた。

 再びその赤い目が、獲物である典人のりとに向かってギラリと細められる。

「ひっ!」

 典人のりとは思わず恐怖の悲鳴を上げ、今度は反対側、下り方向に向かって走り出す。


 ドスッドスッドスッドスッドスッ!


「つうか、何でオレばっかり狙ってくるんだよ!」

「ご主人様こちらへ!」

 亜鳥あとりが手招きする。

「皆も逃げないと!」

「ご心配なく。おまかせください」

 女の子に任せて自分が逃げ回るのはどうかとも典人のりとは思ったが、見た目は兎も角、砦の中でも一番弱いであろう自分が何をできるわけでもなく、素直に指示に従うことにした。

「まかせた!」

 割と切り替えは速い典人のりとであった。

 典人のりとはそのまま勢いに任せて坂をけ下りるように亜鳥あとりたちの横を走り向けていく。

「はい」

 亜鳥あとりは気負いなく返事を返すと先程の槍、大串を妖力で具現化して構えの態勢を取った。

 今度は投げるのではなく突きを繰り出す為の態勢だ。

 同時に千金ちがねが前に出る。

「私が一時的に動きを止めますのでそのすきに。金剛装気こんごうそうき!」

 そういうと千金ちがねの身体全身にオーラの様な輝きの膜があらわれ、千金ちがねの全身をコーティングしたかのように薄っすらと輝きを放った。

 伝承では『藤原千方ふじわらのちかた金鬼きんき』と言われる千金ちがねは身体をはがねのようにしていかなる武器も跳ね返したと言われている。

「分かりました」

 亜鳥あとり千金ちがねこたえ、かまなおす。

亜鳥あとりくしノ先貸シテ」

 そこへ亜鳥あとりの横で『七歩蛇しちほだ』の七帆ななほが話しかけてきた。

「何? 七帆ななほちゃん、刺されてみたいの? いいわよ。七帆ななほちゃん可愛いから、いい油が取れそうだし」

「違ウ。ノリトノ役ニ立ツ。イイカラ貸シテ」

「はいはい」

 亜鳥あとり七帆ななほの前に差し出した串の先端に顔を寄せ、意外と長く細い舌で大串の先端をチロリと舐めてから、穂先を可愛らしくカプッと一噛みした。

「何したの?」

「投ゲテミレバ分カル」

「投げるの? 千金ちがねさんが抑えてくれてる隙に、頭でも刺した方が確実だと思うけど?」

「大丈夫。モット楽」

「はいはい」

 亜鳥あとりは言われるまま、一つ角の大型兎に向かって大串を投げつけた。


 ザシュッ!


 見事に大型兎の肩辺りに刺さる。

 すると、


 グギャアアアアッ!


と、悲鳴を上げて、


 ドスッドスッドスッ ドスッ ドスッ  ドスッ  ド


 大串が突き刺さってから七歩目。

 突如とつじょ、一つ角の大型兎は動きを止めドサリと地面に倒れ込んだ。

「何? 毒?」

「ソウ」

「でも後で食べるつもりだったのに、これだけ強力だと食べれないじゃない」

「大丈夫、麻痺毒デ毒素モスグ消エルすぐレモノ」

「それなら安心ね。でもじゃあ、さっさととどめを刺して油と血を抜かないと」

「解体、手伝いますね」

 麗紀れいきが一つ角の大型兎に近付いていき、手から木の杭のようなものを出して大型兎の脳天へと突き刺しとどめを刺す。

「今日の晩御飯は久々の血の滴るお肉だね」

 冷たい印象のある『血塊けっかい』の覇里亜はりあも、どことなく嬉しそうだ。

 千金ちがねまとっていた『金剛装気こんごうそうき』の防御膜のオーラを解いていた。

「終わりましたよご主人様。もう安全です……ご主人様?」

 亜鳥あとりが後ろを振り向いて典人のりとに告げる。

 だがしかし、後ろに隠れていると思った典人のりとはそこにはいなかった。

 そして、あらぬ所から声が聞こえてくる。

「うわああああ、誰かああ! 止めてくれえええ!」

 典人のりとは坂を勢いよく下っていた。

 結界に向かって。

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