表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一所懸命★魑魅魍魎♪  作者: 之園 神楽
第壱鬼 百鬼繚乱編
15/94

第拾伍巻 気が多い

第拾伍巻 ()が多い


「それじゃあ、枕返しちゃんは鞍魔くらまでどうかな?」

「有難うございます! お昼寝から終身まで必要な際は何時でもご用命ください御主人様!」

「えっ、あっ、うん、ありがとう。その時はよろしく」

 枕返しと名乗った少女は恐らく枕に関係する能力だからなのだろうと思ったが、ついついそのフカフカそうな胸元に目が行ってしまう典人のりとであった。

 あらぬ妄想まで浮かんできそうである。

 健康的な高校生の典人のりとが拒否する理由は何もない! 断言しよう。断じて何も無い!

 典人のりとが妄想の住人になりかけている一方で、たった今、鞍魔くらまと名付けられた枕返しの少女は一礼すると、長い黒髪を優雅に翻して列から外れていく。

 その髪からただよほのかな香りが典人のりと鼻孔びこうくすぐるが、その香りが落ち着かせると同時に何となく眠気をさそってくるような空気をまとっていた。

「ふわあぁぁ」

 典人のりとは軽く欠伸あくびをする。

(流石に疲れてきたかな?)

 やっと7割と言ったところだろうか。

 この名付けの『百鬼昼行ひゃっきちゅうこう』もようやく最終コーナーを曲がろうとしていた。

「えっと、次の子、どうぞ」

 典人のりとは気分を引き締め治し、次の子を呼ぶ。

「「「よろしくお願いします」」」

 恰好も雰囲気も三者三様といった感じの子たちではあるが、とても仲良さそうに典人のりとの前に並んで立っている三人の女の子。

 右から、虎隠良こいんりょう禅釜尚ぜんふしょう槍毛長やりけちょうと名乗った少女たち。

 外見は三人共、年のころは典人のりとと同じくらいだろうか。

 虎隠良こいんりょうと名乗った少女は黄色と黒の髪の毛が染めている訳でもないのに綺麗に分かれている。その頭には恐らくは虎耳が生えているのであろうが、顔の可愛らしさから言って、どうしても猫耳と称したくなる。腰には巾着を下げ、それと何故か庭を掃く熊手を担いでいる。

 禅釜尚ぜんふしょうと名乗った少女は三人の中では一番落ち着いた感じのする少女で、前髪は茶色の髪を額が隠れるくらいに伸ばし、穏やかな目元が人を安心させる雰囲気を醸し出している。

 槍毛長やりけちょうと名乗った少女は長い赤髪が目を引く女の子で、名前に付いている通り槍を担いでおり、こちらも何故か腰の辺りに木槌きづちをぶら下げている。

 パッと見、何とも三者三様でバラバラな取り合わせだなと典人のりとは思った。

 その関係性は不明だが、この三人娘は印籠の付いた熊手、座禅を組んだ茶釜、木槌の付いた毛槍の姿で、幾つかの絵に一緒に描かれている事が多い。

(仲良さそうだし、関係性が分かる方がいいよな……んっ? 三人とも名前に「よう」が付いてるな。よし)

「それじゃあ、虎隠良こいんりょうちゃんが陽虎ようこちゃんで、禅釜尚ぜんふしょうちゃんが陽泉ようせんちゃんで、槍毛長やりけちょうちゃんが陽槍ようそうちゃんでどうかな?」

「「「ありがとうございます!」」」

 揃ってお礼を言って列から外れる三人娘。

(こうやって見ていくと、バラバラだったとは言ってもそれなりに仲間同士で集まっていたりはするんだな。まあ、当たり前と言えば当たり前か)

 百人の魑魅魍魎ちみもうりょうなんて一生涯のうちに正に一堂に会して眺める機会などまず有り得ない状況なのだが、仲良し三人組の後姿を微笑ましく見送りながらそんな感想を浮かべていた。

「えっと、次の子、どうぞ」

 典人のりとはあともう一息とばかりに次の子を呼ぶ。

 すると、一瞬のうちに、

金鬼きんき!」

火鬼かき!」

水鬼すいき!」

土鬼どき!」

風鬼ふうき!」

隠形鬼おんぎょうき!」

「「「「「「我ら! 藤原千方ふじわらのちかた四鬼よんき!」」」」」」

 背後でカラフルな色の付いた爆炎がドカーンと上がりそうな声と共に複数の女の子がそれぞれポーズを決めて典人のりとの前に突如現れた。

「……はあ?」

 典人のりとはしばし口をポカーンと開けてその光景を見やっている。

「決まりましたね」

「パーフェクトだよ!」

「バッチリです!」

「完璧!」

「ナイスポーズだね!」

「悩殺間違いなし!」

 呆気に取られている典人のりとの反応はどこ吹く風と女の子たちはキャーキャーと今の登場の仕方に満足そうにはしゃぎながら感想を言い合っている。

「はっ! ちょっと待て! 四鬼って1、2、3、4、5、6人いるじゃないか!?」

 どうやらようやっと再起動した典人のりとが浮かんだ疑問を口にした。

「初めから六鬼でしたよ」

「あたしたち、常時四鬼で、時折交代制で入れ替わってたんだよね」

「でもよく数えれば六鬼いたの分かりそうなものですけど」

「昔の情報伝達網だからねぇ。それぞれバラバラに伝わってたまたま四鬼ずつしか伝わらなかったみたいだね」

「凄い偶然だよね。あはは」

「情報戦の勝利」

 この『藤原千方ふじわらのちかた四鬼よんき』は天智天皇の時代の伝説で、伊賀・伊勢を支配していた藤原千方ふじわらのちかたという架空の人物とされる豪族に仕えた四鬼の事である。一節には忍びの元とも考えられている。

つかえていた人がいた訳だから、それを残してあげた方がいいかなあ)

「えっと、それじゃあ、金鬼きんきさんが千金ちがねさんで、風鬼ふうきさんが千風ちかぜさんで、火鬼かきさんが千火ちかさんで、水鬼すいきさんが千水ちみずさんで、土鬼どきさんが千土ちづちさんで、隠形鬼おんぎょうきさんが千隠ちがくれさんでどうかな?」

「「「「「「はっ、つつしんで拝領致はいりょういたします!」」」」」」

 今までのかしましさは何処に行ったのだろうと疑問に思うくらいの神妙な態度で、片膝を突き頭をれて一斉に典人のりとに礼を述べる六鬼。

 その一糸乱れぬ統率の取れた行動はやはり主君を持っていた者ならではの雰囲気をまとった所作そのものであった。

 考えてみれば、今までの魑魅魍魎ちみもうりょうの中に誰かにつかえていた、あるいは誰かに奉公していたというのは意外と少なかった。

 そんな中で、集団で誰かに仕えていたというのはかなり稀有けうな存在であろう。

「おっ、おう」

 典人のりとはその真摯しんしな態度にしばし飲み込まれ圧倒される。

 だが、その次の瞬間には、

「せっかく名前を頂いたのだから、新しい登場ポーズ考えない?

「いいね、気分一新」

「じゃあ、個々の名乗りも考え直さないとですね!」

「順番どうする?」

「立ち位置も考え直そうか?」

「早速、作戦会議」

「「「「「賛成」」」」」

 またもキャーキャー言いながらその場を離れていく6人娘を見送りながら、今度は違う意味でしばし圧倒され呆然とする典人のりと

「……」

(テンション高いなあ。それにしてもかしましい×2の忍びってどうなんだろう?)

 典人のりとはちょっと話しただけだけど、大きなお世話かも知れないが、話の中で忍びと言っていたが、あれが忍びで良いのかと疑問に思ってしまう。まあ、切り替えの早さは忍びらしいとも思えなくもないが。

(地獄の門番もアレだったしなあ)

 ここ数時間で魑魅魍魎ちみもうりょうのイメージがガラガラと音を立ててくずれていくのを実感する典人のりとであった。

「えっと……次の子、どうぞ」

 取りあえず気を取り直して、次の子を呼ぶために声を掛ける。

「「「「「「「次は私達の番ね」」」」」」」

(また、団体さん来た~!)

 典人のりとは思わず心の中で悲鳴を上げる。

 別に嫌だという訳では無いが、独りずつ名前を付けて行くのでも頭を悩ませているのに、複数人を短い時間で一気に考えるのはなかなかに難しい。

「うっ! 同じ顔が7つ! 七つ子!?」

「「「「「「「私達は『七人みさき』なんだよ」」」」」」」

 見事なビューティフルハーモニーで典人の反応に応じる七人みさきと名乗った少女達。

 本来の『七人みさき』は四国地方・中国地方に広く伝わる伝承の亡霊や妖怪とされ、海辺や川辺に現れ、人を取り殺すと言われている。その数は常に七人で、一人取り殺されると七人みさきの誰かが成仏し、取り殺された者が新たに死んだ者の代わりに七人みさきに加えられてしまうと言われている。

 なので、この7人の集団には元は関係性があった集団だったかもしれないが、恐らく現在は本来の関係性は皆無であろう。にも拘らず、ここにいる少女達は生き写しの様にそっくりな色白の肌をした黒髪の美少女七姉妹といった姿をしている。多分これも『牢獄核ろうごくかく』に閉じ込めた者の仕業であると思われる。

「……ちなみに、見分け方は胸元のほくろの数。……鎖骨の辺りって言うのと典人のりとはどっちが好み?」

「俺はどっちかって言うと……って答えるか!」

 フォローの為にか、そばによって来た『さとり』の慧理さとりが耳元で教えてくれた。典人のりとは思わず七人姉妹? の胸元をながめながら大きさも同じくらいで見分けが付かないななどととぼけた考えにひたりそうになっていたが、慧理さとり誘導尋問ゆうどうじんもん? に気が付いて、ハッと我に返る。

「……ふむふむ、そうなんだ。典人のりとはそっちか」

「「「「「「「ねぇ、まだ~」」」」」」」

「うわっ!」

 慧理としりと掛け合い漫才の様な事をやっていると、いつの間にか前に並んでいた七人みさき達がぐるりと一周取り囲んでいた。

(7チャンネルサラウンドスピーカー!)

 先ほどの『藤原千方ふじわらのちかた四鬼よんき』……六鬼たちの一糸乱れぬ動きとはまた違い、こちらは息ピッタリと言う表現がしっくりくる動きである。

「よし! 胸のほくろの少ない順に、みさお、みさら、みささ、みさと、みさり、みさの、みさな!」

「「「「「「「おお~!」」」」」」」

 勢いにまかせた典人のりとの名付けに、七人姉妹? から同時に感心の声が上がる。

 その際、チャッカリ慧理さとりから教えてもらったばかりのお得情報をしっかり活用している典人のりとであった。

「……おらさとりのな(オラ、慧理さとりの名)。もしかして、わたしの事好き?」

「偶然だ!」

 相変わらずの慧理さとりの突っ込み。

「「「「「「「有難うございます、典人のりと様!」」」」」」」

「うわっ!」

(解っていても7チャンネルサラウンドスピーカーは迫力が違うな)

 などと典人のりとはその場から外れて行く7姉妹を見つめながら、微妙にずれた感想を抱いていた。

 そして、この後も典人のりとは面接をしつつ延々と百人(?)の魑魅魍魎ちみもうりょうたちの名前付けを行っていくのであった。

 ……。

 ……。

 ……。

「やっ、やっと終わったあ!」

 机が有ったらその場に突っ伏したい気分の典人のりとは思わずその場にヘタリ込んでいた。

 よくよく考えれば、流れと勢いから始まったとはいえ、数時間休みなしで立ちっぱなしで名付ける必要は無く、何処かから適当な机と椅子が有れば運んできてもらえばよかったと、後になって思い付いて溜め息を漏らす。

 それを可能にしたのは女の子たちが皆見ているだけで頬が緩みそうなほどの容姿をしていたからこそで、そうでなければ到底こなせなかっただろうなと、典人のりとは振り返っていた。

「甘いものは如何ですか?」

 突如、横合いから差し出されたおわんに、典人のりとおどろく。

 見れば、小豆あずき洗いと名乗っていた少女が、典人のりとわきで身体をかがめておわんを持って微笑んでいた。

「これは……おしるこ?」

「はい。妖力で出した小豆あずきを、砦の調理場を使って造ってみました。どうぞ、お腹に貯まると思いますよ」

 大きな瞳をクリッとさせて小豆洗い、あずさという名を貰った少女が微笑んで言った

「お疲れ様でした」

「咄嗟の思い付きで良い名前が思いつけなかったかもしれないけどね」

 おわんを受け取りながら、照れくさそうに典人のりとが答える。

「ふふっ、そんな事ありませんよ。皆喜んでいますから。本当に有難うございます」

 周りを見渡せば、皆思い思いの場所で、『座敷童ざしきわらし』のさきらや『川天狗かわてんぐ』の天音あまねたちが配っているおしるこを受け取って食べていた。

 と、典人のりとの視線に気づいたのか、ホール内が一瞬静まり返り、次の瞬間、

『名前を付けてくれてありがとう!』

 と、申し合わせたかの様に一斉にお礼の言葉が、典人のりとに向かって飛んでくる。

 それだけで、典人のりとは今までの疲れが吹き飛んだ様な気がしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ